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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第10章 蹂躙戦争
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第6話 露見

 誕生日を祝ってもらった翌日。

 俺とシルビア、メリッサは屋敷の掃除をしていた。昨日は酔って騒いだ後で片付けに参加しなかった罰としてシルビアとメリッサの2人にアイラから屋敷の掃除が言い渡された。俺は主役なので必要ないと言われたが、申し訳ない気持ちがあったので手伝っている。


 今は、春になって伸びてきた雑草を刈っている。


 庭の隅には2つの墓石がある。

 俺とシルビアの父親の物だ。


 墓石に向かって手を合わせて、俺が迷宮主になってからもうすぐ1年になることを報告する。


「マルスはいるか!」


 目を瞑って墓石に向かっていると兄の声が響き渡った。

 昨日はアイラと一緒に飲み比べるように大量のお酒を飲んでいた兄だが、今朝にはいつも通りの姿に戻っており、騎士団の方へと赴いていた。


「どうしました?」


 庭から兄のいる屋敷の門の方へと移動すると息を切らせて騎士鎧を着た兄がいた。

 普通、騎士鎧を着たまま屋敷に帰って来るような真似はしない。これまでに騎士鎧を着たまま屋敷へとやって来たのは、領主の護衛時と領主に呼ばれた俺を呼びに来た時だけだ。


「領主様がお呼びだ」

「アリスター伯爵が?」


 やっぱり後者だったか。

 けど、領主に呼ばれるようなことをした覚えはない。


「行くのは俺1人ですか?」


 以前に領主から呼び出しを受けたのはシルビアと出会うきっかけとなる王都までの配達依頼の時だ。

 その時はパーティ結成前だったため俺1人しかいなかったからパーティメンバーのことなど気にする必要はなかった。


「領主様からは特に指定されていない」

「だったら連れて行きましょう」


 面倒事だった場合にはメリッサがいてくれた方が心強い。


「シルビアさんはどうしますか?」


 兄が来た時点で既に近くで待機して話を聞いていたメリッサ。


「領主様は急いでいるようでしたか?」

「ああ……」

「だったら話を聞いたらすぐに出発できるよう2人とも連れて行こう」


 掃除が途中になってしまうが、領主からの呼び出しを無視するわけにもいかない。


 シルビアは目に見える場所にいたので手招きして近くへ来るように呼び、リビングのソファで惰眠を貪っていたアイラを叩き起こす。暇なら掃除を手伝え!



 ☆ ☆ ☆



「冒険者マルスをお連れしました」

「入ってくれ」


 領主の館にある応接室の1つへと案内され、扉の奥から声が響いてきた。


 兄が扉を開けると部屋の中にあったソファには領主であるキース・アリスター伯爵が座っていた。

 そして、その隣にはギルドマスターがいる。


 どうしてギルドマスターまでいるんだ?


「失礼します」


 アリスター伯爵たちの対面にあるソファに座る。

 兄と応接室で待機していたもう1人の騎士がアリスター伯爵たちの後ろに立って護衛としている。


「悪いが、お前は退室してくれないか?」

「なぜですか!?」

「彼とは少々内々に話をしなければならない。騎士であっても聞かせるわけにはいかない」

「では、クライスが残るのはなぜですか!?」

「彼は家族だ。これから起こることを知る権利がある」


 アリスター伯爵は全く引く様子がない。

 長年騎士として仕え、主の性格を知っている騎士が応接室を退室していく。


「申し訳ない。これからする話を聞かれるわけにはいかなかった」

「それは構わないですけど、何か依頼をされるのではないのですか?」

「最終的には依頼をするつもりでいる。しかし、その前の話を誰かに聞かれるのはマズいと判断して退室させた」

「はあ……」


 何か意図があるらしいが、まだ分からない。


「まずは私の方から説明させてもらおう」


 なぜか、この場に同席しているギルドマスターから説明を受ける。


「冒険者ギルドには遠方との通信が可能になる魔法道具(マジックアイテム)が存在する。その魔法道具を使って昨日の夕方頃にクラーシェルの冒険者ギルドから救援要請があった。内容は『グレンヴァルガ帝国から奇襲を受けている』というものだ」

