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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第10章 蹂躙戦争
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第5話 誕生日パーティ

 誕生日当日。

 朝から迷宮の地下37階に籠もって釣りをしている。


 起きてダイニングへ行くなり「今日は夕方まで外出していてください」なんて言われれば何かを企んでいるのは丸分かりだ。


「ま、自分の誕生日を教えなかった俺も悪いんだけどな」


 相手の誕生日を祝うことばかり考えていて自分の誕生日を祝ってもらうことを考えていなかった。

 そのため誕生日を教えるのを忘れていた。


『みんないい子だよね。主の誕生日が近いって知った瞬間に慌てて誕生日プレゼントを用意していたんだから』


 最初はサプライズに協力して俺にも黙っていた迷宮核だったが、今朝の態度から誕生日について知ったことに気付いたことを迷宮核に知らせたところ3日間誕生日プレゼントに頭を悩ませていたことを教えてくれた。


 そういえば昨日一昨日と妙にソワソワしていたな。

 理由が分かると申し訳ない気持ちがこみ上げてくる。そこまで悩まなくてもいいのに。ちなみにプレゼントの内容については迷宮核から聞いていない。


『ふふ、愛されているね』

「うるせ」


 妙な気恥しさを感じて素っ気なく返事をする。

 迷宮核は俺が1人だった頃から子供のような口調でありながら父親や兄のように心配してきた。そのせいで主の誕生日を祝おうとしてくれる眷属がいることを自分のことのように喜んでくれていた。


「そろそろ夕方か?」


 残念ながらソワソワしているのは俺も同じだ。


 迷宮の中だと太陽の浮き沈みがなく、階層によって違うものの明るさは常に一定なので時間の感覚が曖昧になる。しかも地下37階はリゾートエリアとして造られているせいで太陽は天頂にあった。ビーチにイスでも置いて寝ていればあっという間に日焼けしてしまいそうだ。実際には空にあるのは本物の太陽ではなく、光魔法によって作られた疑似的な太陽――光源だ。気分を味わえるだけだ。

 感覚的にはそろそろ夕暮れでもおかしくない感じだ。


『まだ午後2時だよ? ほんの1時間前にシルビアの作ってくれたお弁当を食べたばかりなのにもう忘れたの?』


 そうだった。ランチを食べたことすら忘れてしまった。


「まあ、時間になったら教えてくれ。それまでは釣りをしていることにする」

『了解』


 結局、夕方になって迷宮核に呼ばれるまでソワソワしっ放しだった。


 しかも今日の釣果はゼロ。原因は、ソワソワしていて釣り針に付けていた餌がいつの間にかなくなっていたことに気付かなかったことだ。リゾートエリアにいる魚は天敵がいないせいで警戒心が薄く、自分よりも小さな魚を見つけただけで簡単に餌に食い付くが、さすがに餌が付いていなければ釣れるはずがない。

 まあ、ちょうどいい時間潰しになったのは本当だ。



 ☆ ☆ ☆



 夕方になったので屋敷の門の近くへ転移する。

 いきなり屋敷の中へ転移して誰かがいた場合、相手を驚かせてしまうことになるので普段から屋敷へ帰る時に転移する場合には、こうして門の傍に転移して玄関から帰るようにしている。


「もう、いいかな?」


 屋敷の中の様子が分かる迷宮核に確認してもらう。

 シルビアたちには誕生日を忘れている体で帰りたいので念話することもできない。


『うん、大丈夫だよ』


 迷宮核の許可が得られたので玄関を開けて屋敷の中に入る。

 いつもは灯が灯されているはずの廊下が真っ暗でリビングのある場所から灯が漏れていた。

 まあ、何があるのかは予想できる。


 ゆっくりとリビングへ近付いて行くと……


『誕生日おめでとう』


 いつの間に用意したのか全員が手に持ったクラッカーで歓迎してくれた。

 リビングは造花が綺麗に装飾されており、普段から屋敷に住んでいる面々だけでなくガエリオさんたち家族もいた。


「ありがとうございます」


 誕生日の準備をしてくれていることは分かっていたが、11人もの人から実際にお祝いされると涙が出てくるほど嬉しい。


「あら、そんなに嬉しかったの?」

「母さん」

「今日はあなたの誕生日をお祝いする為に色々と準備をしていたんだから主役はここに座っていなさい」


 部屋の中心にあった椅子に座らされる。

 普段はソファやローテーブルが置かれているリビングだが、大人数が食事をできるように大きなテーブルが置かれており、テーブルの上には肉やサラダ、シチューといったいくつもの料理が並べられていた。


「今日の夕食は私とオリビアさん、ミッシェルさんで作ったわ」

「普段からお世話になっているお礼です。一杯食べて下さい」

「私は本当に少しばかり手伝っただけなんですけどね」

「ありがとうございます」


 11人分のパーティ料理は母たち3人で用意したものらしい。

 てっきり料理上手なシルビアのことだから腕によりを懸けた料理を誕生日プレゼントにするつもりだと思っていたのだが、違ったみたいだ。


「残念ながらシルビアのプレゼントは料理であって料理ではありません」

「どういうことです?」

「シルビア!」

「は、はい!」

「持って来なさい!」


 なぜか娘に命令しているオリビアさんに言われて奥のキッチンへと向かったシルビアが持ってきたのが大きなケーキだった。1メートルくらいある積み上げられたスポンジに生クリームをふんだんに使ったケーキ。


