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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第9章 商会抗争
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第4話 旅の途中で

「暇ね……」


 旅行も2日目になったところでアイラが呟いた。


「おいおい、滅多なこと言うなよ」


 護衛の俺たちが暇ということは、旅は平和ということだ。

 それは、これまでの護衛依頼でも学んだことだったはずだ。

 ちなみにそんなことを呟くアイラにシルビアとメリッサは苦笑している。


「アイラお姉ちゃん暇なの?」


 一番後ろを走る馬車から顔を出したリアーナちゃんが質問してくる。

 冒険者として護衛依頼を受けている俺たちは馬車には乗らずに横を歩いて周囲を警戒していた。


「うん。自分たちだけで走っていれば今頃は着いていたっていう事実を考えるとね……」

「それだと護衛依頼にならないだろ」

「マルスだけ先に行ってあたしたちを召喚(サモン)してくれれば――」

「一般人もいるのにそんなことができるわけがないだろ!」


 思わず怒鳴ってしまったので馬車の一段の横にいた兵士さんたちが振り向いてしまっている。

 なんでもないことを伝える為に手を振ると自分の仕事に戻ってくれる。


「まあ、今回は戦う力もなければ野営するだけの力もない一般人が相手の護衛依頼なんだから諦めろ。旅費だって出してもらっているんだからこれ以上の贅沢を言ったら怒られるぞ」

「分かっているわよ。正直言って昨日泊まった宿だってあたしが1人旅をしていた時には考えられないほど豪華な宿だったし」


 冬に野営など万全の対策を施していなければ死活問題になる。

 そのため目的地までは日没まで余裕があったとしても途中にある村や街にある宿に泊まって計画的に向かうことになっていた。そのため片道に5日もの時間がかかることになっていた。


 1日目である昨日はアリスターより規模の小さい町で一番豪華な宿に泊まらせてもらった。ちなみにその時の宿泊代も全てアルケイン商会持ちだ。


「それが分かっているなら文句は言うな」

「けど、暇なのよ。たまに思い出したように魔物が現れてきてもフレディさんたちが倒しちゃうし」

「それも諦めろ。正式に雇われているのは彼らだ」


 俺たちは招待客のような立場だ。

 昨日現れた3体の魔物と4体の魔物はフレディさんたちの手によって討伐されてしまっている。Bランク冒険者ならこの程度は問題ないということだろう。


 ただし、異常な数には対処しきれない可能性がある。


「シルビア、前の方に行くぞ」

「はい」


 俺と同じように既に察知しているシルビアが付いて来てくれる。

 以前の狩りと同じように使い魔の鷲を放って空から周囲を警戒していた俺は広範囲を探知することができていた。シルビアも【探知】で捉えていたみたいだ。


「ん、どうした?」


 わざわざ一行の後ろから先頭にいる自分たちに近付いて来た俺たちのことを訝し気に見てきた。俺たちの仕事はあくまでも後方から近付く敵がいないか警戒することにある。


 ただし、彼らが気付かず俺たちが気付いたことは報告しなくてはならない。


「魔物の群れがこっちに迫っています」

「なに!?」

「いや、俺の方でも確認した」


 俺たちの話を近くで聞いていたヒースさんが遠くを見ていた。


「数は――約100体ってところだな」

「本当か!?」


 フレディさんが声を荒らげていたのでコクッと頷く。

 正確には96体だが、誤差を申告しているような状況じゃないな。


「こちらでも確認できる。猛スピードで近付いてくる相手が確認できる」


 私兵の取りまとめをしているリーダーさんも気付いたみたいだ。


「その数が本当なら一刻も早く避難しなければならない」

「こういう場合はどうするんですか?」


 今までの護衛依頼でも十数体の魔物を相手に戦ったことはあるが、100体近い魔物を相手に護衛したことはない。


「俺たち5人に私兵10人。お前たち4人を加えたって20人もいないんだ。冒険者だけなら100体が相手でも犠牲を出しながらなら討伐することは可能なんだろうが、俺たちの後ろには護衛対象がいる。間違っても護衛対象に傷を負わせるわけにはいかない。俺たち冒険者が盾になって魔物の侵攻を止めている間に護衛対象には逃げてもらうのが普通だ」

