第12話 火竜のいた理由
ドラゴンに限らず魔物は周囲の魔力を吸収することで生命を維持することができる。だが、食事をすることで快感は得られるため、娯楽を目的に狩をすることがある。
レドラスも基本的には火山にある巣で寝てばかりの生活を送っていたが、思い出したように数十年に一度のペースで狩を行う為に火山から飛び出していた。あくまでも楽しむ為の狩であるため短時間で戻っていた。
最初の目撃証言はこの時にものだった。
「そんな習性があったとは知らなかった」
「べつにタイミングなんて決めていない。完全に気まぐれで出ていたから教える必要もなかったんだよ」
子供が目撃したとしても、目撃した者が次に火竜の姿を見るのは年老いた頃になり人々の記憶からも薄れている。
「ちょっと運動するつもりだった。だけど、戻って来たら『誰か』に火山が乗っ取られていたんだ」
「誰か?」
「ああ。何者なのかはわからねぇ」
見た目は人間と変わらない。オレンジ色の長い髪を靡かせ、誘惑するかのように真っ赤なドレスを着た人間のように見える女性。
人間のように、と言ったのは女性が火山の中心部にいるにもかかわらず肌を晒したドレスを着ていたのに火傷を負っていないどころか、汗を流した様子もなく涼しい表情をしていたからだ。その様子から明らかに人間ではない、と判断できる。
「オレの寝床にその女はいて、戻って来たオレに指を差したら火山の中にあったマグマがオレの方に飛んで来たんだ」
予想していなかったためマグマの直撃を受けてしまった。
ドラゴン、それも火属性のドラゴンであるため耐性を持っていた。それでも執拗なまでに何度も攻撃を受けたせいで逃げざるを得なかった。
「その時に受けた傷もけっこう酷くて、回復した頃にはどうにもならなかった」
夜、こっそりとドラゴンの姿で火山に侵入したものの火山にいた魔物からも侵入者だと見做されて攻撃を受けてしまった。以前はレドラスを火山の主だと認めていて誰も攻撃することがなかった。ところが、今となっては誰かに支配されたように敵だと見做していた。
「間違いなく新たに火山を支配したっていう女だろ」
「そいつをどうにかしないことには戻れないんだ」
冒険者として活動しながら交流を持って彼らの実力を確認した。
結局、レドラスが期待するような力を持つ者はおらず、待っている間に時間だけが過ぎていった。
「それで、俺たちは合格か?」
「そもそも火山の奥まで行ったんだろ」
奥まで行った時点で合格らしい。
レドラスの目的は再び自分の巣まで戻り、何があったのか調べ、万全な状態で巣を奪った女と戦う必要があった。
「そもそも、巣を奪った奴は何者だ?」
「そんなことは俺が知りたいぐらいだ」
普通の人間でないことは間違いない。
「何者であれ、もう一回火山まで行って調べる必要があるな」
昨日は見つけられなかった相手を見つける。
目的が明確になっていれば新たな発見があるかもしれない。
「事情は分かった。ギルドマスターとして聞いておきたいんだけど、どうして火山にいたんですか?」
アルハンドとしては火山にいる理由も聞いておきたかった。
この問題は、マウリア島で何百年も前から議論されていた話題で、いくつもの説が提唱されていたが決定的な答えは得られなかった。
「それはワタシも気になるね。いつの間に北の大陸から移り住んできたんだい?」
ドラゴンが住むのは北にある大陸。そこは人間が暮らすには不適切なほど不毛な大地だが、魔力が豊富にあるため魔物の住処と化している。
ツァリスも生前はそちらに住んでいたらしいが、暴走した際にこちらの大陸まで飛んで来ていた。
「それが……アニキと喧嘩しちゃって」
「はぁ!?」
理由は些細なものだった。
群れの戦士として長を支える立場になる予定だったレドラス。ある日、ある雌のドラゴンに恋をしてしまった。ただし、レドラスが恋をした相手にはパートナーが既におり、恋に暴走したレドラスは雌を賭けて勝負を挑んでしまった。
結果、敗北したレドラスは群れから追放されることとなった。
「あの大陸にも居辛くなったからこっちまで飛んで来たんだ」
その時、レドラスは決闘の際に負った傷のせいで体力を消耗しており、どこでもいいから体を休められる場所を探していた。【人化】を使えるだけの体力が残っていれば苦もなく探せたかもしれないが、ドラゴンのように大きな体では休める場所も限られてしまう。
そんな時に見つけたのがマウリア火山だった。
得意属性と同じ火山はレドラスにとって魅力的な場所に見えた。
「そんなに難しい話じゃない。ちょっと休むつもりで火山の奥で寝ていたら、人間の感覚で言えば2年近く経過していて多くの人間に目撃されていたらしいんだ」
ただし、レドラスがいたのは火山の奥で、頑張っても中層までしか行けない人間では手出しをすることができず、目にするだけで限界だった。
それでも危害を加えられることがなかったため放置されていた。
さらにレドラスが来てから火山が噴火する様子が見られなくなった。マウリア島では冒険者の協力も得て火山の様子を観察し、噴火の危険があるようなら避難するようにしていた。そのおかげもあってレドラスの住処として誰からも認められていた。
「いやぁ、予想以上に快適だったから居着いちゃったんだよ」
「え、じゃあ噴火を抑える為っていうのは……」
「それについては完全に誤解だろう」
マウリア島に住む人々の間でそんな逸話が伝わっているのを俺は否定する。
火山が噴火する原因は、地下深くで生成されたマグマが地面近くまで蓄積されたことで噴出することだ。マグマが生成される原因は色々とあるが、ドラゴンがいたことで抑えられていた、ということはマウリア島の火山は魔力の影響を受けて生成されている。
ドラゴンは魔物の中でも最強種だ。強さと同時に多くの魔力を必要としており、そこにいるだけで周囲の魔力を吸い尽くしてしまう。そのため生きていくことができる場所が限られており、生息域と定めた場所から出てくることは滅多にない。
「レドラスは単純にマウリア火山が気に入ったから巣にしていた。そのおかげでマグマの量が抑えられたから噴火が発生していなかった」
それだけでしかない。
「そうだな。オレは特別何かをした覚えはない」
「そんな……」
とはいえ、これで当初の依頼は果たすことができた。
いなくなった火竜の調査。目の前にレドラスがいるし、いなくなった理由も判明したのだから、これ以上の調査は必要ない。
「改めて依頼する! 火山に居着いたのが何なのか調べてくれ!」
「は?」
「だって火竜より強くて、1年前の段階で火山を支配していたんだろ?」
そんな存在に太刀打ちできる者など俺たち以外に思い当たらなかったらしい。
「……まあ、乗りかかった船だし最後まで付き合うのもかまわないさ」
「ありがとう!」
「ただし! 追加で依頼をするなら報酬も忘れないでくれよ」
☆コミカライズ情報☆
7月23日(土)
異世界コレクターのコミカライズ第2巻が発売されます。
ぜひ手に取ってみてください。




