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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第8章 食材狩猟
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第19話 アルケイン商会

 アルケイン商会。

 数十年前まではアリスターの街で他の商店と協力しながら雑貨店を経営する小さな商会だった。

 だが、先代の当主がかなりのやり手で販路を拡大しながらも利益を生み出したことで規模が大きくなり、いつしか大きな商会になっていた。


「それが、主の祖父が先代当主だったアルケイン商会です」

「俺の祖父さんがそんなに凄い人だったなんて」


 いつものパーティメンバーに加えて母と妹を連れてアルケイン商会の屋敷へと向かう。兄も同じ孫なので連れて来たかったが、騎士であるため俺たち冒険者と同じように自由に休みを取るというわけにはいかなかった。


「私も父から聞いた話だけですので、これ以上の詳しい話は知りません」

「いや、助かったよ」


 祖父と面会する前にアルケイン商会がどのような場所なのか聞いてみようと思って軽い気持ちでメリッサに聞いてみただけだったのか色々と情報収集してくれたらしい。けれども正確な情報が得られたわけではなかったため俺に伝えるのは躊躇われたみたいだ。

 今では同じ商売人として生きているガエリオさんは、アリスターを取り仕切る商人について色々と話を聞いていたみたいだ。


「ということなんですが、母さんの方ではどうですか?」

「そうね。概ねメリッサの語った通りだわ」


 母は昔を懐かしむように思い出していた。


「アルケイン家が大きくなったのは私が生まれるよりも前の話よ。商人として成功することに野心を抱いていた父は、母と結婚するなり自らの商才を活かして色々とアルケイン商会の方針に口を出していったらしいわ」

「その言い方だとお祖父様はアルケイン家の人間ではなかったのですか?」

「そう。父は入り婿だったらしいわ」


 メリッサの質問に母が答える。


「父は商人として様々な人と付き合い、利益が出せそうな話には食い付いていったらしいわ。そうしてアルケイン家は大きくなった。ただし、人として一線だけは踏み外したりせずに大きくしていったみたいだから娘として商売人としては誇りではあったわ」


 たとえば商売を行ううえで邪魔になる商人がいた。そういった商人が商売をできないように排除したり詐欺紛いの商売を持ち掛けて破産させたりといった行為だ。

 野心は持っていてもそういう行為を嫌っていたらしい。


「ただ、使えるなら家族でも使うような冷たい人だったわ」

「え?」


 話を聞いているとなんだかいい人のような気がしていただけに母の評価が意外だ。


「貴族と同じように商人にとっても縁談というのは縁を繋ぐという意味で重要よ。だから娘だった私たち3人には父の決めた婚約者が一定の年齢になると紹介されたわ」


 母は3人姉妹の三女。

 長女である伯母には将来商会を継いでくれる優秀な人物との縁談が勧められ、二女には他の商会で年頃の男性がいたため彼との縁談が勧められた。そして、母にも付き合いのあった貴族との縁談があった。


 だが、縁談が勧められる前に母は父と出会ってしまっていた。

 結局、喧嘩別れするように相手のことを告げずに母は家出同然に祖父の下を去ったみたいだ。


 だから商売人としては尊敬できても父親として尊敬することはできなかった。


「そんなことがあったんですか」

「実際にはアリスターから馬車で半日ちょっとの村にいたのに20年近く見つけられることなかったわね」


 商会主だった祖父が本気で探せば見つけられなかったとは思えない。

 おそらく祖父も母に関してはそっとしておくことにしたのだろう。


「ところが、久しぶりに会った父は人が丸くなったように野心を捨て去ったような人になっていたからびっくりしたわ」


 てっきり、そんな別れ方をしたならアリスターで再会した時には苦労したのだろうと思っていたのだが……


「働いている間に従業員から聞いたけど、姉の旦那に当主の座を譲り渡して孫が生まれた頃からただのお爺さんになったらしいわ」


 孫が生まれると人が変わる、という話は聞くが俺の祖父はそういう人らしい。


「さ、ここがアルケイン商会の屋敷よ」


 母に案内されて連れて来られた屋敷は俺が買った屋敷よりも大きな屋敷で、正面には大きな扉があり、左右にいくつもの部屋があるのか長く続いていた。庭には冬ということで水はないが噴水まであった。

