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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第46章 黄昏聖浄
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第16話 神樹の根

 唐突に地面から飛び出してきた根。

 妖精郷の中心にある神樹からそれほどはなれていないこと、人間の体を貫けるほどの太さと頑丈さを持っていることから神樹の根だと予想できる。こんな危険な根が他にあってほしくない。


 まず近くにいたギルド職員、それから咄嗟のことで対応できていない冒険者を俺たちは助けた。

 冒険者も集められたのは実力者ばかり。突然の襲撃であっても迎撃しようと動いていた。

 問題なのは、迎撃できないほど根が頑丈だったこと。


 結果、一部の冒険者が根に貫かれて死んでしまった。


「全員、そこから離れろ」


 大量の根に襲われたことで俺たち以外の意識が地面から飛び出した根や地面へと向けられていた。そのことを咎めることはできない。


 だが、本当の襲撃は斬り落とした根の方にある。

 攻撃してきた根の先端近くには真っ黒な木の実のような物があり、切り落とされると同時に弾け、中に詰まっていた黒い液体のような物が膨張し、人間サイズの蟻へと姿を変える。


「……っ、全員気をつけろ! タダ者じゃないぞ!」


 持ち前の経験からヒースが叫ぶ。

 Aランク冒険者からの叱責。ついてきた他の冒険者が蟻と戦う。

 だが、振り下ろされた剣は蟻の体を覆う鱗によって弾かれ、鋭く突き出された槍は先が砕け、荒々しい斧がどうにか鱗に傷をつけるものの刺さっただけに終わってしまう。

 蟻と対等に戦えているのはAランク冒険者以上。それも他の者を助ける余裕などなく、応戦するだけで精一杯といった様子だ。


「妖精郷がどうして門番なんて必要としていたのか理解できる光景だな」


 力のない者を招き入れたところで夕方になったら死んでしまう。妖精郷の戦士も仲間の妖精を助けなければならないため、助けを求めたはずの相手を助けていられるほどの余裕はない。

 最低でもミエルよりも強い必要がある。


 たった1分にも満たない攻防で冒険者の半数が亡くなるか、戦闘を継続できないほどの傷を負っていた。


「全員、集め終わったな」


 その間、俺たちは逃げ遅れた非戦闘員を掻き集めていた。

 蟻の魔物が大量に押し寄せる状況にあっても、【世界】を発動させれば難なく非戦闘員の元まで辿り着くことができる。ただし、移動させるには解除させる必要があるため時間を動かす必要があった。


 ギルド職員の中には後れを取り戻そうと率先して動く者がいた。そんな者まで助ける為にはどうしても人手が必要になる。眷属も合わせて全員で一丸となって移動させた。

 おかげで全員を一ヵ所に少し時間が掛かってしまった。


「な、に……」

「状況は分かっていますか?」


 ギルドマスターであるリヒデルトに尋ねる。

 本来なら緊急事態なのだから彼が率先して指揮を執らなければならないのだが、これまで安全な場所から指示を出していた身では唐突に戦場へ巻き込まれれば呆然としてしまう。

 しかし、そんな甘えを許すつもりはない。


「全員を連れて元の世界へ帰れ。少なくともここからは離れる必要がある」

「な、なんだと……!? そんな言葉に従う必要などない!」

「……状況を分かっているのか?」


 今、Sランク冒険者とAランク冒険者が必死に戦っている。それは、同行した下位のランクの冒険者を助ける為だった。

 仲間の為に力を行使する。


 対してリヒデルトにあるのは自我だけだ。せっかく次元の歪みを越えることができたというのに何もできず帰ってしまう。さらに言えば見下している冒険者である俺から指示されるのも気に入らない。

