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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第10章 蹂躙戦争
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第11話 戦争

「くそったれ!」


 エリックさんが前に出て両手を突き出すと正面に白く輝く盾――マジックシールドが出現します。

 マジックシールドは魔法ではなく、魔力を盾のように固めて敵の攻撃を防ぐ魔力技能です。その効果は、魔法攻撃と物理攻撃のどちらも防ぐことができますが、どちらかと言えば魔法攻撃を強く防ぐことができます。


 だからマジックシールドで火球を防ぐのは理に適っています。


 ですが、数が多すぎます。

 軍隊から放たれた火球は数百にも及び1人で防げる数ではありません。


 しかし、火球が向かう先は私たちではなくクラーシェルの外壁。

 どうにかして防ぐしかないのです。


 本来なら術者本人を守るように小さく展開されるマジックシールドを上下左右に大きく広げて全ての火球を防ぐつもりでいるみたいです。


「手伝う」

「助かる」


 クルトさんのパーティメンバーである魔法使いも火球の前に立ってマジックシールドを展開します。


「この……!」


 私も何本もの氷の槍を出現させて火球へとぶつけて爆発させます。

 そうしていると私が爆発させた火球以外にも爆発する火球があることに気が付きます。街の外壁の上から放たれた魔法や矢によって火球を爆発させているみたいです。


「ハァハァ……」


 肩を動かすほど息をしているエリックさん。


「どうだ」


 ニカッと笑みを浮かべるエリックさん。

 30を過ぎたおじさんですが、仕事をやり遂げた姿は正直言ってカッコいいと思えました。


 だから、直後の倒れて行く姿が信じられません。


「エリックさん!」


 地面に倒れる前にエリックさんを抱えて横にします。

 エリックさんの胸にはナイフが深々と突き刺さっており、傷口から血が流れ出ていました。


「今、治療します」


 水属性と光属性に魔法適性がある私は、攻撃も得意ですが、それ以上に傷ついた人の治療が得意でした。


 とにかく止血しなくてはいけない。

 ナイフを引き抜くと血がさらに流れ出てきましたが、すぐに魔法を使って止血させます。次に活力を復活させて意識を手放させないようにします。


「しっかりしてくださいエリックさん!」

「いや、治療は最低限でいい……」


 弱々しいエリックさんの声。



「俺はさっきの防御でほとんど魔力を使い果たした。まだ、ある程度なら戦えると思っていたが、この怪我だと戦場にいるだけで足手まといになる。なによりイリスティアが使い物にならない」

「そんな……」

「そういうわけで自分の足で帰れる程度に回復したらクラーシェルまで戻るよ」

「分かり、ました」


 どうにかエリックさんの一命を取り留めます。

 しかし、治療をしている間に攻撃がなかったことには感謝をしなくてはなりませんね。

 とはいえ、あの光景を見させられると素直に感謝を述べる気持ちになりません。


「ハハッ、楽しいな」

「貴様、また腕を上げたようだな」


 2人の男が戦場で笑いながら魔法を撃ち合っていました。


 1人はアイヴィードで、前に突き出した両手から衝撃波を弾丸のようにして敵へ発射しています。


 もう1人は魔法使いの男で、おそらくガルガッソというアイヴィードのライバルのような方です。

 ガルガッソは、周囲に電撃を発生させ、電撃を利用して衝撃波を逸らして防御すると指先から電撃を矢のように撃ち出してアイヴィードを攻撃しています。


 2人を中心に風と電撃が荒れ狂っているせいで誰も近づけません。


「フィリップさん!」


 いえ、1人だけ隠れるように近付いて来たローブを着た男がいます。

 その男は両手に持った2本のナイフでフィリップさんのガントレットと打ち合っています。


「チッ、仕留めきれなかったか」


 男が帝国軍側へと逃げて行きます。



「追うな!」


 男を追おうとした私をフィリップさんが止めます。


「でも……!」


 フィリップさんの言いたいことは分かる。

 帝国軍側へ逃げた男を追えば私が敵側で孤立することになる。そんな危険な状態に晒されるわけにはいかない。そういうことなのでしょう。


 ですが、状況を考えれば彼がエリックさんを攻撃した相手で間違いありません。

 頭では正しいと分かっていても感情が踏み止まってくれません。


「俺の、ことは気にするな」


 当のエリックさんが気にするなと言うのだから男のことは諦めるしかないようです。


「戦場では自分が生き残ることを優先させろ」


 それだけ言い残してエリックさんが後方へと戻って行きます。

 それと入れ替わるようにクラーシェルから何百人という兵士が出てきます。

 さらに呼応するように帝国軍からもアイヴィードとガルガッソの戦いを避けて進軍が開始されます。


「街から出て来ていいのですか?」


 街には外壁があるのだから籠城という選択肢もあったはずですが、街から出てしまっては何もない草原で真正面から戦うしか選択肢が残されていません。


「それしか選択肢がない。外壁があるから魔物の攻撃や武器の攻撃には耐えられるだろうけど、魔法を連発で撃たれると耐えられない。籠城をする為にはエリックがさっきやったようなマジックシールドを扱える魔法使いが何人も必要になるんだ」


