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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第47章 狂熱乱踊
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第26話 VS狂熱の女神―中―

 いきなり地面を叩いたレドラス。

 すぐに土煙の舞う中をノエルが飛び出してくる。


「どういうつもりだ!?」


 尋ねるべくレドラスを見る。


「……」


 ひどく敵意に満ちた眼。

 人間とドラゴンで大きな違いはあるものの、あの眼には覚えがある。


「はははっ、これがわたしの権能――狂熱さ」


 人の精神を前向きにさせる能力。

 狂わせられた精神は暴力的な衝動に襲われる。


「わたしの権能を受けた者は、目に入る全ての者を敵だと認識するようになるの。生存本能のみを強化させた結果ね」


 生きるため理性を失って敵を倒そうとする。

 街で行った時以上の効果がある。


「さっきはサンドワームたちに与えた神気をばら撒いて、それを浴びた人たちの精神を狂わせただけだからね。あなたたちはその程度で終わらせるつもりはない」

「……っ!」


 膝をついて倒れそうになるのを堪える。眷属のみんなも同じ症状に悩まされているのか辛そうにしていた。


「それにしてもすごい精神力ね。普通はわたしの目を見た奴全員の精神を数秒で狂わせることができるわ。ドラゴンだって数分で耐えられなくなって、暴走することになった」


 精神を狂わせる権能に耐える。

 純粋なステータスがドラゴンよりも高いことを褒められていた。


「それもここまで。すぐに意識を手放してしまった方が楽よ」


 槍を手にしたペレがゆっくりと近付いてくる。


「諦められないなら、わたしがやってあげる」


 ペレに一切の躊躇はない。これでも神が庇護するべき人間のつもりでいるんだけどな……


「ありがとう」

「は?」


 神気を纏った神剣でペレの体を何度も斬る。四肢と体がいくつもに分かれているはずだが、切断面を炎が覆っていてギリギリ元の姿を保っていた。

 神も倒せるはずの攻略法だが、ペレには致命傷を与えることができない。


「どうやって……」


 致命傷にはならなかったがダメージにはなっていた。今は視線だけを動かして後ろへ移動した俺を見るので精一杯だったペレが呟いた。


 どうやって、というのは攻撃が通用した方法よりも、俺がペレの力の影響を受けずに動けている理由だろう。


「それがわたしのスキルよ」


 狂熱の影響を受けなかったのは、俺だけでなく眷属も含めた全員だった。

 ペレの視線が俺からノエルへ向けられる。


「ティシュアァァァ!」


 慟哭にも似たペレの叫び。

 彼女が見つけたように『ティシュア神の加護』があるおかげでノエルは神の力による精神への攻撃をある程度弾くことができる。それを【迷宮同調】で共有することによって俺たち全員もペレの精神攻撃から逃れることができた。


 問題は、あいつだ。


「グルァァァ!」

「吠えるな!」


 ブレスを吐き出そうとしていたレドラスの顎を下から押さえて口を強制的に閉じる。そうなれば吐き出そうとしていたエネルギーが口の中で暴発する。

 ブレス対策には最も簡単な方法だ。もっとも、ドラゴンの体を一部でも動かせるだけの力が必要にはなる。


 負傷したレドラスだったが、自身の状態など気にせず爪で斬り掛かって来る。

 横から迫るドラゴンの手に対して殴って止める。


「目に入るもの全てに攻撃する……そういうわけじゃないのか」


 レドラスの後ろに溶岩の蛇が見える。

 距離を取るべく【跳躍】で離れた場所まで一瞬で移動する。すると俺が立っていた場所に吐き出された溶岩が大量に落ちてくる。

 自身のすぐ横を通り過ぎたはずだが、レドラスは吐き出された溶岩を一切気にしていなかった。

 まるで仲間の攻撃だから当たらない、と信頼しているような姿だった。


 単純な暴走ではない。『味方』と『敵』が入れ替わっている。

 詳細を把握する前に【ティシュア神の加護】が働いてしまったため、どのような効果があるのかは分からない。

 どのような効果だったとしてもレドラスが暴走していることに変わりない。


「あんたたちに彼は殺せないわよね!」


 満面の笑みを浮かべるペレ。

 実力的にレドラスを倒すだけなら全く問題ないが、そんなことをすれば街の人々が恐慌状態に陥ることとなる。今はレドラスの存在を支えにしており、柱がなくなった瞬間に反動で激しく崩れることとなる。