「そういうわけで君たち冒険者には悪いが、私たちは先に逃げさせてもら――」

「――それが普通なんだけどな」


 私兵リーダーの言葉をフレディさんが遮る。


「何か反論でも?」


 こういう時に真っ先に使い捨てられるのが冒険者である。

 使い捨てられる冒険者にとって生き残れるだけでも奇跡に等しい。

 だからこそフレディさんは反対していると考えた。


「いや、反論と言うか確認だ。お前さんたちなら殲滅できるんじゃないか?」

「な……!? 相手は100体だぞ」


 自分たちの5倍――いや、俺たち4人だけで倒すというなら25倍の数を相手に殲滅が可能だと言うフレディさんに驚くリーダー。

 普通ならそれが当たり前の反応なんだけど、俺の感覚も1年の間に麻痺してきたのか全く問題なく感じられるんだよな。


「できるかできないかで言えばできますけど……」

「やっぱりな」


 そもそもそれを進言する為にフレディさんたちのいる前方に来た。

 あのまま俺が進言せずにフレディさんたちだけで方針を決められてしまうと『逃走』以外の選択肢がなかった。


「そんなことができるわけが……」

「こいつはたった1人で1000体の魔物を討伐した実績があるんだ。何を今さら驚く必要がある?」

「そうかもしれないが……」


 やはり、危険が伴う為に逃げ出したいようだった。

 というか逃げ出すにはそろそろ時間的に限界だ。


「ま、簡単だから見ていて下さいよ」



 ☆ ☆ ☆



「どうしました?」


 馬車が止まった。

 まだ次の目的地までは距離があり、休憩も1時間前に済ませたばかりだ。

 つまり、予定にない停車。


「何かあったのか?」


 御者に向かって話し掛ける。

 しかし、答えたのは御者ではなく馬車の横から顔を出して来た私兵の1人だ。


「申し上げます。こちらに接近する魔物の群れを確認しました。その数――100です」

「なっ、何をしているのですか! 早く逃げなくては……」

「それが――」


 私兵が言い難そうにしている。

 彼は長年アルケイン商会に仕えてくれた兵士で信頼がある。

 そんな人物が言い難そうにしているということもあって異常事態だということが分かる。


「――お孫さんが自分たちで殲滅するから問題ないとのことです」

「孫?」


 マルスに会ったことのない私の妻ミシェーラは、孫と言われてもマルスの顔がすぐに思い浮かばないらしい。

 冒険者と雇い主という立場を気にして初日は顔を合わせていない。


「あの子、ですか? 正直言って信じられ――」

「なら、問題なさそうだな」


 ミシェーラの言葉を遮るように安堵すると睨まれた。

 妻には全く頭が上がらない。だが、マルスの為にも祖父として祖母を安心させなければならない。


「問題ない。あの子は既に100体の魔物など問題ないほどの実績を積み上げている。シルバーファングを倒せるほどの実力を見せてもらおうじゃないか」

「それはそうですけど……」


 そんな話をしている内に近付いてくる魔物の姿が見えた。

 冒険者は総じてステータスが高いため遠方でも光景をはっきりと捉えることができるが、一般人では近付いてくれないと姿を捉えることすら難しい。


「ほ、本当に来た!」


 自分たちでも魔物の姿が確認できた。


 その瞬間、


「……え?」


 馬車の後方から光が魔物の群れへと迸り、走る魔物によって上がっていた土煙が小さくなっていた。

 今でも土煙を上げているのは生き残ることができた数体の魔物によるもの。

 それも同じように馬車の後方から放たれた何かによって止められてしまった。


「い、今のは……?」

「おそらくお孫さんのパーティによる攻撃かと思います。お孫さんは近くにいますので仲間による攻撃です」


 開いた口が塞がらない。

 シルバーファングを討伐した話や異常発生した魔物から村を守った話は聞いていたが、実際に目にしたのは初めてだった。


「これは、Sランク冒険者と同等というのも頷ける話だ」


 以前に王都へ行った時に見せてもらったSランク冒険者の力。

 マルスたちの実力は片鱗しか見せてもらっていないが、それに届くことができるというのも頷ける。


 そして、評価しなければならないのはパーティ全員がそれだけの力を持っているということ。

 Sランク冒険者もパーティを組んではいるが、パーティメンバーは彼らを慕って集まったBランクやCランクの冒険者ばかり。Sランクの冒険者だけで構成されたパーティメンバーなど聞いたことがない。


「いったい、どうやってあれだけの力を得たのか?」


 商人として気にせずにはいられなかった。


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