第18話 巨大百足
街の中心にあった広場の地面を砕いて現れたのは巨大な百足の魔物。黄土色の体をしており、左右の側面には無数の足がついていて蠢いている。
飛び出して来た時に撒き散らされた涎を浴びた建物が溶解している。幸いにして涎を被ってしまった人はいない。
「念の為に風で障壁を張っておいてよかったな」
実際には地面が揺れた時点で俺が風の障壁を展開させていたから、建物の上の方に被っただけだ。
巨大な百足は初めて見る魔物だったが、サンドワームと似た魔力を感じられる。
「とりあえず同じ攻略法から攻めてみることにするか」
巨大百足に向かって走る。
すると、向こうも地上にいた俺の存在を捉えたらしく頭を向けてくる。最初から風を発生させた人間が近くにいることには気付いていたけど、俺であることまでは気付いていなかった。
巨大百足が大きな頭を何度も突き出す。頭が振られたタイミングに合わせて溶解液が吐き出される。
だが、どれも俺には当たらない。地面を溶かして穴を開けるだけに終わる。
「まずは、その頭から割ってやる」
サンドワームも頭部近くに魔石があった。
跳び上がって巨大百足と同じ目線まで移動すると、頭を斬り飛ばすつもりで神剣を振り下ろす。
剣の軌跡に沿って放たれた斬撃が巨大百足の頭部を両断する……はずだった。
「速い!」
凄まじい速度で体を横に動かしたことで巨大百足が斬撃を回避する。
不利な姿勢。そんな状態で無数にあるように思える足を一斉に俺へ向ける。狙いが定まった直後、百足の足がミサイルのようになって襲い掛かって来る。
視界を覆いつくすほどのミサイル。
「これは迎撃できる量じゃないな」
だが、回避すれば後ろにある建物を破壊することになる。すぐ後ろの建物を破壊するだけで終わればいいが、街は何キロも先まで続いている。
全部打ち落とすしかない。
「――【世界】」
迷宮外でのスキル使用。時間を停止していられる時間は長くない。
停止した足の位置を全て捉える。動いていた時は無数に思えた攻撃だったが、停止した状態ならはっきりと数えることができる。
総数2000本。
1本1本が人間の体など簡単に貫いてしまえるほど大きく、単体でも脅威となる攻撃だった。
「嬉しいね。最初から全力で攻撃してくれるのか」
おそらく後ろにペレがいる。彼女から俺には全力で攻撃しろと言明されているのか全力だった。
「マルス! あんまり長い時間止められていないんだから早くしなさいよ!」
遠くでアイラが叫んでいる。時が止まった状況でサンドワームを倒すのは作業にしかならないため、こちらを気にする余裕がある。
言われるまでもない。早々に終わらせよう。
「土槍、装填」
周囲に土槍を2000本浮かべて飛ばす。
【世界】の影響で俺の魔法であっても、俺から離れすぎてしまえば時が停止してしまう。
今回、土槍には足のミサイルを迎撃する、という目的を持たせている。土槍と衝突する寸前で岩槍の動きがピタッと止まる。
2000本の足のミサイルの前に2000本の土槍が停止している。
「解除」
漏れがないことを確認してから時間停止を解除する。
百足の足と土の槍が衝突し、激しい衝撃が周囲に拡散する。
「……」
巨大百足が目の前に光景に戸惑う。
自分の放った攻撃の全てが相殺され、街には一切の被害が出ていない。影響があるとしたら地面に落ちた粉塵ぐらいだ。
「デカいのも考え物だな。足元ががら空きだぞ」
地面に接している部分に向かって神剣を振る。
「チッ、浅い……!」
直前で気付かれたのか後ろに引いて斬撃の直撃を防いだ。両断するには傷が浅すぎる。
「そこまで簡単にはいかないか」
体を持ち上げていた巨大百足が地面に向かって倒れてくる。
自身の重さで下にいる俺を潰す。遠距離からの攻撃が通用しなかったため適した攻撃だ。
