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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第46章 黄昏聖浄
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第18話 妖精郷の真実-前-

 アルバの住む家。

 テーブルの前の椅子にアルバが腰掛け、支えるようにミエルが隣に座る。大量に現れた多くの蟻が最前線にいた冒険者へと群がったが、それでもいくらかは妖精の住む方へと向かおうとした。

 戦士であるミエルの役割は、そんな敵から妖精を守ること。どうにか凌ぎ切ったが、同じ襲撃を次も耐えきれる自信がないのか表情が今までと比べて暗い。


 向かいにはギルド職員の青年――シャックスが座る。苦労を掛けることになるが、向こう側の責任者として冒険者ギルドの人間が必要だった。


「リヒデルトとヴァルターの二人は負傷により戻りました」

「負傷? たしかに二人とも倒れたけど、少なくともリヒデルトの怪我は完治している」


 そのために【回帰】まで使わせたんだ。


「貴重な【回帰】を使用したのだって、責任者が必要だったからだ」

「それは……」

「まあ、いい。代表者なら誰でもいいからな」


 テーブルの横に立ちながら座っているシャックスを見下ろす。

 気の弱い彼では正論を言われているだけで、俺の圧に耐えることができずに俯いてしまっている。

 シャックスの隣にはヒースとラエドが座っている。ヒースはマガトに対して冒険者の中で唯一攻撃を与えられた者として評価され、ラエドはSランク冒険者の中でも強者だと一目で分かる見た目をしているため威圧を目的に座らされていた。

 家の中には他の冒険者もいる。


「まずは事情を知らないから、ここの事情を説明させてもらおうか」


 ここが妖精の棲む妖精郷である事。

 数日前から自分たちも戦った人サイズの蟻による襲撃を受けている事。

 蟻の軍勢の上には朱い蟻という特別な存在がいる事。

 何日も蟻からの襲撃を凌いだ。その言葉を聞いただけで冒険者たちは慄いていた。ここにいるのは相手の実力が理解できる者たちだ。決して蟻の実力を侮るなどしない。


「状況は理解した。まさか、この事態を収拾するよう言われたのか?」

「もちろん」

「む、無理だ!」


 冒険者の一人が自分の予想が当たっていたことで声を荒げる。

 襲撃は何度も行われている。そして、たった1回の襲撃だけで自分たちは多大なダメージを受けることとなった。

 なにより毎日のように繰り返されていることで無尽蔵に思えてしまった。


「一応、補足しておくと今日の襲撃は普段よりも多い」

「そんなのは関係ない! 悪いが、俺たちのパーティはここで抜けさせてもらう」


 それだけ言い残して家を出て行く。

 妖精郷へ足を踏み入れたのは普段の遺跡と同様に稼げる場所だと思っていたからだ。それが稼げないどころか命の危機すらある場所だと分かれば逃げ出したくもある。


 パーティの決定権はリーダーである彼にあるし、遺跡探索に参加するかは冒険者の意思に委ねられている。パーティの中で最もランクの高いリーダーでさえBランクで、仲間は傷を負っていた。次の襲撃も凌げられる保証はない。


 他にもパーティを代表したリーダーが何人も出て行く。

 それでもシャックスを含めて6人が残っていた。AランクのヒースとSランク冒険者の4人。


「俺は協力してくれなんて言わない。帰ったところで文句を言ったりしないぞ」

「ハッ、そういうセリフは諦めている人間が言うもんだ」


 シャックスはギルドの人間として逃げるわけにはいかない。

 残った5人の冒険者は高ランクで、俺の実力を把握していることから今回も大丈夫だと判断している。なにより俺の言葉に悲壮感がない。


「ま、数人であっても人手があるのは助かる」


 テーブルの上に金貨が詰まった大きめの袋を置く。中には100枚の金貨が詰め込まれていた。


「この金でアンタたちを雇おう」

「おい、金でSランク4人を動かすなら足りないぞ」

「俺もパーティメンバーがいるから、Sランクの4人で分け合ったら足りないな」


 どうやら冒険者の5人は金貨100枚を分けると思ったようだ。


「そんなわけないだろ。ここにいる5人全員にそれぞれ配らせてもらう」


 さらに同じ物を4つ置く。


「ま、それでもSランクを雇うには不十分だろうけど……」

「その辺は気にしない。どちらにしろ受けた依頼を放棄して逃げ出したとなれば、Sランク冒険者のプライドに関わる」


 彼らが受けた依頼内容は『決闘を要求する門番を退けて遺跡へ入れるようにすること』。その依頼に失敗しただけでなく、向こう側で何もできなかったとなれば何もできなかったも同然だ。


