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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第47章 狂熱乱踊
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第8話 飲み比べ-前-

 メリッサの方を見れば屈強な男を相手に酒の飲み比べをしていた。

 ルールは単純。同じ酒を飲み、どちらの方が多く飲めるか競い合うだけ。メリッサが勝った場合は相手から無条件で情報をもらうことができる。逆に負けてしまった場合はここでの支払いを請け負うことになる。

 彼らの代金を支払うぐらいは今なら余裕。とはいえ飲み比べ勝負をしているのは完膚なきまでに打ち負かして情報を聞き出すのが目的であるためメリッサに容赦をするつもりはない。


「ぅ……」


 テーブルには酒が注がれたコップが5つ。

 メリッサと勝負をしていた男が耐え切れずテーブルに突っ伏してしまったが、今のところメリッサの顔には余裕が表れている。


「さあ、次は誰が挑戦する?」


 男たちを見渡して挑発する。

 テーブルにはメリッサが飲んだ20個以上のコップがある。メリッサに挑戦する為にはまず20杯飲み干さなければならない。


「誰もいないの? なら、私を打ち負かした人には今月の料金をサービスしてあげる」

「その言葉に嘘はないだろうな」


 酒に自信のあった男がコップの酒を飲み干し始める。


「……メリッサ、少し苦戦しているみたいですね」

「え、そうなのか?」

「はい。いつもより少し顔が赤いように見えます」


 隣に座るシルビアはメリッサの様子に気付いた。

 原因は彼女が飲んでいる酒にある。


「マスター、彼女たちが飲んでいるお酒は強いんですか?」

「ああ。この島の火山を利用して作られた酒で、口から火を吹いちまうんじゃないかっていうぐらい強力な酒だ」


 まるで噴火した火山のよう。そこから『噴火酒』なんていう名前が付けられた。

 メリッサも今は耐えられているが、さすがに限界が近いらしい。


「この酒に慣れているウチの連中を相手に戦えているんだから、あの女性は相当強いな」

「少なくとも地元でメリッサに勝負を挑もうなんて考える奴はいないな」


 酒に強いことはアリスターでも有名だ。


「く、そっ……」


 メリッサに挑もうとしていた男だったが、挑む前に倒れ伏してしまった。


「さて、そろそろ私の勝ちでよろしいですか?」

「チッ」


 男たちも情報を渡すぐらいは問題ない。とはいえ自分たちの方が有利なはずの酒で飲み比べをして負けたとなれば不名誉な結果に終わる。

 プライドに賭けて簡単に負けを認めるわけにはいかなかった。


「おう、邪魔するぜ」


 酒場に新たな男が入って来た。

 ボサボサの赤く長い髪をした巨漢。大きな体で鎧を服のように纏っており、メリッサの前までやって来ると飲み比べする為に酒を飲んで潰れてしまった男を軽々と持ち上げて床に転がした。


 見た目通りの力を持つ男の登場にメリッサの目が据わる。


「ここはお酒を飲む場所です。暴力はいけませんよ」

「オレだってそんなことをするつもりはない」


 鎧の男がメリッサの正面に座る。

 どうやら勝負を挑むらしく給仕をしていた女性店員がテーブルの上に大量の酒を置く。


「随分と飲んだみたいだな」

「まだまだ序の口です」

「そこまで言うなら逃げるわけにはいかないな」


 男が酒の入ったコップを飲み干していく。

 これまでと同じ強力な酒のはずなのだが、まるで水を飲んでいるかの如く消費していく。


「……今すぐ仲間に止めさせた方がいい」


 マスターがボソッと呟いた。

 聞き逃さなかった俺に見られたことで降参したかのように語り出した。


「いきなり店に入って来たのはレドラ。いつからだったか……少し前にフラッとこの街に来たかと思ったら、いつの間にか居着いた冒険者だ」

「強いんですか?」

「ああ。どこかのパーティに居着くことはないが、ソロで活動しながら予定が合えば他のパーティに交じって一緒に活動することもある。平気でサンドワームを狩ることからも強いのは間違いない」

