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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第9章 商会抗争
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第8話 女湯

「まさか、わたしがこんな温泉に来られるようになるなんて思わなかったわ」

「それは私も同じよ」


 温泉の中で体を伸ばしているわたしとは対照的に母さんが小さくなっていた。


「お姉ちゃん」


 リアーナたち妹3人は広い温泉で流れるように湯に浸かっていたのだが、唐突にわたしたちに近付いて来ました。


「やっぱり大きくなっている……」

「あら、本当ね」

「母さん!?」


 2人が何に対して言っているのか視線を追えば分かります。


「でも……」


 わたしの胸を見つめていたリアーナだけど、その視線はわたしの横で湯に浸かっていたメリッサの方へと向けられていました。


「メリッサお姉ちゃんの方が大きいね」

「ありがとうございますリアーナちゃん」

「えへへ……」

「くっ」


 メリッサに褒められて笑顔になるリアーナとは対照的にわたしは悔しさでいっぱいになります。


「大丈夫よ」

「母さん」

「あなたは決して小さい方ではないんだから。それに旦那が満足してくれる大きさなら十分でしょ」

「旦那って……」


 恥ずかしさから顔を半分ほど湯の中に入れてしまいます。

 隣ではリアーナとメリルちゃんが大きくするコツみたいなものをメリッサに聞いているけど、メリッサは無難に「自然と大きくなった」と答えている。


 その言葉を聞いて悔しそうな表情をしているのがメリッサの向かいにいたアイラだ。自分とメリッサの胸を見比べている。その肩にクリスちゃんが宥めているが、クリスちゃんの慰めは逆効果だ。クリスちゃんは同年代の中でも成長が早い方らしく既にアイラに追いつきそうな大きさがありました。


「お兄様のことをお願いしますね」

「まあ、うん……」


 本当の妹のように可愛がっている相手から笑顔でそんなことを言われては断れるはずがなく、頷いてしまっていました。


「剣士としてはこっちの方がいいっていうのは分かっているんだけどね」


 けれど、女としては微妙なのか笑顔が引き攣っていた。


「あら、もう来ていたのね」


 そこへ30代後半ぐらいの女性が入って来ました。

 あの女性は見たことがあります。


「久しぶりねミランダ姉さん」

「20年振りに会ったっていうのにあなたは変わらないわね」


 ミレーヌお義母様のお姉さんで長女のミランダさん。現在はアルケイン商会の当主の妻として色々な人脈を築く為に奔走しているみたいです。今回の旅行は久し振りの旅行で喜んでいたのを覚えています。


「ホントよく帰ってくることができたわよね」


 次に現れたのは、ミレーヌお義母様よりも少し年上のスレンダーな女性で次女のミーシャさんです。


「私だって本当なら帰って来たくなかったわよ」

「でも帰って来ているじゃない」

「アリスターに来たのはいいけど、仕事は見つからないしクリスもいるからマルスに頼ってばかりだったのも悔しいから、恥を忍んで父さんにだけ話が伝わるように手紙を出したのよ」


 そうして商店で働けるようになったとは聞いています。


 なんというか、3人のやり取りを見ているとあまり仲のよくない姉妹に見えてしまいます。


「あの……お2人は、ミレーヌお義母様のことを嫌いなのですか……?」

「嫌いっていうわけではないけど、自分1人だけ好きな相手と結婚して生活が苦しくなったからのこのこと戻って来たのが許せないだけよ」

「帰ってきたことを知った時は追い出したい衝動に駆られたけど……」


 ミレーヌお義母様を見ていた視線がわたしたちの方へと向きます。

 なんで?