 ただし、そんなことを口にするわけにもいかないことを理解している。


「遺跡は放置すれば向こう側と完全に繋がってしまう。そうなってからでは遅いんだ。だから、私たちは逃げるわけにはいかない」


 言葉では自分たちの世界を慮っているが、逃げ帰れば功績が手に入らないどころか失態の責任を取らされることになる。そんなことを考えているのは、目を見れば分かる。


「それはいいけど、どうするんだ?」


 襲い掛かって来た根に対して背を向けたまま剣を振って斬り捨てる。


「私が何も考えていないと思っているのか」

「まあ」

「ちゃんと考えているに決まっているだろ」


 そう言って少し離れた場所にいるゼオンを見る。

 ゼオンはギルド職員たちの話し合いなど興味がなく、また神樹の根による攻撃にも興味がないらしく襲い掛かってきた根と蟻を適当に迎撃していた。どうやら今回の問題とは本当に無関係らしい。


「せっかく雇ったんだ。きっちりと働いてもらおうか」

「俺に言っているのか。だったら断らせてもらおう」

「なに!? 貴様には既に高い金を払っているんだぞ! 報酬を受け取っていて逃げるなど許さないぞ」

「何も問題なんてないさ。だって、俺が引き受けた依頼は『決闘で門番を下し、私たちを向こう側へ行かせろ』というものだ。既に約束は果たしている」


 リヒデルトは妖精郷へと到達した。そのためゼオンが引き受けたらしい依頼は完了されたことになっている。今、この状況で依頼主だったリヒデルトを助ける理由はない。


「ま、待て……」

「俺はやりたいことが見つかったから好きにさせてもらうぞ」


 歩き出し、気付いた時にはいなくなっていた。

 頼りにしていたリヒデルトは呆然とするしかない。いったい、いくら支払ったのか知らないが、護衛のつもりで雇ったのだが、焦るあまり言葉を誤ってしまった。


「ギルドマスター、ここは逃げましょう」

「いえ、『逃げる』のではなく『帰る』のです。このように危険な場所にいるべきではありません」

「そうです。ここは態勢を整えるべきです」


 3人の職員がリヒデルトを囲んで説得しようとする。リヒデルトも全ての問題に対応できるわけではない。何かしらの確約を与え、自分の駒のように動かせる人材が必要だった。


「どっちであろうと構わないぞ。ここに残って潔く魔物に殺されてもいいし、逃げ帰ってもいい」


 後ろで火の壁が立ち上がる。森の中なため延焼しないようメリッサが細心の注意を払いながら魔法を使用していた。

 さすがに神樹の根でも火の壁を越えることはできない。

 しかし、燃え尽きた神樹の根の残骸から蟻が生まれ、火に耐えながらこちらへと近付こうとしている。接近する蟻はアイラやイリスが対応している。


「さあ、どうする?」

「……」


 リヒデルトは答えない。

 こんな問答で時間を浪費するわけにはいかない。持ち上げてでも妖精郷から出そう、と一歩踏み出したところで……


「……がはっ!」


 突如、リヒデルトが吐血した。

 説得しようと側にいた3人の職員が慌てて離れる。


「……チッ、失敗した!」


 リヒデルトの背中に突き刺さっていた尾を斬り捨てながら舌打ちする。

 見覚えのある尾。明らかに失念していた俺の失態だ。


「イリス、戻って来い」


 近くにはいるが移動させている時間が惜しい。【召喚(サモン)】で呼び寄せると治療するように言う。

 尾に背中を刺されたリヒデルトの状態は酷い。刺された場所には大きな穴が開いており、血が流れ続けていた。


 そんな外傷よりも酷いのが体だ。干乾びている。まるでミイラのように皮膚が干乾びており、目や唇からは生気が失われている。そんな状態にあっても寒いのか体がガタガタ震わせ続けていた。

 たった数秒刺されていただけ。それだけで瀕死の重態になっていた。

 もう【回復魔法】で効果があるのか分からない状態。だからこそ【回帰】に頼るべくイリスに頼んだ。


「ちゃんとトドメを差しておくんだった」


 地面の下から土を押し退けて朱い蟻が姿を現す。

 少し前に倒し、バタバタしていたせいで注意を払っていなかった。


「マガ、ト」


 朱い蟻がゆっくりと言葉を紡ぐ。

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[一言] この作品、契約の詰めが甘くて痛い目見る人多いですよね……確認、大事。
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