「そっちじゃなくて」

「すまない。飲み比べなんて無意味なぐらい酒には強い」


 それは理解できる。

 ガバガバと飲み干したせいでメリッサへの挑戦権を得てしまった。


「これで勝負ができるな」

「いいでしょう」


 お互いに同じタイミングで酒を飲み始める。

 純度の高い酒はあっという間に体を巡って、人間の体を酩酊させる。


「おいおい……」

「こいつら人間かよ……」

「噴火酒をこんなペースで飲める人間なんて初めて見たぜ」


 メリッサとレドラ。二人ともテーブルに置かれたコップに入った噴火酒を次々と飲んでいく。

 全く同じタイミングでコップが置かれる。

 しかし、メリッサがコップを置いた時の音が遅れた。


「ハッ、どうやら限界みたいだな」

「……ウルサイ」

「無理はしない方がいいぜ」


 徐々にメリッサの呂律が回らなくなり始める。

 一方でレドラの方には余裕が見て取れた。


「体調を崩す前に止めさせた方がいいな」


 飲み比べの勝負をした時のメリッサは正々堂々と戦う。魔法使いである彼女は【回復魔法】さえ使用すれば、体内に滞留している酒気も除去することができる。

 ただし、そんな真似をすれば勝負においてフェアでなくなる。

 体調を優先させて止めさせるなら回復させることもできる。


「野暮な真似はしない方がいい」

「なに?」

「彼女は自分の限界を理解している。だが、諦めてはいない」


 それは意地だった。普段は冷静なメリッサであるため、勝てないのなら撤退を視野に入れて戦闘を継続している。

 しかし、飲み比べの勝負においてそんな真似はしたくなかった。

 敗北するにしても全力を出し切った後で負けたい。


 マスターとしても体調を考慮して止めさせたいところだったが、メリッサの顔を見て考えを改めた。


「バカだろ。そこまで意地を張ることないのに……」


 結局、30個のコップが空になったところで限界が来てしまった。


「さあ、どうする?」


 レドラが挑発的な笑みをこちらへと向けてくる。

 それまで負けっぱなしだった冒険者たちは、ここぞとばかりに騒ぎ立てていた。


「ちなみにオレは有力な情報を持っている。オレに飲み比べで勝つことができたなら教えてやってもいいぜ」


 他の方法……それこそ情報料に金をいくら積んだところで意味はない。

 レドラの持つ情報を入手したいなら飲み比べで勝利するしかない。


 困ったな。

 穏便でない方法ならいくらでも思いつくことができる。正攻法である飲み比べはメリッサが敗北してしまった以上、勝てる者が俺たちの中にはいない。

 諦めているためシルビアやアイラ、イリスは何も言わない。


「よし、今日の酒代は新入りたちの払いだな」

「何を言っている?」

「いや、だって……そういう賭けだったろ」

「もちろん勝負に勝った俺の代金はこいつらに払ってもらう。だけど、俺が勝っただけで、お前たちの分まで支払うなんて言ってないよな」

「そんな……」


 レドラの言葉にメリッサとの勝負に負けた男たちが項垂れる。

 勝利した者のパーティメンバーならともかく、たまに一緒に仕事をするだけの相手の勝利に付随しようなんて認める気になれない。


「ま、情報を聞き出すなら他の方法を探すさ」

「へぇ」


 メリッサに【回復魔法】を使用するよう促す。

 魔法を受けて淡い光に包まれたメリッサは、まだ気怠さがあるものの酔い潰れてしまうほどではない。


「すみません、負けてしまいました」


 メリッサが頭を下げる。

 勝敗は誰の目から見ても明らかだった。


「その勝負、ちょっと待ってもらおうか!」


 同時に酒場の扉が勢いよく開かれた。

☆コミカライズ情報☆

7月23日(土)

異世界コレクターのコミカライズ第2巻が発売されます。

ぜひ手に取ってみてください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 子供のいる家ではこんなに飲めないんだろうなぁ……とかおもったりw
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