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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第8章 食材狩猟
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第18話 バーベキュー

 シルバーファングを倒した翌日は庭の見えるリビングにあるソファでゴロゴロとしていた。

 依頼を受けにギルドへ行く予定がなければ、どこかへ出かける予定もない。

 別にシルバーファングとの戦闘をしたせいで疲れているわけではなく、単純に外へ出て目立ちたくなかった。

 たまにはのんびりとするのもいいだろう。

 別のソファではアイラも寝ている。


「いや、暇なのは俺たちだけなんだけどな」

「まったく……その通りですよ」


 声のした方を振り向けば妹のクリスがお玉を持って立っていた。


「そろそろ夕食にしますからお兄様は準備をしてください」

「ああ、分かった」


 空を見上げれば既に夕方になっていた。

 どうやら、のんびりとし過ぎてしまったみたいだ。


「じゃあ、用意しますか」


 とはいえ俺が用意するのは夕食そのものではない。

 庭に出ると土魔法で土を出現させてレンガへと変質させる。そのまま長方形の枠を造り上げる。後は、火を熾す為の薪を道具箱から出してレンガの枠の中に積み上げていく。最後に街で買ってきた金網を乗せれば竃の完成。

 他に収納されているテーブルやイスを庭に置けば大人数でも食事を楽しめる。


「バーベキューの準備はこんなもんだろ」


 俺が頼まれていたのはバーベキューの準備。

 そして、バーベキューに使われる肉の準備は台所の方でアイラとメリッサを除く女性陣の手によって行われていた。


 メリッサはガエリオさんの店を手伝い、早目に閉店した後で合流することになっている。アイラも料理はできなくはないのだが、冒険者としてあちこち旅をしてきた経験が影響しているのか大雑把な料理になってしまう。そのため高級食材である肉の料理には携わらせてもらえなかった。


「準備できているみたいだな」


 先に帰って来たのは兄のカラリスだ。

 うん? 後ろに誰かいるみたいだ……って伯爵じゃないか!?


「なぜ、伯爵がこのような場所に?」

「私もシルバーファングを食してみたいと思ってみたのだ。君たちがシルバーファングの肉をどのように処理するのか聞いていなかったので彼に聞いてみたところ、今日バーベキューをするというではないか。これは参加しなくてはと思い、お忍びで参加させてもらうことにした」

「まあ、いいですけど……庶民の料理だということを覚えておいてください」

「もちろんだ。それと彼らもいいかな?」


 離れた場所には当然のように護衛の騎士が3人いた。

 当然だ。いくら同僚である兄の屋敷で行われるバーベキューとはいえ、領主である伯爵をたった1人の護衛だけで行かせるはずがない。

 だが彼らが本当に守るべき存在は、初めて訪れる場所で緊張しているのか護衛の陰に隠れるようにしていた2人の子供だろう。


「初めまして」


 子供の目線に合わせるため屈んで挨拶をする。

 1人目は8歳の男の子、2人目は6歳の女の子。

 アリスター伯爵が連れて来て護衛の者たちも守っていることから予想できる。


「私の息子と娘だ。息子は将来領主になる。ならば、今後も付き合っていかなくてはいけない厄介な魔物がどのような相手なのか知るのは必要なことだろう」

「いずれ戻って来るかもしれませんからね」


 魔物がどのような理由で現れるのか分かっていないが、シルバーファングはいずれアリスターの東に戻って来る可能性があった。

 以前に討伐された時も数年以内には戻って来ていたみたいだ。

 ならば、今回討伐されてもいずれ戻って来ると考えておいた方がいい。

 その時には領主も交代していることだろう。


「あの、今日はよろしくお願いします」

「平民の食事だけどよろしくね」

「はい。楽しみにしています」


 アリスター家には跡取りに息子と娘がいると話に聞いていたが、2人とも礼儀正しい子供みたいだ。これなら将来も安心できそうだ。


 その後、子供たちからせがまれたこともあってアイラも呼んでシルバーファングとの戦いを聞かせた。もちろんスキルの詳しい内容などを省き、強力な斬撃で体を斬り裂いて行ったという風に話を変えた。

 そんな風に話をしているとメリッサがガエリオさんを連れてきた。


 これで参加者は全員かな。

 予定外の参加者もいるが、話をしている間に準備ができたのかシルビアが大きな鍋を抱えて庭のテーブルの上に置いた。


「領主様のお口に合うかどうか分かりませんが、まずはこちらのシチューからご賞味下さい」

「ほう……」


 まず用意された料理は、空を飛んでいたスノウホークの肉を煮込んで作ったシチューだ。

 護衛の人たちも含めて全員にシチューを配るのを待って一口。


「これは、おいしい」


 冬の外での食事ということで寒いが、シチューを飲んだ瞬間、温かさが体の中に染み込んで行った。

 いや、それだけじゃない。

 鶏肉の持つ風味がシチュー全体に溶け込んでいる。

 鶏肉そのものも口の中に入れた瞬間に溶けるように胃の中へと流れて行く。


「なかなか美味しく調理されているじゃないか」

「あ、ありがとうございます」


 シルビアがすっかり委縮してしまっている。

 調理をしている彼女たちには領主であるアリスター伯爵が来たことを伝えてしまうと妙な緊張して調理中に失敗してしまう可能性があったから予定外の来客があったことしか伝えていなかった。

