表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第9章 商会抗争
164/1458

第18話 空の倉庫

 リンドバーグ男爵を引き摺ってメリッサと一緒に奥にある部屋へと入る。

 この部屋はグリーソン一家のリーダーであるサルマが依頼人や大切な客との話に使う為の部屋で、4人の襲撃者たちが戻って来るまでリンドバーグ男爵と何かの話をしていた。

 そのため部屋の中にはちょっと豪華なソファとテーブルが置かれていた。


 引き摺って来たリンドバーグ男爵をソファに放り投げて俺たちも向かいにあるソファに座る。


「ぼ、僕にこんなことをしてタダで済むと思っているのか!」


 体を震わせながら40過ぎのオッサンがそんなことを言ってくる。

 その姿は滑稽にしか見えない。


「そんなことを言える立場だと思っているのか? グリーソン一家は既に壊滅した。依頼主であるお前を未だに生かしているのは情報が欲しいからに過ぎない」

「情報だって!?」


 グリーソン一家に依頼を出したのはリンドバーグ男爵で間違いない。

 しかし、リンドバーグ男爵の他にも今回の一件に誰かが関与しているのは明らかだ。


「あんたのことはこっちのメリッサが噂程度なら知っていたからグリーソン一家に依頼を出せるような資金がないことは知っていた。それは、ポロッと領民から徴税したって言っていたから納得しよう。けど、道中で使ったような魔物誘引の罠は金があれば手に入るような代物じゃない。どうやって手に入れた?」


 あの罠は高度な技術を必要としていた。

 そういった魔法道具(マジックアイテム)を手に入れる為には魔法道具の研究を専門にしている相手から直接手に入れる必要がある。果たして貴族とはいえ、落ち目同然のリンドバーグ家に手に入れられるような代物なのか。


「僕がどうしてお前たちみたいな平民の質問に答えないといけない?」


 ニタニタと気味の悪い笑みを浮かべながらそんなことを言ってきた。

 仕方ないのでこちらも笑顔になりながら掲げた右手に電撃を纏う。


「ヒッ!」

「自分の立場を理解していないようだな」


 手をゆっくりとリンドバーグ男爵の方へと下ろしていく。


「――ガルガンド商会だ」


 恐怖に耐え切れなくなり、ある商会の名前を言った。


「ガルガンド商会?」

「あそこですか……」


 俺には聞き覚えのない名前だったが、メリッサには知っている名前みたいだ。


「ガルガンド商会はここ数年で規模の大きくなった商会です」

「アルケイン商会みたいに?」

「いえ、たしかにアルケイン商会も短期間で規模が大きくなった商会ですが、それには10年以上の歳月が掛かっています。対してガルガンド商会は数年という短期間で、アルケイン商会に迫る勢いで規模を大きくしています。それを可能にしたのはアルケイン商会と違って商売敵となるような相手を脅したり、商売をできない状況に追い込んだりしていたためです」


 そんなことをして大丈夫なのか?


「ガルガンド商会には後ろ暗いことを請け負う組織があるだろうと言われていたのですが、それがグリーソン一家だったということでしょう」


 メリッサは顎に手を何かを考える素振りをした後で部屋の中を物色し始めた。


 部屋はサルマの執務室も兼ねていたようで机やクローゼットも置かれていた。


 何か考えがあるみたいだし、そっちはメリッサに任せよう。


「それで、ガルガンド商会にどういう関係がある?」

「最初にガルガンド商会が僕のところに来てアルケイン商会にミレーヌが戻ってきていることを知った。それで……復讐したくはないかと言われて大急ぎで依頼をする為に必要な資金を掻き集めた。後は、ガルガンド商会に紹介されたグリーソン一家に依頼を出して僕との縁談を断ったことを後悔させてやりたかった」


 魔物誘引の罠はリンドバーグ男爵が用意していたわけではなく、リンドバーグ家とグリーソン家の両方のバックにいたガルガンド商会が用意した物だったのか。


「少し面倒な話になってきましたね」

「そうなのか?」


 何かを探しながらメリッサが教えてくれる。


「ガルガンド商会は、今では生活に必要な雑貨から戦闘能力を補助してくれる魔法道具などまで幅広く取り扱っています。あの罠もおそらく取引先のどこかから入手した物なのでしょうが、その取引先は多く、リンドバーグ家のような落ち目の貴族を相手にする以上に厄介な存在です」

「お、落ち目!?」


 自分の評価を聞いていきり立ったリンドバーグ男爵だが、メリッサには全く気にした様子はない。


「正面からの武力制圧は意味を成さないと考えた方がいいでしょう」

「そうか……」


 今回のように相手の拠点を見つけて制圧というわけにはいかないらしい。


「ですので、潰すなら組織ごと潰すべきです」


 ガルガンド商会に対してどういう動きをするべきか考えていたが、メリッサには既に案があるらしい。

 机の引き出しから書類の束を取り出して机の上に広げた。


「それは?」

「ガルガンド商会とグリーソン一家の契約書です」

「は?」


 机の上にある書類の束から1枚を抜き取って書かれている内容を確認する。

 たしかにアルケイン商会を襲う際にガルガンド商会からグリーソン一家に対して魔法道具の貸し出しが行われた内容が書かれていた。


「普通、こういう後ろ暗いをする時は書類とかに残さない物なんじゃないのか?」


 持っているだけで証拠になる。

 貴族なら世間体を気にして商人であれば信用が第一であるため後ろ暗い噂のある相手との間に繋がりがあるとは思われたくないはずだ。


「これについてはサルマ・グリーソンが有能だったとしか言えません。報復や裏切りに遭った時の為に保険として残しておいたみたいです。書式を見るとサルマ・グリーソンの作った書類にガルガンド商会がサインをしています」


 そんな大切な書類を机の引き出しなんかに入れておくのか?