 本来なら王都やアリスターのような近くにある街から魔法使いを呼び寄せてマジックシールドで耐えながら籠城をしたかった。


 そうして稼いだ時間で王都から帝国軍に対抗できるだけの戦力を呼ぶ。

 しかし、時間のない開戦によってクラーシェルの外で野戦をする以外の選択肢が残されていなかった。


「俺たちにできることは敵を倒して……倒し続けることだけだ」

「そう、ですね」


 敵を斬り続ける。

 既にクラーシェルでの勝利はあり得ない。街の西側から住人が逃げ出すだけの時間を稼ぐぐらいしか私たちにはできない。


「行きましょう。今、この時の為に私は力を付けて来た」


 今度は何も奪わせない。

 彼女のように何者をも守れる力が欲しい。

 帝国軍から飛んできた火球に向かって放てる限りの氷柱を放って誘爆させる。


「突撃!」


 後ろから来た騎士の号令に従って兵士が軍勢に突っ込んで行きます。



 ☆ ☆ ☆



 斬って、斬って、斬り捨てる。


 そんなことをいつまで続けていただろうか?

 魔法を使って隙を生み出し、剣で斬る。既に10人以上斬ったが、一向に敵の数が減った気がしません。


 それも仕方ありません。

 東側における戦力差は5倍以上。

 その差は時間が経てば経つほど現れるようになります。


「ぐはっ」


 また兵士の1人が槍に貫かれて倒れています。

 その兵士も奮戦していた方ですが、同時に5人の敵を相手にした状態では奮戦するのが精一杯です。


 敵の数が多い状態での野戦で勝つなど不可能だったのです。


「……それでも!」


 疲れ始めた体に鞭を打って戦場を駆ける。

 兵士と戦っていた帝国兵を後ろから斬り捨て倒す。


 戦場では別の敵がすぐに襲い掛かって来る。すぐにその場を離れようとした瞬間に凄まじい電撃が横を通り過ぎて行きました。いえ、その前に何かが吹き飛ばされていましたね。

 戦場が一瞬の沈黙に包まれる。


「どうやら今回も俺の勝ちみたいだな」


 電撃の放たれた方を見ると右手から白煙を上げるガルガッソがいました。

 帝国軍、クラーシェル軍関係なく巻き込まれた電撃の放たれた先では、地面に仰向けに倒れたアイヴィードがいます。


「く、くそっ……」


 どうにかして立ち上がろうとしているようですが、強力な電撃をまともに受けてしまったアイヴィードに立ち上がれるような様子はありません。

 それは、アイヴィードの敗北を意味しています。


「さて、これで俺も戦線に復帰できるな」


 アイヴィードとの戦闘で魔力を使い果たした様子ですが、後方からやってきた兵士から薬の入った瓶を受け取ると一気に煽って魔力を回復させます。


「ククッ……この高揚感。これがあるから戦場は止められない」


 両手から放たれた電撃がクラーシェルの兵士を次々と吹き飛ばして行きます。


 グレンヴァルガ帝国軍の中でも最強格の魔法使いの戦線復帰。

 それは、ギリギリのところで戦い続けていたクラーシェル軍にとっての絶望となる事実です。


「クソッ!」

「フィリップさん!」


 近くで戦っていたフィリップさんが電撃をガントレットで叩き落とし、その肩に矢が突き刺さり、側面に回り込んだ兵士が剣でガントレットに覆われていない肩の根元からフィリップさんの右腕を斬り飛ばしてしまいます。

 その姿を見た瞬間、私は駆け出しフィリップさんの腕を斬り飛ばした相手を斬り殺し、正面に2メートルの氷壁を生み出して安全な地帯を作り出します。魔力を想像以上に消費してしまいましたが構っていられません。


「傷を見せて下さい」

「見る必要なんかない」


 肩から斬り飛ばされたフィリップさんの腕からは大量の血が流れ出しており、手の施しようがない状態でした。


「我慢してください」


 傷口を氷で覆って一応の応急処置を施します。

 他の回復魔法で処置をしたところでどうにかなるような傷でない以上、これ以上悪化しないようにするのが精一杯です。


 私の生み出した氷壁が砕ける。

 咄嗟に生み出した氷壁程度では10秒程度の時間を稼ぐのが精一杯で兵士に武器を叩きつけられたことで砕けてしまいました。


「邪魔をしないで下さい!」


 振り返りながら氷壁を砕いた2人の兵士を斬る。

 そのまま剣を構えてフィリップさんを守るようにその場に立つ。


「おい、何をしているんだ」

「私が守らないと……」

「さっき言ったことを忘れたのか!? 戦場に立つなら俺たちのことなんか気にせずにお前は自分が生き残ることを考えろ!」

「いいえ、今だけは『ティアナ』さんに代わって私がみなさんを守ります」

「おまえ……あの時の少女か!」


 フィリップさんには気付かれてしまったみたいですが、私にはフィリップさんたちだけではなく、クラーシェルに住む人々を見捨てるという選択肢は最初からありませんでした。

 この命が尽きる瞬間まで街の人たちを守る為に戦う。



1000VS5000にすら届かない戦いで戦わなければならないのに勝てるはずがないよ。

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