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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第9章 商会抗争
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第5話 魔物誘引

「いや~、素材のことを気にしなくていいとなると楽でいいな」


 目の前で起こった惨状を目にしながら呟く。

 隣を見るとフレディさんたちが呆然としていた。


 今回は護衛依頼ということで魔物の素材を剥ぎ取ったりはせずに殲滅だけを考えて攻撃させてもらった。

 結果、魔法と斬撃によって上下に両断された魔物の死体が転がることになった。


「今のは誰がやったんだ?」


 彼らの傍にいる俺とシルビアは何もしていない。


「魔法を撃ったのがメリッサ、斬撃をぶっ放したのがアイラです」

「あの2人か……」


 殲滅を考えるならメリッサの魔法が適しており、一撃をどうにか生き残って襲い掛かろうとしてきた3体の狼型の魔物はアイラが飛ばした斬撃によって両断されていた。

 メリッサに全てを任せてもよかったのだが……


『まだ、物足りない……』


 時間の掛かる旅にイライラしていたアイラにストレス発散をしてもらおうと2人に指示を出していたのだが、アイラは欲求不満らしい。


『我慢しろ』

『分かっているわよ』


 ムスッとしながらも馬車の護衛に就いてくれる。

 自分の仕事は分かっているみたいなので大丈夫だろう。


「それにしてもなんだってこれだけ大量の魔物がいきなり現れたんだ?」


 冬になったことで魔物の数そのものが少なくなっている。

 にも関わらず大量の魔物が一度に現れた。


 彼らからしてみれば異常事態なのだろうが、原因が分かっている俺は冷静でいられた。


「原因はこれです」

「なんだ、これ?」


 俺が取り出したのは表面に魔法陣の描かれた1枚の薄い板。


「これは罠の1つで、誰かが踏むことによって罠が起動すると周囲から魔物を引き寄せる効果を持っています」


 今回襲ってきた魔物だが、狼や猿にゴブリンやオークといった本来なら共存しないはずの魔物が同時に襲い掛かって来た。そのことから彼らは同じ群れの仲間同士などではなく、複数の群れが同時に襲い掛かって来ただけだというのが分かる。


 罠によって群れに関係なく周囲にいた魔物が根こそぎ引き寄せられてしまった、ということだろう。


「これが3台目の馬車の下にありました。おそらく設置されていた罠を誰かが踏んでしまったのでしょう」

「こんな薄い板の存在によく気付くことができたな」


 フレディさんが感心している。

 だが、俺としては自分で気付いたわけではないので称賛の言葉を素直に受け取ることができないでいた。


『僕も役に立つでしょ』


 気付いたのは迷宮核だ。


「それにこんな罠まで知っているなんて随分と博識だ」

「みなさん迷宮には潜ったことがありますか?」

「若い頃に金が必要だったんで行ったことがあるが」

「その時の最高到達階層は?」

「小遣い稼ぎができれば十分だったからな。地下25階にいるボスを前にして止めたよ」


 なら、知らないのは当然か。


「この罠は地下30階を越えたあたりから普通に出てきますよ」


 魔物が全くいない場所を歩いていてもこの罠を起動させてしまうことによって周囲から魔物を引き寄せてしまう。

 そうして警戒した冒険者の歩みはゆっくりとしたものになる。

 そうやって冒険者の滞在時間を引き延ばすのが目的の罠だ。


 迷宮核が街道に仕掛けられていた罠に気付くことができたのも自分がこういう罠の扱いに慣れていたからである。


「地下30階って……お前ら、普通に深いところまで行っているじゃねぇか」

「そうですか? 海フィールドとか凄く実入りがいいのでお勧めですよ」

「そういえば最近は海産物が多く出回るようになっていたな」


 アリスターの近くには海がなく、川魚だけでは大都市にいる住人全てに行き渡るような漁獲量にはならない。

 しかし、迷宮には海フィールド呼ばれる階層があるおかげで水中にいる魚や貝類を得ることができる。もっとも地下36階から地下40階までなので、出現する魔物は強く、そこまで至れる冒険者そのものが少ないため俺たちの独占市場みたいになっていた。


「そういうわけで、こちらはお渡しします」

「あ、ああ……」


 未だに呆然としたままの私兵リーダーに魔物誘導の罠を渡す。


「こんな薄い板で……」


 板そのものは非常に薄い物だった。地面に設置する以上、どうしても薄くする必要があったが踏み付けられた時に壊されるわけにはいかなかったため頑丈に造られているため原型を保っている。

