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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第10章 蹂躙戦争
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第4話 アイラのプレゼント相談

アイラ視点です。

「あたしは、誰に相談しよう」


 シルビアは屋敷の掃除をしていたオリビアさんにプレゼントの相談をしていたみたいだし、メリッサは実家のある方へと駆けて行った。おそらく両親に相談するのだろう。

 そうなると親のいないあたしには相談相手がいない。


「どうしよう……」


 期限は刻一刻と迫って来る。


 あたしの足が自然と向いたのは――冒険者ギルドだった。

 冒険者ギルドは、時間がちょうどお昼ということもあってギルドを利用する冒険者の数は少なかった。冒険者の多くが外に出て依頼を片付けている最中だからである。


 そんな余裕のある時間を使ってギルド職員も休憩をしている。

 中には目当ての受付嬢をランチに誘おうとしている男性冒険者もいたが、受付嬢の表情から承諾する可能性は低そうだ。


 あたしも受付嬢の前に行く。


「ようこそアイラさん。今日は1人で依頼を受けに来たのですか?」


 あたしたちパーティの担当になっているルーティ。


 あたしたち4人はパーティを組んでいるが、常に一緒に行動しているわけではない。単独で行動する時は、自由に過ごしていいことになっており、シルビアはメイドとして屋敷で働いているし、メリッサは実家の手伝いや魔法の練習をすることが多い。


 特にやることがないあたしは、1人で討伐依頼を受けて訓練することが多い。

 なので、今日も討伐依頼を受けに来たと思われたらしい。


 だが、今日は依頼を受けに来たのではなく、依頼を受けてもらいに来たのだ。


「実は……ルーティに相談に乗ってもらいたいの」

「相談、ですか?」

「もうすぐマルスの誕生日なんだけど、誕生日プレゼントに何を贈ればいいのか分からないの」


 相談相手に困ったあたしが頼ったのがルーティだった。

 ギルドで受付嬢をしている美人のルーティならプレゼントを貰った経験も豊富でいいアドバイスを貰えると思ったからだ。


「相談内容は分かりましたけど、なぜ私なのですか?」

「ルーティはマルスがこの街に来てからの知り合いでしょう?」

「まあ、担当としてギルドで1番接しているのは私でしょう。ですが、アイラさんには冒険者の知り合いがたくさんいますよね」


 たしかに単独で依頼を片付けている内に眷属の中では1番冒険者の知り合いが多い。元々1人だった頃から冒険者をしていたので見知らぬ土地の冒険者に馴染むのに苦労はしなかった。


 だけど……だからこそ彼らに相談するわけにはいかなかった。


 彼らの中では、あたしはそこらにいる男の剣士よりもずっと強い女剣士だと思われている。

 そんなあたしが男への誕生日プレゼントに悩んでいる。


 とてもじゃないが、打ち明けられるような内容じゃなかった。


 その点ルーティなら秘密を守ってくれると安心できるぐらい信頼しているし、何よりマルスのことにも詳しいはずだ。


「いいですよ。ちょうど休憩時間ですし、向かいにあるレストランでランチを奢ってもらえるなら相談に乗りましょう」

「ありがとう!」


 向かいにあるレストランで10分ほど待っているとルーティがやって来た。

 やって来たルーティがおススメを2人分注文したので、料理が来るまでの間に相談することにしようとしたのだが……


「そういえばマルス君の誕生日は明後日でしたね」


 あたしたちでさえ昨日知ったばかりの情報を知っていた。


「ど、どうして知っているの!?」

「もちろん本人から聞いたからです」

「そんな……」

「と言っても世間話のついでに聞いただけです。『誕生日の3日後に父親が行方不明になった』と話していましたから冒険者登録をした日から計算して知っていただけです」


 つまり、マルスには誕生日を教えたつもりはない。

 むしろ父親が行方不明になって大変だった頃の話をしたのだろう。


 本人が教えたわけではないことにちょっと安心してしまった。


「マルス君が冒険者になってそろそろ1年ですか……早いものですね」


 途中から加入したあたしでもマルスと一緒にいた時間は早く感じられた。それだけ色々なことをして刺激的だったということだろう。


「いえ、まずはマルス君への誕生日プレゼントですね」

「そう。何かいい案でもない?」

「マルス君の性格を考えると手作りの何かを贈るよりも実用的な物をプレゼントした方がいいですね」

「実用的な物……」


 装備品とかそういう物かな?