 誕生日ケーキがシルビアのプレゼントか。


「実は、以前に料理の本を読んでケーキの作り方は知っていたのですが、なかなか作る機会がなかったうえにオーブンを持っていなかったので作ることができなかったのですが……」

「ご、ごめんなさい……オーブンを買うのにわたしの持っているお金だけでは少し足りなかったので家のお金から借りてしまいました……」


 シルビアは生活費を使ってしまったことを恥じていた。

 屋敷のキッチンにも小さなオーブンは最初から備え付けられていたが、張り切ってケーキを作るには不足していたということだろう。


「いいよ。今回の料理にだってオーブンは使われているんだろ?」


 テーブルの中央には鳥の丸焼きがある。

 さすがに小さなオーブンで作るのは難しい。


「それだけじゃないんです。材料費だって……」

「俺の為を思って用意してくれたんだから気にしないよ」


 むしろ嬉しくて仕方ない。


「じゃ、料理を食べる前にあたしたちの方からもプレゼントを渡してしまいましょう」


 アイラが収納リングからケースを取り出して俺へ渡してくる。

 許可を貰って蓋を開けてみると魚の形をした道具が入っていた。


「これは?」

「ルアーっていうらしいわ。王都でも釣りを趣味にしている人がいるみたいで今は餌を使うよりもその道具を使う方が流行っているんだって。で、知り合いの職人に話をしてみたら快く造ってくれたわ」


 もらったルアーはただのルアーではない。

 ルアーから魔法道具のような感覚があったので魔力を流してみると生きているみたいに体を震わせた。

 これからも地下37階にはちょくちょく行くことになるし、大切に使わせてもらうことにしよう。


「私からはこれです」

「ブレスレット?」


 メリッサが渡してくれた小箱には銀色のブレスレットが入っていた。


「今、王都で流行っている装備品で効果は体力を1%上昇させてくれるそうです」

「おお」


 普通は1000もあれば超人と見做される。

 その1%なら10程度の上昇でしかない。


 装備品としての効果は薄いが、アクセサリーの1つとして流行っているらしい。


「気に入ってくれたみたいですね」

「ああ」

「わざわざ王都まで買いに行った甲斐がありました」


 空間魔法の説明は聞いているので王都まで行くのにそれほど時間は掛かっていないだろうが、わざわざ買いに行ってくれたという事実が嬉しい。

 早速もらったブレスレットを付けてみる。


「似合っていますよ」

「ありがとう」


 装備品としての効果もしっかり出ているなら170近く上昇しているはずだ。


「私からのプレゼントも受け取ってください」


 妹のクリスが渡してくれたのはペンだった。


「ペン?」

「お兄様はいつも雑貨屋で買った安物のペンしか使わないではないですか」

「まあ、そうだね」


 冒険者として体を動かしている時間の方が長いため書類と向き合うようなことがないため安物のペンを何本も消費していた。

 特別困っていなかったので問題視していなかった。


「これからお兄様は上級冒険者の仲間入りをするかもしれないのですからそんな人が安物のペンを使ったままでは示しがつきません。シルビアさんたちの為にも私のプレゼントしたペンを使ってください」

「わ、分かった……」


 クリスの妙な迫力に押されて承諾してしまった。


「さ、料理が冷めてしまっては問題ですから食べましょう」

『はい』


 その後は和気藹々とした食事タイムが続いた。

 自分の店からお酒を持ち込んだガエリオさんが俺に酒を無理矢理飲ませたが、1杯だけはどうにか耐えて飲んだ。


 クラクラする頭を押さえながらリビングの様子を見ているとオリビアさんとミッシェルさんが自分たちの娘を傍に置きながら笑顔で談笑していた。対して話を聞いている娘の2人は顔を赤くして母親から視線を逸らしていた。


 アイラは兄とお酒を飲んでいる。


 冒険者の俺たちは比較的自由に仕事をすることができるけど、明日も朝から普通に仕事がある兄はお酒をほどほどに控えてほしいところだ。


「よかったわねマルス」

「母さん」

「みんなあなたのことを第一に考えてくれるいい娘たちね」

「そうですね。少なくとも今みたいな楽しい時間が守れるなら誰とだって敵対するつもりですよ。やっぱり俺には小さな物を守っている方が性に合っています」


 迷宮主になったからといって何か大規模なことをするつもりはない。

 村で兵士になろうとしていた時と同じように自分が守るべき少数を守れればそれで満足だ。


 食後に全員でシルビアの作った特大ケーキを食べさせてもらったが、お店で食べられるようなスイーツよりも甘く美味しかった。


 ケーキを食べ終えてお開きとなったところで、シルビアとメリッサにいきなり両腕をガシッと掴まれた。

 ……え、なに?

 酔った2人が「親に倣う」とか言って2階へと連れて行く。

 逃げられそうにはありませんね……。


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