第24話 マグマの女神
情けない声を上げながら溶岩の中に落ちたレドラス。火の粉や溶岩が落ちながら体に当たったもののドラゴンの体であるため火傷によるダメージはない。
同様にマグマの中に落ちても暑さを感じるぐらいで済ませられる。
「で、どうすればいいんだよ」
マルスからの指示はない。
なら、ドラゴンである彼がすることは一つだった。
「好きにやらせてもらおうじゃねぇか!!」
体を回転させて尾を振り回し、鋭い爪の生えた腕を振り下ろす。
ただマグマの海の中で暴れているようにしか見えないが、レドラスの攻撃はしっかりと届いている。
「……っ!」
「何かいるな」
声が聞こえたわけでも、姿が見えたわけでもない。
それでも動揺した存在を感じ取っていた。
ちょうど左腕を伸ばした先。
「チッ、当たらない……!」
そこに向かって爪で攻撃するが、今度は掠りもしない。
だけど、マグマの海の中にいることだけは分かった。
「なら、こうするまでだ!」
レドラスの大きく開けた口に魔力が練り上げられる。ドラゴンの口から放たれるのは、魔力を圧縮させたブレス。
放たれたブレスは敵に当たらない。
だが、マグマの海の中でブレスを放ったという事実が重要だった。
「吹き飛びな」
噴火したばかりの火山。
そんな場所の深い所でブレスのような高密度のエネルギーを放てば火山にも影響が及んでしまう。
結果、マグマの中で小規模な爆発がいくつも起こる。
「この場所から退場してもらおうか」
☆ ☆ ☆
マグマの中で起こった爆発によって、あちこちで溶岩が吹き飛ばされる。
そんな中、一つの紅い宝石がレドラスの巣だった島に落ちる。
「これでいいか?」
「ああ、問題ない」
再度の噴火で荒れ狂う火山の中を飛んで下りてくると島に着地する。隣には人の姿になったレドラスが立つ。
残念だけど、俺の隣は埋まっているんだ。
「【召喚】」
レドラスの巣に眷属全員を召喚する。
空から火山の様子を観察し、溶岩流の状態から土壁の最適な位置を割り出すだけなら全員で上空まで移動する必要はなかった。
だが、ここから先はそういうわけにはいかない。
「ようやく最終決戦だな」
イリスの足元で発生した冷気が地面に転がる紅い宝石へと向かう。
けれども宝石の手前から先へ進むことができなくなってしまった。
「確認はできた。もう必要ない」
「分かった」
紅い宝石の正体も分かっていた。
紅い宝石から炎が立ち上り、人の姿を形作ると肉となってペレが現れる。
そうして紅い宝石が填められた槍を手にする。
「よくも……!」
その顔に余裕はなく、怒りが露わになっていた。
「噴火が思うように被害を出さなかったことを怒っているのか? それとも、こうして弾き出されたことに文句をいいたいのか?」
「両方だ。よくも神を相手にこのようなことができるな!」
通常は神を敬うものだ。
ところが、俺たちはペレの計画を悉く潰してきた。
「許せないのはこっちの方だ。お前、何がしたいんだよ」
「……」
答えるつもりはないのかペレは沈黙を貫いた。
まあ、自白の必要などなく予想はできている。
『久しぶりね、ペレ』
「ティシュア!」
『そっちの様子は私の「巫女」の目を通して見させてもらったわ』
ノエルとティシュア様。どちらかが望めばノエルの得た情報はティシュア様へ伝わるようになっている。
二人の絆は簡単に断ち切れるようなものではない。
『貴女が不完全な神であることも見抜いているわ』
「……!!」
それはペレにとって見抜かれたくなかった事実らしく、動揺が顔に現れていた。
「ちが……」
否定しようとするけど、ティシュア様は見抜いている。
『火山の奥まで来た時、神気に敏感なノエルでも貴女の存在を感知することはできなかった。それは彼らの接近を知って必死に隠れていたからよね』
「……そうよ」
『そんなことができるから不完全なのよ』
ティシュア様曰く、ペレが目指していたのは火山を支配する神。支配することで火山にある魔力を自由に利用することができるようになる。