「そっちから向かってきてくれるのは助かる」
地面に魔力を走らせる。
魔法の力を受けた地面が形を変え、先端の尖った柱となる。
そのまま巨大百足の体を串刺しにするはずの攻撃。
「チッ、どれだけ硬いんだよ」
巨大百足と衝突した瞬間、柱の方が砕けることとなった。
砕けたのは先端の方のみ。無事だった土台部分が落ちてきた巨大百足の体を受け止めていた。
巨大百足が下から支えられたまま足を俺に向けてくる。
「もう再生させたのか」
足だけではない。先ほど斬ったはずの傷もいつの間にか消えていた。
驚異的なまでの再生能力。
口から溶解液が吐き出されて柱を溶かしていく。
「もう、いつまで時間掛けているのよ」
倒すべく魔石の位置を探っているとアイラが合流し、巨大百足の体を次々と斬り裂いていく。
溶解液とは別に巨大百足の緑色の血で地面が染め上げられていく。
「おい、残りはあのデカい百足だけだ」
「街をこんなにしやがって!」
「行くぞッ!」
さらに動き出さずにいると街にいた冒険者が続々と集まってきて巨大百足に斬り掛かっていく。
だが、彼らの攻撃では巨大百足の体を傷付けるには足りない。
「硬ぇ!」
「どうなっているんだよ!」
中には剣が折れてしまった者もおり、表情を険しくさせていた。
彼らの攻撃では意味がない。
「仕方ない」
呆れながら飛び上がり巨大百足の体をアイラと一緒に斬り裂いていく。
神剣や聖剣なら巨大百足の硬い体にも通用する。
巨大百足が全身を斬られたことで悶えている。闇雲に足を再び発射させるが、近くの建物に当たる前にメリッサの魔法によって打ち落とされていた。
『周囲への被害は私とイリスさんで抑えます。二人は百足の討伐に集中してください』
『ありがたい』
巨大百足の頭上へ飛び出す。
すると、巨大百足の方も俺が頭上へ移動したことに気付いて眼だけをこちらへと向けてくる。
「あった!」
魔石の位置は捉えた。
同時に巨大百足から100本の足がミサイルになって放たれる。何本かは足同士で衝突して誤爆してしまっているが、隙間のない弾幕が張られている。
「分かっていないな。隙間なんていくらでも作り出すことができるんだよ」
時間を停止させ、ミサイルを足場にしながらミサイルの上を通り抜ける。
時間停止を解除させれば状況を把握し、驚いた表情をする巨大百足と目が合う。背後の空中で爆発が起き、俺がやり過ごした巨大百足の足がメリッサの手によって破壊される。
眼前まで迫った俺に対して巨大百足が噛み付こうとする。
「そこだ」
飛び掛かって来た巨大百足を搔い潜り、口の下へ潜り込むと神剣を突き刺す。
瞳から光を失った巨大百足が地面に倒れる。大通りの通行を塞ぐことになってしまったが、既に巨大百足が地中から出て来て、暴れたせいで利用できない状態にはなっていた。
「終わったのか?」
ギルドマスターのアルハンドが尋ねてくる。
少し前に街で暴れていたサンドワームも全て倒されている。最後の巨大百足が倒されたというのなら確認しないわけにはいかない。
「ああ。魔石は抜いてある」
神剣の先に突き刺さった魔石を見せる。
俺たちがいたからこそ巨大百足を倒すことができたが、いなければマウリアにいた冒険者たちで戦うことになり、攻撃が通用しないため全滅するしかなかった。
巨大百足だけでも普通なら街を滅ぼすだけの力があった。
「問題は被害が尋常じゃないことだな」
「そうなんだ」
到着までに数分の時間を要している。その間に多くの犠牲が出てしまった。
「ま、増援がなければこれで終わりなはずだ」
☆コミカライズ情報☆
7月23日(土)
異世界コレクターのコミカライズ第2巻が発売されます。
ぜひ手に取ってみてください。




