第25話 VS狂熱の女神―前―
「もういい! 火山が手に入らないなら、あんたたちの首を手土産にさせてもらうことにするわ」
ペレが槍を手にしたまま飛び掛かって来る。
突き出された槍をギリギリで回避する。
目の前を通り過ぎていく槍。しかし、通り過ぎたとばかり思っていた槍が巨大化し、服を焼こうとする。
「やっぱり簡単にはいかないか」
槍を突き出した姿勢から足を踏みしめ体を駒のように回転させ、勢いをつけた状態で槍を振り下ろす。
予想外な巨大化を目の当たりにして動揺し、さらに回避する余裕がない。
「お、オレのお気に入りの場所が……」
「後で直してあげるから文句を言うんじゃない」
ペレの放った渾身の一撃だったが、地面を穿つだけで終わる。溶岩の海に最も近い場所にあるため頑丈さを求められた地面に穴が開いている。
予想に反して力がある。
「どちらかと言えば技術で戦うものだとばかり思っていたけどな」
「わたしの本来の戦い方もそっちよ。けど、あなたが相手なら技術で多少威力を上げたところで意味なんてない。なら、最初から全力で攻撃した方がいいでしょ」
槍の中心を持ち、胸の前で回転させる。溶岩の海から吸い寄せられるように槍へ溶岩が集まり先端
に炎が灯される。
炎の輪が現れたように見える。
「飛べ」
槍の先端から溶岩が飛び、空中で炸裂すると小さくなった溶岩が落ちてくる。小さいと言っても人の頭ほどの大きさはある。
直撃は避けたい。防御してもいいが、回避した方が分かりやすい。
「全員、散れ」
6人でバラバラに走る。
せっかく6人……いや、7人もいるのだから分散した方がペレの狙いを狂わせることができる。
眷属とは念話に頼らなくても意思疎通ができる。
「え……」
しかし、7人目とは全く意思の疎通が取れていない。
空から降って来た炎の塊を全身で受け止めることとなった。まあ、火竜であるレドラスなら大きなダメージとなることはない。
「一人でどうにかできるのか?」
神剣を抜く。他の者も走りながら武器を手にして、すぐに攻撃ができるよう備えている。
「問題ない。数の少なさは神の力で補うことにする」
島の周囲にあるマグマの海から20本の柱が立ち昇る。
ウネウネと蠢いたかと思えば蛇のように形を変えて襲い掛かって来る。
「いや、蛇じゃなくてレドラスに対抗して龍でも模倣したのか」
どちらでも構わない。
噛み付こうと溶岩の蛇を跳んで回避すると上から神剣を頭に突き刺して動きを止める。個々に意思があるかのような動きをできるよう生物の姿を模倣してしまったせいで、生物と同じ弱点が生まれてしまった。
頭部を破壊すれば止まる。他にも急所があるかもしれないが、最も分かりやすい弱点は溶岩の体であるため頭部だった。
「さっさと進むぞ」
溶岩の蛇の頭を凍らせて止めたイリスが周囲に氷柱を浮かべてペレに向かって飛ばす。
しかし、ペレの中心で蜷局を巻いて立ちはだかった2体の溶岩の蛇によって溶かされてしまう。
2体の蛇がイリスに狙いを定める。
口から溶岩の塊が何度も吐き出された。横へ跳び、氷の壁を生み出して防御したイリスだったが、足を止められてしまった。
「これで二人目」
ペレは周囲にいる蛇と感覚を通わせることができていた。既にシルビアが蛇から吐き出された溶岩によって吹き飛ばされたことを知っており、余裕の笑みを浮かべていた。
こちらの実力を理解していながらも、勝利を実感すると嬉しく思わずにはいられない。
アイラが前に出る。
接近するアイラの姿を目にした2体の溶岩の蛇が炎と溶岩を吐き出して接近するアイラに浴びせる。しかし、アイラが剣を振るだけで全ての溶岩が切り払われる。
「どきなさい」
威厳の籠った声でペレが溶岩の蛇に命令する。開いた正面に向かって槍を突き出し、2体の溶岩の蛇が邪魔で一気に貫く必要があったアイラが突き出そうとしていた剣と衝突する。
槍と剣が拮抗する。
「……これでいい!」
アイラの視線が槍へ向けられる。
突き出した状態のまま拮抗したことで槍の全容がハッキリ見えるようになった。
「くっ……」
ペレも自分が弱点を晒していることに気付き腕を引こうとする。
しかし、下から腕を捕まれて引けなくなる。
「いつの間に!?」
地面から上半身だけを出したシルビアがペレの腕を掴んでいた。
【時抜け】でペレが少しの間だけ見失った隙を衝き、【壁抜け】で地中に潜んで機会を伺っていた。
「見つけた!」
「……!!」
聞こえてきた声にペレが俺たちの最後方にいたノエルを見る。
ノエルは最小限の動きだけで溶岩の蛇の攻撃を回避すると、その場から動かずにペレを観察していた。
再度、彼女に襲い掛かろうとしていた溶岩の蛇はメリッサの手によって彼女自身に襲い掛かろうとしていた溶岩の蛇とまとめて攻撃を受けていた。
「槍の刃の少し上」
ノエルが見つけたのは紅い宝石の位置。
ペレの肉体が炎で造られる時には槍の位置にあった。そのままなのか確認する必要があり、ずっと探していた。
せっかく6人で一人を相手にするなんて贅沢ができるんだ。
5人を陽動にしたっていい。
「その宝石、お前が顕現する為の依り代だろ」
神は現世に影響を及ぼす際に依り代を必要とする。
人が依り代の役目を果たしていたのが『巫女』。ただし、『巫女』でも神の言葉を届けるのが精一杯で、好き勝手するのは不可能だ。
自由に動けるよう『何か』を依り代に顕現する。
依り代はなんでもいいわけではない。神の力が耐えられるような強い力を持った物でなければならない。
「バレているんなら仕方ない。これがわたしの命そのものと言っていい」
神を倒すのは至難と言っていい。
神気を纏った武器で攻撃する必要がある。ところが先ほどの戦闘で既に試していたというのにダメージを与えることに失敗してしまった。神を相手にするなら最初から消耗を考えずに神気を使用する必要がある。
炎を利用した分身だから。そういった理由も考えられるが、そもそも目の前にいるペレも肉体を炎から作られている。
何かカラクリがある。
だが、難問解きに付き合うつもりはない。
「分かりやすい弱点が見えているんだから、そこを狙えばいいだけだろ」
ペレ自身の強さはそれほどでもない。
槍の破壊を優先したとしても制圧することは可能なはずだ。
『ところがそうでもないみたい』
『ノエル?』
声に出さず念話で伝えられた。
『ティシュア様によれば槍にある宝石はブラフ』
『は?』
『それもわたしの感覚だと本物だって思えるよう偽装されているから、ペレがわざと勘違いするようにしているみたい』
では、いったいどこにあるのか?
それを考える暇はなかった。
「ようやくか――狂え」
「……レドラス?」
ノエルが大きな音を立てながら近付いてくるレドラスを見上げながら名前を呼ぶ。
しかし、レドラスからの返事はなく、代わりに爪を立てた手がノエルのいる場所へ叩きつけられる。
☆コミカライズ情報☆
7月23日(土)
異世界コレクターのコミカライズ第2巻が発売されました。