 屋敷の入口前には執事服を着た壮年の男性が待っていた。


「これは、お嬢様……」

「もう私はお嬢様ではないわ」

「ですが、お嬢様が幼い頃から仕えてきた私にとっては、どのようなことがあろうともお嬢様はお嬢様です」

「……子供たちもいるのだから奥様でお願いできないかしら」


 母の見た目は若い方だが、さすがにお嬢様と呼ばれるような年齢ではない。


「分かりました奥様。それで、本日用件があるのは冒険者の方たちだと伺っていましたが、なぜ奥様が一緒におられるのですか?」


 約束を取り付けるに当たって冒険者として魔物を狩ったところ大量に手に入れたので直接売りたいという話しかしていない。

 俺と前当主の間にある関係を知られてしまうと逆に面倒なことになるかもしれないと警戒しての対応だ。


「それは、この子が私の息子だからよ」

「なんと……!」


 執事が驚いていた。


「私の息子が騎士と冒険者だっていうことは教えておいたはずだけど?」

「ですが、その冒険者が街で今最も話題のある冒険者だとは聞いておりませんでした」


 あれ、いつの間にかアリスターにおける俺はそういう立ち位置になっていたの?

 街で恐怖の対象だったシルバーファングを討伐したことで俺たちパーティの評価はまた上がっているから仕方ない。まあ、特に困るようなものでもないしいいか。


「では、ご案内いたしますのでついてきてください」


 執事に連れられてきたのは大きな倉庫のような場所。

 中には商人らしき男性が4人いた。


「今回の商談は肉の売却とのことですが、商品の方はどちらになりますか?」

「ああ、それは……」


 俺たちが手ぶらだったことから不審に思ったものの前当主の孫だったということから多少は信頼されているみたいだ。

 4人で分担して収納リングから木箱を4つ出現させる。

 中にはスノウオークなどの肉が詰め込まれており、傷まないよう冷凍保存されている。


「これはスノウオークですね。あの……」


 執事が言い難そうにしていた。

 彼の所望している物が何か分かっている。

 メインディッシュということで最後に取り出した木箱に詰め込んでいる。


「これがシルバーファングの肉、それから爪や牙、毛皮になります」


 解体した素材を商人たちに渡す。


「これがシルバーファング」

「誰も扱ったことのない素材だ。確実に売れる」

「一体どれだけの利益を出せるのか」

「問題はどうやって売るかということですね」


 シルバーファングの素材を受け取った商人たちは早速商売について頭を悩ませていた。

 これまでに数十年間討伐されたことのない魔物の素材ということで希少価値はかなり高いうえに素材としての効果も確かだ。

 彼らならギルド以上の利益を出してくれるのは間違いない。


「たしかにお預かりしました」


 俺たちの納品した素材を受け取るとテキパキと商品をどこかへ運んで行く。

 当初の予定ではシルバーファングの納品はなかったが、彼らの為にも戦って正解だったみたいだ。


「こちらが報酬となります」


 皮袋を渡して来たので中身を確認する。


「予想していた金額よりも多いみたいですけど」

「こちらもシルバーファングのような希少な素材を売っていただいたので多少色を付けさせていただきました」


 そういうことならありがたくいただくことにしよう。


「さて、当主からもシルバーファングの素材を納入してくれた皆さんにお礼を一言言いたいと伺っております。よければ一緒に昼食でもいかがですか?」

「ありがとうございます。ご馳走になります」

「最初は凄腕の冒険者と話がしたいとのことでしたが、その凄腕の冒険者が自分の孫だと知ったら当主様も驚きになられるでしょう」


 けっこう高齢なはずだし、あまり負担を掛けないようにしよう。


 俺も今になって祖父と会うことになるなんて思いもしなかった。

 父の両親は、父が幼い頃になくなっていたため祖父母とは無縁だと思っていた。


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