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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第10章 蹂躙戦争
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第12話 ティア

「おまえが気にする必要はないんだ……」


 私の正体に気が付いたフィリップさんが涙を流していました。

 それは、後悔によるものでしょう。


「それに5年以上もの間黙っていやがって」


 私に向かって槍を突き出して来た兵士の槍を跳ね上げ無防備となったところを斬る。

 相手は、徴兵された農民だったらしく装備は正規の物を与えられていましたが、それを扱うだけの技量が身に付いていませんでした。そのおかげで軽く弾くだけで槍を防ぐことができました。


「私は皆さんの仲間でいられたことを誇りに思いますよ」


 初めてフィリップさんたちと『イリスティア』として対面した時には私は10歳となっており、『イリス』だった頃の面影は既になくなっていました。


 そのおかげで私が『イリス』だと知られることなく今まで一緒に冒険者として仕事をすることができました。


「これは、私の誓いです。気にするなというのならフィリップさんこそ気にしないでください」


 10年前の帝国との戦争時。

 クラーシェルに住んでいた私と私の家族は帝国の騎士に襲われ、私の家族は私の目の前で斬殺されてしまいました。

 父は家族に襲い掛かろうとしていた騎士を倒そうとしてあっという間に斬り殺され、私を守ろうと騎士に背を向けて抱えた母は背中を斬られて死んでしまい、直前まで手を繋いでいた兄もいつの間にか斬られて死んでしまっている。


 何が起こったのか分からないまま私も斬られるんだと思った瞬間、紅い閃光が駆け抜け帝国騎士を次々と斬り倒していきます。


「助けに来たよ」


 赤い閃光と思われたのは美しい紅髪を肩まで伸ばした女性で剣を使って私たち家族の敵を次から次へと倒していきました。

 そして全員を倒すと周囲に倒れる家族の姿を見て、


「ごめんね。間に合わなくて」


 悲しそうな表情を浮かべていました。


 あなたがそんな顔をする必要はない。

 悪いのは全て家族を殺した帝国軍なんだから。


 そう言いたかったのに幼い当時の私では想いを言葉にすることができず、黙っている間に紅髪の女性がどこかへと行ってしまいました。


 戦争は数日後には休戦となって帝国軍が引き返していきます。


 その後、家族を失って身寄りのない私は街の教会近くにある孤児院へと引き取られます。家族を失った悲しみ、慣れない環境。それらに耐えながら私が真っ先にしたことは戦場となった街で私を助けてくれたお姉さんを探すことでした。


 一言でいいからお礼が言いたい。


 お姉さんを探すのは難しいことではありませんでした。

 無邪気な子供ながら「紅い髪をした凄く強いお姉さん」で探すと街で有名な冒険者であったことが分かりました。


 けれども会うことは叶いませんでした。

 お姉さん――ティアナさんは私を助けた後で負った傷が原因で亡くなってしまっていたそうです。


 ティアナさんは、そんな傷を負いながらも帝国軍を追い返す為に戦い続けて最も大きな戦果を挙げるほど敵を倒していました。


 けれど、ティアナさんはもういない。

 次に帝国軍が攻めて来た時にはティアナさんなしで戦わなくてはならない。


 誰が?

 ティアナさんに助けられた私がティアナさんの代わりをするしかない!


 孤児院で体が大きくなるのを待ちながら必死に鍛えてフィリップさんたちと出会い、必死に頼み込んでパーティに入れてもらい彼らに色々と教わりながらティアナさんのような力を身に付けるのを夢見ていました。


 そうして、クラーシェルにいる人もそうですがパーティメンバーだったフィリップさんたちを守る。


 だから――


「これは、私の誓いなんです」


 戦場の真ん中で傷を負ったフィリップさんに止めを刺そうと近付いてくる帝国軍兵士を斬る。

 もう消耗なんて気にしていられません。



 ☆ ☆ ☆



「馬鹿野郎が!」


 自分を守る為に戦い続けるイリスティアの姿を見ながら俺は涙を流し続けていた。

 初めて会った時、ティアナの代わりとなるメンバーを探して何人もの冒険者と一緒に臨時のパーティを組んでいた。


 だが、5年が経ってもティアナの代わりとなるような人物は見つからなかった。


 もう諦めよう。

 そんな雰囲気が3人の中に漂っていた時に出会ったのが駆け出し冒険者のイリスティアだった。


 髪の色は紅と青で全く違ったが、どこか出会った頃のティアナを彷彿とさせるような少女だった。そのためパーティ内に反対する者などなく俺たちのパーティに迎えた。


 新しくパーティに加わった少女の存在は俺たちに違和感なく溶け込んだ。

 最初こそ少し戦える程度の力しか持たなかったイリスティアだったが、少し教えるだけで次々と俺たちの経験を吸収していった。


 そうして成長するにつれてティアナに似ていった。

 俺たちの誰かがティアナと恋仲だったというわけではなかったが、俺たちの誰かとティアナの間に子供がいればこんな感じになったのだろうか、と父親のような気持ちにさせられた。


