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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第46章 黄昏聖浄
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第26話 世界聖浄

 移住し、妖精のいなくなった妖精郷を訪れた時、マガトや神樹の様子を確認する以外にも目的があった。

 妖精郷の様子が一望できる場所に、そいつはいた。


「妖精郷の様子はどうだった?」


 次元の歪みが発生した丘の上から眺めていたゼオンに問い掛ける。


「今回の問題にお前は関わっていない。けど、お前や俺がしたことが原因の一つになったのは間違いないぞ」

「別にそのことはどうも思わないな。お前だって妖精がどういった存在なのか知っているんだろ」

「まあ、な」


 人間として生きていた頃のアルバが私欲から神樹を独占しようと考えたのが妖精誕生の始まりだった。この世界の妖精は、伝承に語られるような幻想的な存在などではない。


「この世界が滅びの時を迎えるのは、妖精郷が誕生した瞬間から決定付けられていたことだ。個人的には、この世界が俺のやりたい事に影響を及ぼさないならこのままでいいぐらいだ」


 ゼオンは過去を変えようとしており、同じように不遇な処遇を受けていた者たちを眷属として受け入れて準備を進めている。

 過去の『世界』を迷宮の奥に再現する。過去と寸分変わらないのなら、過去をやり直しているのと変わらない。

 やり直しの際、土壌となる世界が必要となってくる。


 その土壌となる世界に妖精郷は必要なのか?


 疑問を解決するべく妖精郷へ足を踏み入れたが、どうやら必要なものだというわけではないらしい。


「ま、そうはいかないらしい」


 不敵な笑みを浮かべたゼオンが【自在】を使用する。


「まさか……」


 位置を自在に変更することもできるスキル。

 使用方法次第では次元に干渉することもできるらしい。


「安心しろ。妖精郷なんて特殊な空間だからできることだ」


 妖精郷は世界と世界の狭間を漂うように存在している。

 俺が妖精郷という檻の中にあった神樹を迷宮にも上書きできたように、ゼオンは檻の位置を移動させることに成功した。

 近くにあった世界を移動する空間の歪みを見る。移動したことで忽然と消えてしまっていた。


「ギルドになんて説明すればいいんだよ」


 冒険者ギルドでは今回の一件で妖精郷の調査へ本格的に乗り出そうとしていた。

 ただし、調査の為には貪食蟻をどうにかする必要があり、リヒデルトを中心とした者たちが国に掛け合ってSランク冒険者を全員連れてこようと企てていた。


「俺の知ったことじゃないな」


 こいつは本当に自分の目的以外はどうでもいいと考えている。

 ゼオンが動くよりも早く俺たちの方で妖精を保護できてよかった。


「どうせ、お前の事だから炎とかで焼き尽くすつもりだったんだろ」

「どうしてダメなんだ? 手っ取り早い手段だろ」

「ここに住んでいた妖精はどうするつもりだったんだ」

「それこそ知らないな。世界をこんな風にしたのはあいつらなんだぞ」


 滅びの定められた世界を作ったのは妖精に原因がある。

 だから共に滅びても仕方ない。


「そもそもあいつらの存在の方が歪だ」


 神樹の力によって生み出される妖精。

 妖精が亡くなると神樹へ帰る、などと信じられている。その考えは一概には間違いではない。

 神樹の近くで亡くなった者は力だけとなって神樹に取り込まれる。そこから神樹は新しい命を作り出しており、以前に亡くなった妖精に似た妖精が生み出される。そのため『帰る』などという表現が使われていた。

 神樹を中心に生き、神樹がなければ生きていけない。


「世界を浄化する意味でもあいつらは滅ぼしておいた方がいいんだよ」

「浄化のつもりで言っているのか? 俺はそうは思わないな」

「どうしてだ?」

「たしかに妖精は過去にいた写しみたいな存在だ。それでも、今を生きている確固とした存在なんだ。過去の罪に縛られたまま生きていくなんて間違っている」


 これが彼女たち自身の犯した罪によるものだったら償わせるべきだと考えた。

 けど、彼女たちが神樹に囚われているのは2000年以上も前の先祖が犯してしまった罪が原因だ。生まれるよりも前に先祖が犯した罪を償うのは違う。


「なるほど。それを俺に言うのか」

「……」


 何も言い返せない。

 ゼオンは先祖が罪を犯したばかりに子孫も『貴族になれない』というペナルティを課せられることとなった。どれだけ功績を重ねようと騎士に任命されることすら許されなかった。


「お互いに譲れないものがある。俺は『過去』をやり直す為に世界を浄化させるつもりだ」

「その為にお前は『現在』を犠牲にするつもりなんだろ。俺は現状に対してそれなりに満足しているんだ。簡単にやらせるなんて思わない方がいいぞ」

「こんな世界が現れたせいで寄り道する羽目になったけど、本当に俺たちをどうにかしたいなら急いだ方がいいぞ。こっちの準備は、もうすぐ完了しそうだからな」

「それはどういう……って、もういなくなったか」


 目の前にいたゼオンの姿が忽然と消える。

 迷宮主に【転移】がある限り、捕らえるのは容易ではない。


「よかったんですか?」

「シルビア」

「わたしたち6人で戦えば傷を負わせるぐらいはできたと思いますよ」

「その場合はあいつの眷属も出て来ただろ。何の対策も準備していない状態で戦うべきじゃないんだ」


 ゼオンが次に何をしようとしているのか判明していない。


「この世界はどうなるんですか?」

「どうにもならないな。このまま次元の狭間を漂い続けることになる」


 今、どのように漂流しているのか分からない。

 それでも妖精がいなくなったことでこれまでのように他の世界へ枝を伸ばすこともなく、他の世界から干渉されることもない。そうして自然と力を使い果たして神樹が枯れた時に妖精郷という世界は終わりを迎える。


「可哀想ではあるけど、神樹も妖精がいなくなれば生きていくことはできない。世話をする者がいなくなった樹は滅びるだけなんだ」


 妖精の身勝手で閉じ込め、妖精の事情で捨てられることとなった。


「結局は俺もゼオンと変わらないな」


 自分にとって不都合だから森ごと焼き尽くそうとした。

 俺も方法がなかったから神樹を放置して枯らすことにした。


「そんなことありません! ご主人様は妖精たちが生きていられる方法を用意したじゃないですか。自分たちに都合が悪いから、と妖精ごと世界を焼き尽くそうとしたあいつとは違います」

「そうかもしれないけど、結局は世界を救うことなんてできなかったんだよ」


 俺にできたのは妖精が生きていける世界を用意しただけ。


「俺に救える世界なんてちっぽけでしかないんだよ」


第46章も終わりになります。

過ぎた力を利己的に使用すれば世界をも滅ぼし、自らも滅びることになる。世界に対して人間ができることはちっぽけでしかなく、チートを持つ者でも救いに限界はあり、世界を救うなんて大それている。


一応、ラストは第49章になっていますが、47と48のプロットに少し手を付けた段階で全く進められていない状態です。

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