 マルスを通さなくても迷宮核に頼めば強力な装備品は用意してもらえると思う。けど、それがあたしの用意したプレゼントかと言われると微妙なところだ。


「別に冒険者だからといって装備品である必要はありませんよ。何か趣味にしていることがあるなら、それをプレゼントにするのもいいです」

「趣味……そういうことなら釣りね」

「釣り、ですか?」


 ルーティが訝しむようにあたしのことを見てくる。

 彼女が不審に思うのも無理はなく、辺境であるアーカナム地方は緑豊かな大地と森が延々と続いており、海とは無縁な場所だ。森の奥には湖や川があるので釣りのできる場所が全くないというわけではないが、そういう場所は凶暴な魔物が出現するので静かさを要求される釣りには向かない。


 けど、アーカナム地方の中でもアリスターだからこそのポイントがある。


「釣りをできる場所なら迷宮にもあるじゃない」

「え、迷宮に釣りをできる場所なんて……」


 ルーティが迷宮の構造を必死に思い出している。

 迷宮の地下36階~40階は海フィールドとなっており、砂浜のある島を進んで下の階へと繋がる転移陣を探す仕様になっている。島の外にある広大な水の中には迷宮の力で繁殖された魚が自由に泳ぎ、魚介類が豊富にあるので手に入れることができれば魚が手に入りにくいアリスターでは高値で売ることができる。

 しかし、迷宮も魔物が出現することは変わらない。


「それが迷宮の地下37階は魔物が出てこないようになっているのよ」

「そういえば、全く魔物が出てこない階層として聞いたことがあります」


 ルーティが言うように地下37階に魔物は出現しない。


 かつて地下37階を造った迷宮主によって地下37階は全長1キロほどの島に美しい砂浜があり、周囲に広大な海が広がっているだけで魔物が出現しなければ財宝もない階層となっていた。

 それは、一獲千金を求める冒険者にとっては価値のない階層だったが、安らぎを求める者にとってはリゾートとなる場所だった。


「たしかに地下37階ならゆっくりと釣りができますね。普通は、海フィールドまで辿り着ける冒険者はほんの一握りの冒険者だけで、そこまで辿り着けるだけの実力があるなら一獲千金を求めて下の階層へ下りて行きます。海フィールドでの魚介類の回収は、小遣い稼ぎ感覚で冒険者が行ってくれるぐらいなんですよね」

「それが、高値で取引されることに味をしめたみたいですっかり地下37階で釣りをすることにはまっちゃったらしくて暇があると釣り道具を持って迷宮に籠もるようになっちゃったのよ」


 ただし、釣りをする時に迷宮主としての力は使わない。

 迷宮主として売る為の魚を確保しようとすれば釣りではなく、漁のような漁獲量を得ることができる。

 だけど、売る為に大量の魚を手に入れるのではなく、純粋に釣りを楽しんでいるので乱獲はしない。


 1年前は借金返済の為に一獲千金を夢見て危険を覚悟のうえで迷宮に挑んでいたというのに今では迷宮で釣りを楽しんでいる。

 迷宮主として遊びすぎだ。


「そういうことなら釣り道具をプレゼントするのはどうですか?」

「でも、そういうお店をアリスターで見たことがないけど」


 辺境であるアリスターでは釣りの需要が少ない。

 そのため釣り道具を扱っているお店もない。


「たしかに釣り道具を扱っているお店はありませんが、アリスターは辺境ですから武器や防具の製造を担ってくれる職人が多くいます。その人たちに頼めば何か作ってくれるかもしれません。幸い、アイラさんはそういった人たちと親しくしているみたいですから伝手もあるでしょう」


 ルーティに言われて知り合いの職人を思い出す。

 パーティメンバーは迷宮から手に入れた武器を使っているため、あれほど高ランクの武器だと劣化も最小限に留められるため自分たちの手入れだけで済む。けれども剣士としての技量を大切にしているあたしは武器の性能に頼らずに戦えるようになっておきたい。なので、1人で活動していて危険の低い討伐依頼の時には普通の武器で戦うようにしていた。

 そうなると武器の入手や手入れの為に職人の力が必要になる。


「ありがとう。知り合いのところに行ってみるわ」

「いえいえ……それよりもいいんですか?」


 その時、ようやく料理が運ばれてきた。

 ランチを食べたら早速知り合いのところへ向かわないと。


ちなみにマルスが使っている釣り道具は迷宮操作:宝箱(トレジャーボックス)で手に入れた物です。

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