ところが、居座るようになってから1年近く経過しているというのに支配は完全ではなかった。
もしも支配が完全ならノエルの知覚から逃れることはできていなかった。
『最初にマルスたちの接近に気付いたのはサンドワームを倒した時ね』
数を増やしていたサンドワーム。この場所に居座るようになったペレにとって最も相性のよかった魔物で、神気を与えることで異常なまでの繁殖能力を獲得し、数を増やすと同時に各個体の力を強めていた。
神気を与えられたサンドワームは、ペレの眷属のような存在。細かな情報まで伝わらなくても、異常な力によって瞬く間に倒された情報は伝わる。
俺たちの接近を察したペレは沈黙を貫くこととした。
『なにせ今の貴女はマウリア火山から離れることができないのだから』
「どうして、それを……」
『神の力のほとんどを失っていたとしても私が神であることに変わりありません。それぐらいの事実を見破ることはできます』
神であるためマウリア火山に溶け込むことで支配することができるはずだった。どこでもいいわけではなく、『火山』だったためペレが支配するのに適していた。
誤算は、マウリア火山には既に神の代理と言える存在がいたことだ。
「オレか!?」
マウリア火山に溶け込んだものの、支配権はレドラスにあった。
何百年も前から居座り、火山の噴火を抑えていた。街にいる人たちから崇められていたこともあって神に近しい存在となっていた。
火山からいなくなった後もレドラスに支配権がある。
この状態では、火山の魔力を自由にすることなどできない。
おまけに中途半端に溶け込んでしまったのがよくなかった。
『無理に土地神になろうとした結果、この土地から離れることができなくなったのでしょう?』
ペレに残された選択肢は一つ。
どこかにいるだろうレドラスを排除することだった。レドラスがマウリア島のどこかにいることは分かっていた。もしも島から出ていたならレドラスからの影響は最小限となり、ペレでも支配権を奪うことができるはずだからだ。
「そのとおりよ! わたしには、どうしてもそこにいるドラゴンを殺す必要があった。けど、人間の姿になっているせいで見つけることができなかった!」
神にとって人間の違いなどあってないようなものだ。
区別できるとしたら、それは特別に寵愛や加護を与えた者たちだけ。人化したレドラスの姿は街中にいたおかげで判別できなかった。
ペレが指標としたのは、ドラゴンの強さ。
「火山に近付く連中を適度に襲えばドラゴン並みの強さを持った人間に遭える。だからサンドワームの数を増やして探していたの……それが、逢いたくもない奴を見つけることになるなんて」
一時は隠れることに成功した。しかし、次は見つけられてしまうかもしれない。
そんな危険性もあったが、それよりも重要だったのが『俺たちを避けている』という事実だった。神であるにもかかわらず特定の人間を恐れている。そんな事実は認められなかった。
ただし、相対するのも絶対に嫌だった。
「逃げ帰れるよう街を魔物に襲わせたり、溶岩で押し流そうとしたりした。それなのに悉く阻止するなんて……だから戦いたくなかったのよ」
自発的に離れるよう俺たちに促していた。
だが、もう敵対する意思を変える気がない以上、ペレの願いは叶わない。
「最初にサンドワームを倒した時、わたしたちが死体を詳しく調べていたら神気に気付いて神の存在も察知できた。そうすれば昨日の段階で根気よく探して貴女を見つけることができたかもしれない」
それはノエルの後悔。
先を急ぐあまり死体の処理を適当に済ませてしまったことが今でも悔やまれる。
「俺たちを遠ざけると同時に、お前は自分の方法で魔力を回収していたんだ。力をつける為なら多くの人間を平気で犠牲にできるような奴を放置するわけがないだろ」
☆コミカライズ情報☆
7月23日(土)
異世界コレクターのコミカライズ第2巻が発売されました。




