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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第1章 借金返済
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第14話 地上

 地上に出ると、陽の光を一身に受け両手を広げて体を伸ばす。

 やっぱり、人間は陽の光を浴びているべきだ。

 そう、考えると異常気象で迷宮の中で生活していた人々は、よくそんな環境で生き残ることができたな、と感心する。


 地下6階に落ちた二人だが、決して迷宮から抜け出すことはない。


『迷宮操作:構造変化』


 これは、満月の日を待たなくても迷宮主(ダンジョンマスター)の意思に従って構造変化を起こすことができる迷宮主になったことで得られたスキルだ。


 これにより、二人が落ちた場所は出口の存在しない迷路となった。

 迷宮の本来の目的である侵入者からの魔力の搾取をギリギリまで行う。


 だが、迷宮は侵入者から魔力を吸い尽くすわけではない。空になる前に魔力の吸収が止まる。それでは、彼らが永遠にあの場にいることになる。それは困る。あの場所は、新しく造ったわけではなく、道順を入れ替えて出口のない迷路にしているだけである。新しく地下6階に足を踏み入れた人が、地図とは違う異様に狭い階層に戸惑ってしまう。


 そこで、ダメ押しにもう一つの迷宮操作を使用した。


『迷宮操作:召喚(サモン)


 迷宮内であれば、迷宮で出現する魔物を好きな場所に呼び出すことのできるスキル。


 地下20階で出現する階層主を地下6階に出現させた。彼らのステータスでは、パーティが協力すれば地下15階ぐらいまでは行けただろう。しかし、たった一人で、装備もなく、体はボロボロ。


 そんな状態で自分よりも格上の魔物に勝てるはずもなく、すぐに殺されることになるだろう。

 彼らの反応がなくなれば、魔力を渡してある迷宮核(ダンジョンコア)に迷宮を元の状態に戻すよう伝えてあるため、結果だけ後から聞くことにする。


 隠し部屋からは、転移で地下1階の入り口のすぐ近くに造っておいた迷路の行き止まりに移動していた。転移が可能なのは迷宮内だけであり、転移結晶を利用する手間も考えて、この場所へと転移し、地上へはすぐに出ることができた。


「おや、アンタ無事だったのかい?」


 迷宮の地上にある入り口近くに建てられた建物から顔を出しておばちゃんが挨拶してくれた。どうやら心配してくれたようだ。

 迷宮へは必ず、この建物で入出を届け出ることになっている。

 そうすることで冒険者を管理していた。


「ご心配おかけしました」

「別に心配なんかしちゃいないよ。迷宮に潜って帰って来ない冒険者なんてたくさんいるからね」

「そういうものですか?」

「そういうもんだよ。たぶんだけど、あいつの仲間もやられちまったんだろうね」


 おばちゃんの視線が迷宮の入り口へと向けられていた。

 俺も分かっていたが、面倒なことになりそうだなと思いつつ考えないようにしていた。


 迷宮から一人のサポーターが出てくる。


「お、おまえ……」


 サポーターは、俺と目が合うなり狼狽え始めた。


 まあ、そうだろう。

 彼にとって俺は、昨日地下1階で出会っただけの存在で、仲間から死んだと聞かされていた相手。


 幽霊でも見るかのような視線を向けられ落ち着かない。


「何か、用ですか?」

「あ、いや、無事だったんだなって……」

「無事? 何から無事だったんですか?」

「いや、それは……」


 ドズがますます狼狽え始める。

 まあ、彼のステータスは迷宮にいる間に確認している。見れば迷宮主になる前の俺よりも若干低い。そんなステータスで仲間の死体を見た後なら激しく動揺してしまうのだろう。


「どうしたんだい、いったい?」


 おばちゃんが尋ねる。

 まあ、明らかに不審な様子だったからな。


「そ、それが……仲間が迷宮で死んでいたんだ」

「そうかい」


 おばちゃんの反応はたった一言だった。


「それだけ? それだけかよ!? あんたらにとって俺たちみたいなクズはどうでもいいっていうのかよ!?」

「あんたたちが何者かは関係ない。迷宮で何が起ころうと、それは冒険者の自己責任だ。だから冒険者が見つけた財宝は、冒険者が自由にする権利があるんだ。死んだことは気の毒に思うが、それだけで冒険者ギルドが何かをするようなことはないよ。ま、死体を運んでほしい、とか依頼したいことがあるなら誰かが受けてくれるかもしれないよ」


 依頼は仲介してくれる。


 しかし、冒険者ギルドが率先してそのような危険な仕事で、重要でもない依頼を積極的に仲介するはずがなかった。

 そもそも依頼を出せるだけの金が男にはなかった。

 いや、隠し部屋から持ち帰った宝石が背中のリュックの中にはあった。


「あ、あの……仲間が二人見つからないんです。ギルドの方で捜索をしてもらうことは可能でしょうか?」

「そいつらは今も迷宮の中にいるのかい?」

「たぶん、そうだと思います」


 おばちゃんもドズの顔は覚えており、6人で迷宮に入って行ったことは覚えていた。

 そして、仲間はドズ以外に戻ってきていないことも記憶している。


「おそらくだけど、依頼を出してから見つけてもらうのは無理だろうね」

「そんな、お金ならあります」


 手の中に握られた宝石を見せる。


「残念だけど、金の問題じゃない。時間が問題なんだよ。

 いいかい? 今から急いで戻れば今日中に街に辿り着けるだろう、その後依頼を出したとしても、その依頼が掲示されるのは明日の朝だ。そして、捜索できるのはその日限りなんだよ」

