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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第47章 狂熱乱踊
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第9話 飲み比べ-後-

 酒場の雰囲気は完全にレドラの勝利で終わろうとしていた。

 そんな状況で現れた人物に酒場にいた全員の視線が集められる。


「お嬢さん」

「は、はい!」


 そんな視線など構うことなくメリッサが座っていた場所へ移動すると給仕の女性を手招きする。


「ここからはワタシが相手するから、コップでなんて少しずつ持ってくるんじゃなくて一気に持ってきな」


 困った女性がマスターを見る。

 言葉の意図を察したマスターが奥から持ってきたのは、抱えられるほどの大きさがある樽だ。樽の側面には取っ手が付けられ、上には流すのに適した穴が開けられている。


「誰なのか知らないが、いきなり現れて勝負を挑むならこれぐらいは飲み干してもらおうか」

「平気よ。コイツのやり方が気に入らないだけだから」

「アァ!?」


 挑発されたことでレドラの顔に分かりやすく怒りが浮かび上がる。

 白髪の女性が重たい樽を軽々と持ち上げて一気に飲み干してしまう。


「なかなか強い酒じゃないか。気に入ったから後で買って行こうかね」

「……どうやら口だけじゃないみたいだな」

「当たり前じゃないか」


 お互いの前にコップが置かれて勝負が始まる。


「彼女は何者ですか?」


 レドラと対等に戦うことができる。しかも余裕のある様子で、噴火酒の凄さを知る者としては確認せずにはいられなかった。

 どちらも酒ではなく水のように飲み続けている。


「どうして、俺に聞くんだ?」

「だって知り合いでしょう?」

「……え?」

「こんな仕事をしていると多くの人の反応に触れることができるんだ。酒場にいた連中の多くがいきなり現れた美女の正体に興味津々といった様子だ。だが、あなたたちはレドラに興味があるみたいだ。まるでレドラが戦っている相手が誰なのか分かっているから、勝負の行く末も分かっているような態度じゃないか」


 そこまで分かっているなら否定しても意味はない。

 そもそも彼女と俺たちが知り合いだというのは事実で、隠し続けるようなことでもない。


「ツァリスの奴、何やっているんだよ……」


 ツァリス。

 賢竜魔女(ワイズドラゴンウィッチ)という名前のドラゴンの魔物で、魔法攻撃全般を得意としている。

 この場にいるのが人間にしか見えないのにも理由がある。強力な自我を確立させた魔物の中には【人化】のスキルを手にした者が現れ、人のように人間社会で生活することもある。


 最も必要なのは名前を持つこと。名を核にイメージから人の姿をした体が形作られる。

 ツァリスも本来はドラゴンの姿だが、人化したことで白髪の美人へと姿を変えていた。


「彼女なら酒に強いのも納得です」


 メリッサの顔には珍しく不満が表れている。

 いくら人化していたとしてもドラゴンであることに変わりはない。食物連鎖の頂点に君臨するドラゴンはあらゆる物を捕食し、毒にも耐性を持っている種類が数多く存在するため何でも食べてしまう。

 噴火酒に含まれるアルコールなどほろ酔い気分にさせてくれる飲み物にしか感じられない。


「俺としては相手の正体が気になるところだけどな」


 ドラゴンと対等に戦うことができる。

 迷宮主のように特殊な存在を除けば、そんなことができるのは限られてくる。


「あの……」


 噴火酒をものともせず飲み続ける二人を恐れながらも給仕を続けていた女性だったが、とうとう手が止まってしまった。


「もうお店にあるお酒がなくなってしまいました……」

「おいおい……勝負するのは構わないけど店は明日だって営業するんだから、店の酒を飲み尽くすような真似はやめてくれ。今日は店じまいだ」


 マスターが呆れている。

 マウリアを拠点にしている冒険者が次々と追い出されていく。初めてのことではないのか手慣れた様子だ。

 店に残されたのは俺たち6人にレドラとツァリス。


「ちょっといいかい?」

「なんだよ」


 出て行こうとしたレドラをツァリスが呼び止める。


「勝負なら引き分けでいいだろ。俺が飲んだ分はちゃんと後で支払うさ」

「ワタシも引き分けでいいよ。だけど、あの程度の酒なら効かない体質なのに勝負を挑んできた根性が気に入らない」

「なに言って……ぐぅ!」


 ツァリスが指をパチンと鳴らすと風の塊がレドラの腹に叩きつけられる。まさか店内で攻撃されると思っていなかったレドラは受け身も取れずに直撃を受けた。

 店内での暴力行為にマスターが近付こうとする。だが、近付こうとする前に手を掲げて止める。


 マスターの足が止まる。

 そうしている間によろめいたレドラの腹にツァリスの膝が叩き込まれる。

 巨漢の男と長身の美女。いくらツァリスの身長が高かったとしても、二人の対格差を考えればツァリスに勝機などない。だが、実際にはツァリスの攻撃は効いていた。


 ようやくレドラも思い当たった。


「テメェ……その姿は本物じゃないな」


 レドラの瞳孔が細められる。

 蛇を思わせる目を前にしてツァリスが笑みを浮かべ、自身も同じように瞳孔を変化させて見せる。


「ようやく気付いたのかい? あれだけの酒を飲んだ時点で気付くべきだったね」


 ドラゴンとドラゴン。

 同じ種族なのだからレドラにも勝機はあるはずだが、ツァリスに睨まれただけでレドラは完全に飲み込まれてしまった。


「ど、どうしてこんな所、に?」

「こっちの出来事を覗いていたら懐かしい顔を見掛けてね。介入する気なんて全くなかったけど、自分がどういう存在なのかも忘れて勝負をしているみたいだったから黙って見ていることができなかったんだよ」

「……」


 レドラは威圧されて何も言い返せない。


「詳しい事情が聞きたい。だけど、こっちはアンタが無駄な勝負を挑んだせいで一人ダウンしている。明日の朝にでも落ち合おうじゃないか」


 何度も首を縦に振ってから酒場から一目散に出て行く。

 その姿は普段を知る者なら信じられないほど『逃げている』と言うのが正しい姿だ。


「店にも随分と迷惑を掛けたね。支払いは彼らがしてくれるだろうから、ワタシからは謝らせてもらうよ」


 結局はツァリスが飲んだ分も俺が支払うことになった。


 酒場を俺たちも出る。


「事情を説明してくれるんだろうな」

「そうしてもいいけど、アイツに言ったようにメリッサがそろそろ限界だよ」

「私は……」

「あの酒はけっこうきつかったからね。魔法で毒を抜くことはできても、高揚してフワフワした気分は簡単に抜けたりしないよ。明日の朝、落ち着いたらワタシから説明してあげる」

☆コミカライズ情報☆

7月23日(土)

異世界コレクターのコミカライズ第2巻が発売されます。

ぜひ手に取ってみてください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ああ、なるほど。 ドラゴンだから大丈夫だったのか……いや人化してまでなにしてるの [一言] アルコールは抜けたけど高揚したまま……これがノクターンなら夜のレスリングが始まるところだったッ!…
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