 だが、今になって後悔する。

 彼女はティアナに『似ていった』のではなく、ティアナに『似せていって』いたんだ。


 俺たちの知らないところでティアナについての話を聞き、容姿や口調からティアナのようになろうと意識していた。


 そんな娘の心情に気付けなかった。


 母親の代わりに俺たちを守りたい。

 そんなことにすら気付けないなんて父親失格だ。


「動けよ、俺の体……!」


 片腕を失ったぐらいがなんだ。

 まだ片腕が残っているんだから娘を助けるぐらいの力は残っているだろ。


 どうにか片手を地面に突きながら立ち上がる。


「きゃっ」


 吹き飛ばされたイリスティアが俺の懐へと飛び込んでくる。

 胸で受け止めて左腕で優しく受け止める。


「大丈夫か?」

「……はい」


 正面を見ればハルバードを持った騎士が立っていた。

 あいつが娘を攻撃してきたのか。


「お前はここで休んでろ」

「そんな、片腕しかないのに戦うなんて無茶です!」

「片腕あれば十分だ」


 どのみち片腕を失ってしまった身だ。

 今後は冒険者として仕事をすることができないし、逃げたところでそれは変わらない。


 今回、緊急事態ということで冒険者に対して強制依頼が出された。


 強制依頼は、中級冒険者であるBランク冒険者が拒否すると5年間の冒険者資格の停止となる。そして、上級冒険者であるS・Aランクの冒険者が拒否した場合には永久停止となる。

 イリスティアを除くメンバーはBランクだが、既に全盛期を過ぎてしまった俺たちに5年間の資格停止は死を意味している。

 それに娘が残っているのに俺たちが逃げ出すわけにはいかない。



 ☆ ☆ ☆



 立ち上がろうとしていたフィリップさんを無視して前に立つとハルバードを持つ騎士に対して剣を構える。


「まだ立ち上がるか」

「当り前です」


 どれだけ倒せたのか。

 少なくとも20人以上は斬ったはずですから個人の戦果として考えれば称賛されるべきものかもしれません。


 けど、ティアナさんの戦果に比べればずっと少ない。

 結局、私は強くなろうと努力したもののティアナさんの強さに手が届くことはなかった。


「悪く思うなよ。これが戦争だ」

「思うに決まっているでしょう」


 勝手に攻め込んできて悪く思うな?

 そんな勝手が許されるはずがありません。


 少しの間諦めていた命ですが、ティアナさんに少しでも追い付く為に最後の最後まで足掻くことにしましょう。


「帝国軍は全員私が斬ります」

「……いい面構えだ」


 周囲では今も何百人という人数が戦っていて、奥にはもっと多くの帝国兵が残されています。


 倒すべき敵はまだまだ残っている。

 決意を新たにしているとハルバードを持った騎士が前に歩み出て……頭が爆散しました。


「……え?」


 目の前にいた騎士だけではありません。

 最前線にいた帝国軍の兵士の体が次々と爆散していきます。


 クラーシェル側の兵士には無傷。


「いったい、何が起きている!?」


 それは、クラーシェル側のものだったのか帝国側のものだったのか誰かが驚く声が響いてきますが、その答えを持っている人物は誰もいませんでした。


「上?」


 帝国兵を爆散させている物の正体を探ろうとすると上空から撃ち出された衝撃によって体が吹き飛ばされていることが分かります。

 肉体を吹き飛ばすほどの衝撃となると相当な魔法になります。


 上空を見上げると太陽の光の中に人影があるのが分かります。


 その人は、ゆっくり降りてくると私のすぐ傍に着地します。


「その、コートは……」


 1度だけ出会ったことのある人物が着ていた真っ黒なコート。


 どうして、アリスターにいるはずの彼がこんな場所に?


 彼――マルスは、私の方を振り向くと、


「助けに来たよ」


 そんなことを言った。

 性別だって違う、身長だって高い、声も低い。色だって紅と黒で違う。私自身も成長して立っているから見上げるしかなかった高さから近付いている。何もかもが違う。


 だが、同じ言葉。

 その言葉を聞いた瞬間、涙が流れてくるのを止められなかった。


 嬉しさと悔しさ。


 ティアナさんに助けられた時と同じ言葉を言われて『助かったんだ』という思いから嬉しく思い、強くなったつもりでも私は今でも助けられる側の人間だったという事実が悔しい。


「さあ、反撃開始といこうか」


 大軍勢を前にして緊張した様子のない青年の姿はただ格好よかった。


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