 さすがに半年ほど前まで貴族との関わりすらなかった村娘に伯爵の相手は厳しい。


「では、こちらも食べてみてください」


 次に出されたのは兎肉をソテーした物に特製のソースを掛けた料理だ。

 伯爵がテーブルの上に置かれた肉にナイフとフォークを入れ、口へと運ぶ。


「スノウラビットの肉は何度も食べたことがあるが、肉に掛けられているソースは特製の物かな?」

「はい。義母に教えていただきました」


 母が教えたかった料理方法がこれだ。

 スノウラビットの肉を焼いた時に出た残り汁を利用して作られた特製のソース。兎肉そのものは焼いただけみたいだが、このソースがスノウラビットの肉の美味しさを引き出していた。


「これはワインが欲しくなるな」

「私が持参した物で良ければあります」


 屋敷には俺以外の家族が飲む為の酒があるが、ほとんどが安物だ。

 その点、商売で酒を取り扱っているガエリオさんが持参した物なら安心できる。


 俺は既に食べ終えたが、1口食べただけで感動を覚えていた。


「どうですか?」


 シルビアが伯爵ではなく俺に尋ねてくる。

 まあ、彼女にとって一番食べさせたかった相手は俺だろう。


 伯爵と同じテーブルに着くのはさすがに躊躇われたので皿に乗せられた肉を立ったまま食していたせいでシルビアからの質問を上目遣いで尋ねられる格好になってしまった。しかも、その様子を伯爵一行にも見られている。

 くそ、恥ずかしい。


「美味しいよ、すごく」

「ありがとうございます」


 俺の言葉を聞いて満面の笑みを浮かべて屋敷の中へと戻って行くシルビア。

 その様子を見ていた伯爵やガエリオさん、壮年の騎士が頷いていた。全員に共通しているのは既婚者ということだ。おそらく彼らも奥さんに対して色々と苦労してきたため俺の苦労が分かってくれたのだろう。


「お待たせしました」


 シルビアだけでなくオリビアさんや母と一緒に持ってきたのは、この数日間の間に得られた牛肉、豚肉、虎肉が下処理された肉。

 当初の予定ではシルバーファングの虎肉はなかったのだが、巨体で手に入ったため虎肉がメインとなってしまった。


「これが冬の間アリスターの悩みの種だった主の肉か……」


 領主としては仇敵のはずなのだが、こうして肉だけになってしまうと憐れみを覚えてしまうのだろう。


「では、焼かせていただきます」


 金網の上に肉が置かれた直後、流れ出た肉汁が音を奏で食欲を掻き立てる。


「どうぞ伯爵様」


 シルビアが焼かれたシルバーファングの肉を乗せられた皿を渡そうとするが、伯爵は首を横に振って受け取りを拒否する。


「初めに食べるべきは彼ではないかね」

「ですが……」

「この肉を調理したのは君だ。君が本当に食べてほしい相手は誰かね?」


 伯爵の言葉にシルビアの視線が俺に向けられる。

 さすがに領主もいる食事会で領主よりも先にメインディッシュを食べてしまうのは躊躇われる。


「それに君がシルバーファングを討伐してくれなければ今日はこのように穏やかに過ごすことができなかった。これぐらいの役得は許されてもいいのではないかな」

「では、遠慮なく」


 フォークを使って焼かれた虎肉を口の中に運んだ瞬間、しっかりとした歯応えが伝わってきて肉汁が口の中に広がる。


「美味しいよ」


 自然と笑みが零れる。


「それは楽しみだ」


 伯爵だけでなく子供たちも笑顔になって竃に近付いていた。

 金網の上では母とオリビアさんの手によって次々と肉が焼かれており、伯爵たちにも配られていった。


「ほら、お前も食え」


 シルビアの口元にシルバーファングの肉を運ぶ。


「ですが……」

「俺は料理をしてもアイラと同じで大雑把な物になるからな。だからお前には感謝しているんだよ」

「悪かったわね大雑把で」


 俺の言葉が聞こえていたアイラが拗ねながらシルバーファングの肉を食べて頬を綻ばせていた。


「作ってばかりではなく、滅多に食べられない食材なのですからしっかりと食べた方がいいですよ」


 肉を焼くのを手伝っていたメリッサが自分も食べながら近付いてくる。


「分かりました」


 シルビアがパクッと肉を食べる。

 その瞬間、調理に疲れていた表情も綻んでいた。


「美味しい、です……」


 終いには涙まで流し始めた。


「本当に、あの時に出会えてよかったです……」

「そうだな」


 おそらく村娘のままだったなら一生縁のなかった食材。

 そんな自分の境遇が信じられないのだろう。


「みなさん、食材はまだあるのでたくさん食べて下さい」


 その後、余っていた肉の一部をお土産として伯爵に渡しバーベキューは大成功に終わった。


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