「ど、どうしてですか!? 追加報酬ならきちんと払います」

「だから『金』じゃなくて『日付』なんだよ。

 その次の日は、満月だ。満月の日は、迷宮に構造変化が起こる。運が悪いと構造変化に巻き込まれて迷宮に飲み込まれるなんて事態になる。そんな状況で捜索するような馬鹿な冒険者はいないよ。それに構造変化が起きれば、迷宮の中にいるそいつらは確実に飲み込まれることになる。死体は漏れなく迷宮に飲み込まれることになるよ」


 それが迷宮に死体が少ない理由だった。


 迷宮の魔力によって生み出された魔物の死体は、しばらく経過すると飲み込まれ、魔力へと還元される仕組みになっていた。人の死体や装備品も魔力へ変換され、迷宮の維持に役立っていた。

 隠し部屋の死体も地下6階に出来る死体も構造変化の時には迷宮に飲み込まれることになっていた。


 運が悪い、というのは構造変化が満月の日のいつ起こるか分からないからだ。構造変化自体は数分で終了するが、その数分の間に迷宮の中に居ると戻って来られない可能性が高い。一応、俺の方で設定して人が少ない深夜に起こるようにするか。


「冒険者は自由なだけ、何かあれば自己責任だよ。仲間を探してほしいなら、探してくれる人間を自力で探すんだね」


 おばちゃんが凄みながら睨み付けるとドズが逃げるように街の方へと走って行った。


「で、あんたとあいつらの間でなにかあったのかい? さっき無事だったのかとか聞かれていたけど……迷宮内で揉め事を起こすんじゃないよ」

「なにもありませんよ。迷宮に入った時にちょっとあっただけです」


 その時、何か違和感のようなものが全身を駆け抜ける。

 おばちゃんを見ると少し目つきが鋭くなっていた。


 なにかスキルを使われた?


 迷宮魔法:鑑定が使えればおばちゃんのステータスが見えるから、おばちゃんがどんなスキルを使ったのかも分かるのだが、生憎と迷宮魔法:鑑定は迷宮内でしか使えない、もしくは迷宮に関連する物を鑑定する時のみ使える。


 ……あれ、使える。なんでだ?


 とりあえずおばちゃんのステータスを確認してみる。




==========

 名前:アルミラ

 年齢:42歳

 職業:迷宮受付

 性別:女


 レベル:143

 体力:2400

 筋力:1973

 俊敏:1440

 魔力:1743


 スキル:真実の瞳

 適性魔法:光、闇

==========




 つ、つえ~……制約の指輪がある状態の俺よりも強い。


 そして、職業を見て鑑定が使えた理由にも納得した。

 『迷宮』受付。これが俺の鑑定が通用した理由だろう。迷宮の受付をしている人だから迷宮の一部と見なされた。


 迷宮魔法そのものについては、知識として得られたが、使用方法や条件については自分で使いながら調べるしかないな。


 それよりもおばちゃん――アルミラさんもスキルを使われたことに気付いたのか目付きが鋭くなっていた。


「たしかに昨日見た時は、相応の実力しか持っていない新人にしか見えなかったんだけどね。まさか、人のステータスまで見えるとはね……迷宮で何か特別な道具でも拾ったかい?」


 おばちゃんが尋ねてくる。

 しかし、これに対して肯定も否定もするわけにはいかない。


 スキル:真実の瞳――名前しか分からないが、先ほどのやり取りから嘘を見抜くような能力だと推察できる。


 肯定すればスキルが反応しなかったとして、言った言葉をそのまま信じることができる。逆に否定すればスキルが反応してしまい、嘘を言っていることが知られてしまう。


 肩を竦めて曖昧な反応を示す。

 しかし、アルミラさんはそれだけで知りたい情報を得られたらしく諦めたような表情をしていた。


「そんな反応ができるっていうことは、あたしが『真実の瞳』を持っていることを知っているって言っているようなものだよ。本当にあたしのステータスが覗けたんだね」


 どうやら、第三の選択肢も失敗だったらしい。


「どうだい? これでも元B級冒険者だよ。それなりのステータスだろ」

「B級冒険者……だから、こんなに凄いステータスだったんですね」

「やれやれ、何も学んでいないね。今の一言で、相手が持っているスキルを見抜くだけじゃなくて相手のステータス値まで見えるって言っているようなもんだよ。おそらく全部見えているって考えた方がいいだろうね」


 ダメだ。アルミラさん相手に行動するだけで俺の正体が詳らかにされていく。


「ま、あたしの真実の瞳や鑑定みたいな能力は相手に無断で使用すれば嫌われる。先輩冒険者だった一人として教えてやるけど、鑑定が使えることは大っぴらにするんじゃないよ」

「はい。気を付けることにします」


 親切なことに忠告してくれた。


「ま、あいつらとの間に何があろうとギルドが何かをすることはないだろうね」

「そうなんですか? たしか迷宮内での諍いは禁止されていたはずですけど」

「禁止はしているよ。けど、取り締まりをしているわけでもないから、したとしても注意をして終わりなんだよ」


 そういうものらしい。


「さ、あんたが迷宮から出て来た手続きはこっちでしておいてやるから、あんたも街に早いところ帰りな」

「ありがとうございます」


 一日以上家を空けてしまい、家族が心配しているはずだ。


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