 詳しい解析とか彼らの方でしたいだろうし、彼が持っていた方がいいだろう。

 俺には既に必要のない代物だ。


「では、俺たちは自分たちの持ち場に戻ります」

「頼む。状況が落ち着いたらすぐに出発する」


 何が起こったのか事情説明は必要になるが、それは俺たちの仕事ではなく私兵たちの仕事だ。

 馬車の後方に戻ると心配した様子の家族が待っていた。


「マルス、大丈夫なの!?」


 近付いて来た母が俺の体をペタペタと触って来る。

 心配しているのは分かるんだけど、この齢でこういう子供みたいな扱いを受けるのはちょっと恥ずかしい。

 見ればメリッサは笑顔だし、アイラはニヤニヤと笑みを浮かべている。


「大丈夫ですから。俺の強さは前にも見せたことがあるでしょう。あの時に比べたら出てきた数の魔物は1割程度でしたし、俺は何もしていないんですよ……」


 実際に攻撃したのはメリッサとアイラだ。

 俺とシルビアは報告に行っただけだ。


「あなたたちが強いことは知っているわ。けど、それとこれは別。子供の心配をするのは親の義務みたいなものよ」


 ギュッと引き寄せられて母にされるがままにする。

 まあ、心配を掛けてしまったのは事実なので自由にさせてあげることにした。


「シルビアは大丈夫そうね」

「わたしも安全な場所で見ていただけだから」


 オリビアさんがシルビアに怪我がないか確認していた。

 そういえばオリビアさんには俺たちの力を見せたことはなかったな。


「あの……マルスさん」


 母にされるがままになっているとミッシェルさんが声を掛けてきた。


「メリッサはいつもこんな危険なことをしているんですか?」

「お母様?」

「母として心配になります。今までは娘を信頼して自由にさせていましたが、せっかく再会することができた娘が危険な仕事をしているとなると辞めさせなければならなくなります」


 ミッシェルさんの言いたいことも分かる。

 せっかくの機会だから納得してもらうことにするか。


「メリッサ、今の戦いに危険があったか?」

「ありません。そもそも今使った魔法は威力を抑えたうえ、消費した魔力も全体で見れば微々たるものです。危険もなければ消耗もない戦いでした」

「そう、強くなったわね」


 メリッサの言葉に納得してくれたのかミッシェルさんが戻って行く。

 その後、全員が馬車に乗り込むと5台の馬車が目的地へと走り出した。護衛である俺たちは馬車に並走しながら周囲を警戒する。


 警戒していたこともあって黙っていたのだが、しばらくすると子供みたいな明るい声が俺たちの頭の中に響き渡る。


『解析結果が出たよ』


 今回使われた罠の解析を頼んでいた迷宮核から念話が届いた。

 貴重な情報でもある魔物誘引の罠を渡したのも既に構造の複写が済んでおり、迷宮核に解析を頼んでいたからだ。


『それで、どうだった?』


 解析結果をパーティメンバー全員が聞く。

 念話による会話なため集中力を少しばかり必要とするが、幸いにも周囲にいた魔物は全て魔物誘引の罠によって引き寄せられてしまったため一体も残っていない。


『間違いなく迷宮で使われている魔物誘引の罠だね。というよりも迷宮で使われていた罠をそのまま持ってきた感じかな』

『どういうことだ?』

『方法は分からないけど、迷宮にあった罠を作動させることなく持ち帰った。で、あの頑丈な板に貼り付けて自由に持ち運べるようにしたんだろうね。今はこんなことまでできるようになったんだね』


 自分が迷宮主だからこそ分かる。迷宮にある罠をそのまま持ち帰るなど相当な技術が必要であり、自分たちで使えるようにするにはさらなる技能が必要だったことを。


『残念ですが、これが一般に流通することはありえません』

『どうしてだい?』

『技術的には可能ですが、これを可能にする為には相当な技術が必要になり、販売した場合には相当に高価な罠になります』

『となると犯人は……』

『迷宮にある罠を転用できるだけの技術を持った者、もしくはそれだけ高価な魔法道具を買い取れるだけの財力を持った者ということになります』


 それだけ高価な罠が街道に捨て置かれているわけがない。

 そうなると誰かが自分たちを殺す為に仕掛けられた罠だと考えるのが自然だ。


 問題は、誰が? 誰を狙ったのか?


『まあ、間違いなく標的はアルケイン商会の誰かだろうね』


 この一行の中で高価な罠を使ってまで仕留めようと考えられる標的がいるとしたらアルケイン商会の人間ぐらいしか考えられなかった。


『くくっ……随分と面白い状況になってきたじゃないか』


 旅行に出かけている最中に襲撃を仕掛けてくる相手。

 そんな相手がいることに楽しみを見出した迷宮核が静かに笑い出していた。


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