 そう思って引き出しを見てみると頑丈な鍵が施された中に金庫があったのだが、どちらもドロドロに溶かされていた。


「メリッサ……」


 開錠ができないからと言って金属を溶かすのはやり過ぎではないだろうか。


「他にも色々と価値のある物がありますので、全て持って帰ることにしましょう。道具箱(アイテムボックス)を出して下さい」

「あ、ああ……」


 収納リングにしまえばいいのでは?


 そんな風に思っていると引き出しに入っている重要な書類を自分の収納リングにしまって、クローゼットの中にあった大きな金庫ごと道具箱の中にしまってしまった。


「そ、その金庫には僕のお金が入っているんだぞ!」

「これは迷惑料として持って帰ります」


 他にも部屋にあった高価な壺、商談相手と飲む為の酒。持てる物は全て道具箱の中に入れてしまった。これは収納リングだけだと限界が訪れていたな。


「そろそろ外も終わった頃ですから向かうことにしましょう」


 倉庫へと戻る。

 倉庫の中心ではアイラがせっせと男たちの装備品を集めていた。


「なに……?」


 そして、もう1つの異様な光景にリンドバーグ男爵も気付いた。


「死体どころか血痕がどこにもない……?」


 倉庫内に散乱していた死体がどこにも残っておらず、床にこびり付いていた血痕すら残っていなかった。

 俺たちの存在は可能な限り消しておきたかった。そのため倉庫内で戦闘があった事実すら残さないようにする必要があったので死体と血痕の消去をお願いしていた。


 それを可能にしたのが部屋に入る前にこっそりと召喚(サモン)しておいた半透明な粘性の体をしたスライム――クリアスライムの能力だ。


「ごくろうさま」


 倉庫内のあちこちに散らばっていた10体のクリアスライムたちが俺の傍に寄って来る。

 クリアスライムは、迷宮でも掃除屋として活躍してくれる魔物で床や壁に付着した汚れや匂いを体内に取り込んでくれる。同じように冒険者の肉体を取り込めば骨すら残さず消化してくれる優れた魔物だ。


「それで、グリーソン一家の連中の装備品はこれで全部か?」

「そう」


 アイラには彼らの装備品の回収を頼んでおいた。

 正直言って価値のありそうな装備品はサルマの持っていた魔法剣ぐらいなのだが、せっかくの戦利品なので奪えるだけ奪うことにした。


 アイラが武器や防具を男たちから剥ぎ取り、クリアスライムが遺体処理を行う。

 倉庫内には装備品だけでなく、魔法道具も置かれていたので全て道具箱の中に収納する。


「お、お前たちは……!」

「なんだ?」

「このように死者に鞭打つような真似をして何とも思わないのか!?」

「何とも思わないね。これはあいつらが始めた戦争だ。賭ける物は命も含めた自分たちの全て。俺たちは勝ったから敗者から全てを貰う。当然の権利だろ」

「きさま……!」


 何やら見当違いのことで怒っている。

 はっきり言ってこいつからはもう有益な情報が引き出せそうにない。


「分かっていないようだから教えてやるよ。俺たちの『敵』には、グリーソン一家だけじゃなくて依頼を出したお前も含まれているんだよ」

「え……?」


 その時になってようやくクリアスライムに取り囲まれていることに気付いたらしく後退りをした。しかし、その先にもクリアスライムがいた。


「情報を喋れば見逃してくれるのでは……」

「そんなことは一言も言っていない」


 俺は少し脅して、情報を喋るように言っただけだ。

 情報を喋った後でどうなるのかまで言及した覚えはない。

 逆にこいつが覚えていない。


「俺たちは最初から『一人も逃がすつもりはない』と宣言していた。どうして自分だけは逃れることができると思っていたのか。それが不思議でならない」


 リンドバーグ男爵の体を少し奥へと蹴り飛ばす。

 その先には倒れてくるのを待ち構えているクリアスライムがいる。


「ぎゃあああぁぁぁ」


 スライムの中から悲鳴が聞こえてくる。

 必死にもがいてスライムから脱出しようとしているが、1体のスライムに重なるように他のスライムが重なり合体して体積を増やしていく。

 出口までの距離が遠くなっていつの間にか動かなくなる。


 数秒もする頃にはスライムの体内からは何もなくなっていた。


「証拠品と戦利品も手に入れたことですし、そろそろ帰らないと夕食に間に合わない可能性があります。急いで帰ることにしましょう」

「そうだな」


 最後に自分たちの開けた出入り口を外に出てから塞げば倉庫でやることは終わりだ。

 さて、宿に戻ったら夕食を食べてもう1回温泉に入ることにしよう。


グリーソン一家襲撃リザルト

・悪辣な商会と犯罪組織の契約書

・犯罪組織が貯め込んだ資産

・犯罪組織の装備品

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