 適切な行動ができなかった多くの被害者を出してしまったため、彼らを見捨てる気になれなかった。

 どうにかレドラスを正気に戻す必要がある。


「さあ、どうする?」


 敵になったのはレドラスだけではない。火山のあちこちにいた魔物が大量に巣へと襲い掛かって来る。

 しかし、メリッサの魔法によって巣へ到着する前に悉く落とされてしまう。

 メリッサの攻撃を止めるだけでも効果がある。【狂熱】を防いでいるノエルへ狙いを変えたペレをシルビアとアイラの二人が足止めしている。


 最も重要な役割を担っているためノエルが攻撃を受けるわけにはいかないので最後方にいる……と思わせているが、彼女の本当の役割は核を探すことだ。万が一にも攻撃を受けることがないようイリスがノエルの前に立つ。

 厄介なのはイリスの状態だ。熱の影響で既にフラフラな状態で、戦闘を長引かせるわけにはいかない。どうにか全員で戦えているから抑えることができている。


 遠くにいるペレが笑う。

 率先して攻撃するつもりはない。奴は自分が有利な状況になったら隙をついて逃げるつもりでいる。全てを捨てる覚悟さえあれば逃げられるはずだ。


 レドラスの拳を神剣で受け止める。

 さすがに別の場所へ意識を向けている状態でドラゴンの攻撃を受けるのは辛く、わずかに後ろへ押し込まれてしまう。


「防戦一方じゃない。さっきまでそっちの方が数は有利だったのに」


 今は火山にいる全ての魔物がペレの味方となっている。

 これがペレなりの余裕だったのだろう。


「――【召喚】」


 そっちが味方を増やすなら、こっちも同様に味方を増やすまでだ。

 ただし、ペレみたいに数を優先した増援ではなく、この状況で最も頼もしい味方となってくれる存在だ。


「賢竜魔女ツァリス」


 火山の中層に真っ白なドラゴンが姿を現す。

 白い鱗にマグマから発せられる熱と光を受け、見上げる俺たちの目には白を通り越して白銀に見えるほど美しい姿だった。

 魔物の中で最強種であるドラゴン。その強さもさることながら、気高さと美しさもあって『最強』と称されている。そんな種族の中で一時期は最強のドラゴンの称号を賜っていたツァリス。彼女の美しさは他のドラゴンの追随を許さないほどだった。


 ゆっくりと下りてくる。彼女にも【迷宮同調】によりこちらの状況は伝わっており、レドラスが敵対していることは理解しているはずだった。


「……本当は呼びたくなかったんだけどな」


 ツァリスは街に残してきた。彼女には街にいる人々に掛かっている精神魔法に問題が起こらないか確認する、という役割が与えていた。

 それでも今の状況において最も頼りになるため呼ばざるを得なかった。


「なにを……」


 小さく呟かれた言葉だった、俺の耳にはしっかりと届いていた。

 迷宮主であるため迷宮の魔物が抱いている感情が伝わってくる。

 レドラスの鋭い視線がツァリスへ向けられる。今のレドラスにとってツァリスも敵意を向けるのに十分な相手だった。


「何をやっているんだい!!」


 レドラスの頭上にいるツァリスが体を激しく振って尻尾をレドラスの頭に叩きつける。

 その所作に優雅さはなく、母親が子供を叱っているだけにしか見えなかった。


「俺としては魔法で動きを抑えてくれれば十分だったんだけどな」

☆コミカライズ情報☆

7月23日(土)

異世界コレクターのコミカライズ第2巻が発売されました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 愛ある一撃で正気を取り戻す感動的なシーンだぞきっと……多分。 正気に戻らないなら拘束してウロコを一枚ずつペリペリ剥がしていくくらいしても許されるとおもうんだ
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