「それは……」


 内容はとても受け入れられるようなものではなかった。

 シルビアはよく分かっていないみたいだが、メリッサには事の深刻さが分かっているようだ。


「クラーシェルについては知っているか?」

「はい」


 かつて遺跡探索の依頼で出会ったイリスティアという名前の少女が本拠地にしている街だ。

 クラーシェルは、隣国であるグレンヴァルガ帝国との国境に最も近い都市で10年前に戦争があった際にはクラーシェルが真っ先に戦場となった。

 そのため国の重要な防衛拠点でもあるクラーシェルは不測の事態に備えて多くの戦力が必要だった。


「クラーシェルでは当然のように諜報部隊も抱えている。彼らは以前から帝国が戦争を仕掛けるつもりがあり、兵力を用意しようとしていることには気付いていた。しかし、帝国内での様子を観察していた彼らが気付かない内に食料や武器が用意されてしまっていたらしい」


 戦争は個人ではできない。

 人員を揃えて、彼らに必要な武器や食料を用意して初めて戦争ができるようになる。

 さすがに人員を揃えていることには気付いていたみたいだが、武器や食料を用意している様子に気付けなかったせいで最初の対応が遅れてしまったみたいだ。


「それで、現状はどうなっているんですか?」

「クラーシェルと帝国との間には2つ村があるが、奇襲に対応できず昨日の内に2つの村は占領されてしまった。幸い、と言うべきか国境に一番近い村では兵士や男性に被害を出しながらも多くの住民が逃げ出してくれたおかげでクラーシェルに近い村の方では被害を出すことなく全員がクラーシェルへと逃げ出すことができた」


 村にも数人の兵士はいるが、彼らは戦争をする為にいるのではなく村内の治安維持や村の周囲にいる魔物退治が専門だ。

 戦争を仕掛けて来た相手と戦えるはずがない。


「これは、戦争ですか?」

「そのように認識している。敵の規模も10年前の戦争時に匹敵するほどらしい」


 わざわざ戦争という言葉を使ったということは敵の数は少なくとも数千から数万になる可能性がある。


 ギルドマスターが言っていたように10年前にも帝国と戦争があったことは話に聞いて知っている。

 その時は、メティス王国側も帝国側の動きを事前に察知することができていたためクラーシェルに戦力を集中させて対処することができていたらしい。クラーシェルは戦争時に備えて何万もの戦力が戦えるよう強固な高い壁で街の周囲を覆われているとのことなので戦力さえあれば戦うことは可能だ。


 しかし、今回は奇襲に全く対応できておらず籠城する為の戦力にも足りていないだろう。


 前回の戦争に関する話は全ては聞いた話だ。

 10年前というと俺たちは5歳か6歳の子供で村の出身や国境からは遠く離れた場所の出身である為に当時は戦争を気にしたこともなかった。


「クラーシェルが奇襲を受けて困っていることは分かりました。現在は、少ない戦力でクラーシェルが籠城戦をしているといったところですか?」

「最後に通信のあった状況を考えるとその可能性が高い。村の占領は先遣隊が行っており、クラーシェルにはその先遣隊の中でも実働部隊である6000が向かい、支援部隊である4000は村に残っているらしい」


 実働部隊がクラーシェルを占拠。その後、支援部隊が武器や食料を持ってクラーシェルで合流するつもりみたいだ。


「それで、冒険者である俺たちにそんな話をしてどうするつもりですか?」


 冒険者に話をする理由は分かる。

 アリスターとクラーシェルはそれほど離れていない。クラーシェルから南へ馬で足を延ばせば1日も掛ければ辿り着くことができる。巻き込まれる可能性を考えてアリスターからも戦力を送ろうということだろう。


 けど、俺たちだけに話をする理由が分からない。

 冒険者全体に話をするならギルドで冒険者を集めてからした方が効率はいい。


 その疑問に答えてくれたのはギルドマスターではなく、アリスター伯爵だった。


「依頼内容はクラーシェルへの救援だ。ただ、今回の依頼だが、冒険者である君に依頼しているのは当然だが、それ以上に迷宮主(ダンジョンマスター)である君でなければ対処できないと思って依頼させてもらった」


 ……迷宮主?


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