「逃げて行った奴の気持ちも分かる。さすがに『貪食蟻(グラトニーアント)』をどうにかしようなんて普通は考えられないからな」

「なに、それ……」

「知らないのか。ま、滅多に見られる魔物じゃないからな」


 Sランク冒険者であるラルドは神樹の生み出した蟻について知っていた。

 魔力だまりのある森で異常が発生した時、森の滅亡が加速することがある。その際、森に蟻型の魔物が生まれ樹や草、そこに住む生物に至る全ての存在を貪り尽くしてしまう。

 ただし貪る物が森の中からなくなってしまうと途端に力尽きてしまう。

 そんな魔物であるため遭遇する確率は非常に低い。


「で、どうやって無尽蔵に湧き出てくる敵に対処するつもりなんだ?」

「その説明をする前に妖精がどういう存在なのかハッキリさせておこうか」

「……どういうこと?」


 冒険者のやり取りを黙って見ていたミエルが首を傾げる。

 彼女にとっては妖精に落ち度はない、ように思えていた。


 だが、俺の表情を見てアルバは皺を深くさせていた。


「俺たちは襲撃について知る前から使い魔を飛ばしてこの世界がどういう世界なのか調べることにした」


 サファイアイーグルを飛行させ、空から地形を把握させる。しばらくは森が続いていたが、四方全てが海に辿り着いた。

 結果、妖精郷はひし形をした大きな島であることが判明した。


「それは知っている」


 海という存在は妖精も知っていた。

 だが、島の外と交流することはできなかった。


「外から誰かが来ることはなかった。それに、アタイたち妖精は神樹から離れることができなかった。それでも100年に一人ぐらいは好奇心を抑えられない妖精が現れて、造った船で外へ行くことがあった」


 けれども、その誰もが帰ってくることはなかった。

 この点がエルフと妖精の決定的な違い。


 エルフは神樹の近くにいることで恩恵を受けることができる。ただし、神樹から離れてしまえば恩恵を受けることはできなくなる。

 妖精はエルフ以上に恩恵を受けることができる。ただし、神樹から離れてしまえば存在を保つことができなくなり、最終的には消滅してしまうと言われている。死という概念が薄い妖精にとって、神樹から離されることが殺害方法だった。

 海の向こう側には薄らと陸地が見えた。あそこへ行けば、これまでとは違う何かがあるかもしれない。そう思う妖精がいても不思議ではない。


「メリッサ」

「はい」


 魔法によって空中に地図が幻影で映し出される。

 海の中央に浮かんだ大きな島。


「これが妖精郷の全容だ」

「だから、それはわかっている」


 いや、何も分かっていない。


「お前は海の向こうに陸地があると思っている」

「そうだ」

「ま、俺たちも同じ事を昨日の時点で思っていたから、今日は早くから海の上を飛ばしてみたんだ」


 南から真っ直ぐ飛ばしてみた。

 本当に真っ直ぐ飛ぶようにしか指示を出していない。


「しばらくすると使い魔は帰って来たんだよ……北からな」

「え……」


 海の向こうに陸地はあった。

 ただし、薄ら見えていた大地は知らない世界などではなかった。


「もう一度言う。これが、この世界の全容だ」


 投映された地図を示しながら言う。


「ここは本当の意味で妖精の棲む場所しかない『世界』だ」


 世界そのものが異質と言っていい。

 そんな世界の中にいて、最も異質なのが長老であるアルバだ。


「妖精郷には子供はいても、若い女性しかいないらしいな。それなのに、どうしてあんただけが老婆なんだ」

「……!?」


 立ち上がったミエルが勢いよくアルバを見る。

 あまり表情を変えないアルバが苦虫を噛み潰したように顔を歪めていた。


「やっぱり間違っていなかったのか」


 この時点で俺たちの中に推論があり、それが間違っていないだろうと予想できていたからだ。


「この鎖された世界を作った……もしくは管理者はあんただろ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 世界が違うんだから極論、巨人が支えてたり亀の上にある世界だったとしても間違いではないのか…… 島の端から同じ島の端が見えてたってことはどこかで空間が繋がってるのかな?
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