第4話 マウリア火山・侵入
「うわぁぁぁ……」
現在、俺たちは火山の頂上に立ち、火口を眺めていた。
噴き上がる熱気で汗が無限に流れ出てきそうだが、最初の段階で愚痴を言うわけにはいかない。
火口内部は赤い不気味な輝きを放つマグマがドロドロと流れている。
「絶対に落ちるなよ」
俺の言葉に全員が頷く。
迷宮内部にある火山のマグマなら落ちても迷宮主や迷宮眷属は緊急時に備えた力のおかげで平然としていられる。だが、外にあるマグマへ落ちようものなら一瞬で溶かされて死へ至ることになる。
原理は不明だが、マグマが上から下へと流れており、マグマの川の横にある道を進んで奥へと向かう必要がある。
「全部で8階層に分けることができるみたい」
イリスの手には冒険者向けのパンフレットがある。
マウリア火山は上層である第1層から第3層、中層である第4層と第5層、下層である第6層と第7層。そして誰も到達したことのない第8層を最下層と呼んでいた。
上層は道も太く、安定しているのでマグマの川から放たれる熱に耐えながら進む必要があるものの比較的安全に進むことができる。
中層へ突入すると道が細くなり、流れるマグマがまるで生きているかのように蠢いて進む人を襲うようになる。
そして下層ともなるとマグマの海の上に島が浮いているだけの状況となる。
こんな場所だが、マウリアの冒険者が訪れないわけではない。マグマの中には耐性を持つに至った魔物がおり、体内にある魔石が持つ魔力は高密度にまで圧縮されている。それを求めて足を運ぶ冒険者がいる。
「私たちが目指すのは下層」
ただし、冒険者たちが足を運ぶのは上層まで。
そこからでも下層と思われる場所で火竜が巣を作って寝ている姿を目撃されているため、火竜の痕跡を探すなら巣があると思われる下層を目指す必要がある。
☆ ☆ ☆
暑さにさえ耐えていれば問題ない道を順調に進む。
「お、鉱石発見」
歩いているとツルハシか何かによって削られた壁を目にし、奥の方に鉄鉱石があるのを見つけた。
これもマウリア火山を訪れる冒険者の貴重な収入源。火山では中心部分に膨大なエネルギーが蓄えられているため、こうして地面の奥で力を蓄えたことで鉱石へと変化することがある。
上層なら安全な採掘をすることもできる。
もっとも、全く邪魔がないわけではない。
「来たな」
通路の奥から猪の形をしたマグマが現れる。
鋭い曲線を描く二本の角を鼻先から生やしており、火の粉が舞う荒い鼻息が吐き出されている。マグマに対して耐性があるとかいうレベルではなく、マグマそのものによる魔物だ。
マウリア火山にある魔力がマグマを利用して生み出した魔物で、自然界にいる動物の姿を取ることがあった。もっとも魔物の能力は自然界にいる猪とは比べるまでもない。
マグマ猪の方は火山内を巡回していたところらしく、侵入者である俺たちの姿を見つけて警戒心を強めていた。
討伐するべく前へ出る。
「待ってください」
「どうした?」
「マウリア火山にいる魔物について確認したいことがあるので、私に任せてください」
俺の代わりに前へ出るメリッサ。
手に持つ杖に魔力が流され、魔法が構築される。
「おい、いいのか?」
魔力の気配からメリッサがどのような魔法を使用しようとしているのか予想することができる。
メリッサが使用したのは火系の魔法の中でも基本的な【火弾】。
宙に浮いた火の弾丸がマグマ猪へと飛んでいく。しかし、マグマ猪の体に当たったはずの弾丸は何もなかったかのようにマグマ猪の後ろにある岩壁へと当たって弾かれる。
「やはり、ここにいる魔物には火系の魔物は通用しないみたいですね。威力を上げれば吹き飛ばすこともできるかもしれませんが、あまり意味はないですね」
次にメリッサの手から突風が放たれてマグマ猪を構成するマグマの一部が吹き飛ばされる。
魔法の威力を確認したメリッサが周囲へと目を向ける。
「それから魔法の威力が属性によって影響を受けます」
最も影響を受けるのは水系の魔法。発動させるだけで普段以上に魔力を消耗することとなり、威力が著しく減少してしまう。
風と地属性は発動させた瞬間は最低限の威力を保っているが、ある程度の距離が離れてしまうと威力が落ちるようになってしまう。対処方法としては、最初から減衰しても問題ないだけの威力を持たせて発動させることだ。発動させたのは風だけだったが、メリッサは魔力の調子から判断した。
調子がいい、という意味では火属性だ。影響の度合いは水属性ほどではないが、普段使っている時よりも好調だと感じていた。もっともマグマから作られている魔物が相手では多少ばかり好調になったところで焼け石に水でしかない。
「総評したところ、ここでは土属性の魔法が最も適しているようですね」
猪のように突進してきたマグマ猪が頭部の一部を消失させて倒れる。
倒れたマグマ猪の前には土の壁があり、真っ直ぐ進むことしか知らないマグマ猪は硬い壁へと勢いそのままに衝突してしまった。
「あっちもお願い」
シルビアが斜め上へと顔を向ける。
まだ遠いが、マグマで作られた蝙蝠の5体が飛んできているのが見えた。
「はい」
相手がマグマであることなど気にすることなくメリッサが手を向け、マグマ蝙蝠に向かって土の弾丸を放つ。
正確な射撃によって潰されたマグマ蝙蝠の5体が火山の奥深くへと落ちていく。
「どこからでも現れるな」
横にあった土壁を蹴る。
すると土壁の向こうからマグマが流れ出て来て、盛り上がると円柱に人の手がついた姿へと変わる。一応は人型のつもりらしいが、不格好な人形のようにしか見えない。
……ああ、そういえば前に子供たちがあんな泥人形を作ってくれたことがあったな。
そんなことを思いながら土塊をぶつけて潰す。
「気をつけろよ。どうにも、そこらへんにあるマグマからでも魔物にできるみたいだ」
「『マウリア火山は生きている』、その意味がようやく分かってきました」
流れるマグマの川、マグマによる魔物。
それらから『生きている』などと表現されているのだと思っていた。
「マグマ猪が俺たちの姿を見つけた瞬間に敵意をむき出しにして攻撃してきやがった。明らかに何かの意思がある」
迷宮で言えば階層を支配する存在がいるようなものだ。
奥へ進むのにも慎重にならなければならない。
「メリッサ、多少の魔力の消耗は気にするな。俺とお前ならこんな場所であっても疲れ果てることはないだろ」
「はい。安全を最優先に進むことにしましょう」
俺が地面、メリッサが壁に対して魔法を使用する。
熱に耐えてきた頑丈な岩盤だったが、これまで以上に強固にすることで先ほどのように壁からマグマが流れ出てくることは防げた。
☆コミカライズ情報☆
7月23日(土)
異世界コレクターのコミカライズ第2巻が発売されます。
ぜひ手に取ってみてください。