「こんな可愛い嫁を連れて来てくれる息子がいるなら歓迎してあげるわ」


 ミランダさんがわたしの隣に座って抱き着いてきます。

 ミーシャさんはメリッサのスベスベな肌に触って感心していました。


「ははっ、母たちがご迷惑をかけてごめんなさい」


 わたしたちと同年代の女の子がいつの間にか後ろに立っていました。ミランダさんに抱き着かれているせいで全く気づきませんでした。斥候役としては失格です。

 それよりもミランダさんのことを母と呼んでいたということは……。


「初めまして。ミランダの三女でミリアムよ。よろしくね」

「はい。よろしくお願いします」

「そんなに固くならなくていいわよ。私とあなたたちの旦那は従兄妹なんだから、私とあなたの立場だって似たようなものでしょ」

「う……」


 恥ずかしさからまた湯の中に潜ってしまいます。


「本当にかわいい子ね。あなたの息子は、よくこれだけの可愛い子を見つけてくることができましたね、叔母さん」

「叔母さん……」


 ミレーヌお義母様が『おばさん』という言葉にショックを受けてしまっています。

 見た目が若いのでまだ20代でも通用しそうな人ですが、姉の娘から『叔母さん』と呼ばれただけでもショックらしく少し落ち込んでしまっていました。


「ミリアム。他の子たちはどうしたの?」

「みんな馬車の旅で疲れたらしいから入浴は夕食の後でするって言っていたわ」

「そう」


 自分の娘たちを気にしたミランダさんでしたが、すぐに興味はわたしたちの方へと移ってしまいました。


「ちょっと姉さん」

「なによ……」


 ミレーヌお義母様とミランダさんが再び睨み合います。

 ただし、今度は自分たちのことではありません。


「たしかにシルビアたちは可愛いわよ。けどね、この子たちの義母は私だけなの! だから姉さんたちには、そんな風にペタペタと触る権利はないわ」

「3人もいるんだから1人ぐらいいいじゃない。あんたが1人自由を謳歌している間に私たちがどれだけ大変だったと思っているの!?」

「それについては謝るわ。けど、それとこれとは全く別の問題よ」


 最初にご主人様から話を聞いた時からなんとなく分かっていましたが、姑の立場を巡って喧嘩が始まってしまいました。

 最初は口喧嘩だったにもかかわらず、いつの間にか湯船から上がると浴室内で手を組んで向かい合っています。


「いいんですか!? 止めなくて!」

「まあ、母さんも商会の長女として私たちの知らないところでたくさん苦労してきたみたいでね。今は私の姉さん――長女に色々と譲ってのんびりとした生活を送っているんだけど、久しぶりに生き別れた妹と会ってはっちゃけているのよ」


 娘が容認しているのならいいのかな?


「4人とも私の娘よ」

「4人……?」

「残念だけど、私にはもう1人息子がいるの。その嫁も当然のように私の義理の娘になるわ」

「4人もいるなんて卑怯よ!」

「姉さんだって子供が3人いるでしょうが!」


 わたしの隣にいるミリアムさんは、ミランダさんの娘で他にも娘が2人いるそうです。


「仕方ないでしょ。男の子が生まれなかったんだから羨ましいって思うのは当然でしょ。なによ、2人の息子に対して義理の娘が4人もいるとか! 1人ぐらいよこしなさい」

「残念ね。3人は当然ながらアリアンナも私の義娘よ」


 ミレーヌお義母様が口にした名前に思わず湯船に浸かっているにもかかわらず寒気がしてしまいました。


 アリアンナという名前の女性こそお義兄様の彼女さんです。

 わたしたちはお義兄様から相談されたご主人様から相談されてアリアンナさんとは少しだけ面識がありましたが、お義母様には内緒だったはずです。


「それぐらい知っています。私はあの子の母親ですから態度を見ていれば彼女がいることぐらい分かるし、あの子の視線を追って行けば相手もすぐに分かったわ」


 ごめんなさい。内緒という話でしたが、既にバレてしまっていたみたいです。

 お義母様のわたしたちに対する可愛がりようから彼女の紹介を自粛していたお義兄様ですが、彼女がいることすら隠していたみたいですが無駄だったみたいです。


「どう? 羨ましい?」

「……凄く羨ましいわ」


 ミランダさんがシュンと項垂れてしまっています。


「私も男の子が欲しかった」

「ははっ、ごめんね女の子で」


 当人である娘としてはミランダさんの言葉は微妙だったらしく、ミリアムさんが苦笑しています。


「でも、もしかしたら姉さんの子供は男の子かもしれないよ」

「姉さん……というのは、ミランダさんの長女ですか?」

「そう。姉さんは結婚して3年目なんだけど、もうじき出産なの。さすがに出産時期が近いのに馬車で数日の旅は大変だから今回の旅行は留守番になっちゃったけどね」


 長女に子供が生まれる。


 ということは……


「よかったわね。もしかしたら孫は男の子かもしれないわよ。おばあちゃん」

「おばあ……」


 項垂れていたミランダさんが言葉を失くして遠い目をしています。

 見た目的にはまだ30代でも通用しそうなだけに孫が生まれて、お婆ちゃんになるという現実が受け止め切れていないみたいです。


「というわけで3人とも私の義娘なんだからミーシャにも渡さないわよ」

「仕方ないわね」


 右手にわたしを抱え、左手にミーシャさんから解放されたメリッサを抱き寄せます。


「こんな可愛い子を連れて来てくれて私は満足よ」


 お義母様に撫でられていたメリッサがうっとりとしています。

 わたしも温泉に浸かっている影響なのかうとうとし始めました。


「さて、のぼせてもいけないしそろそろ上がるとしましょう。夕飯はきっと美味しい物が出るわよ」

「はい!」


 せっかく美味しい料理が食べられるのだから覚えて帰らなければなりません。


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