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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第46章 黄昏聖浄
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第12話 妖精とエルフ

 アリスターのとある屋敷。


「妖精郷……久しぶりにその名前を聞くね」


 夜。

 王都にある冒険者ギルドでギルドマスターをしていたこともあるルイーズさんに何があったのかを説明した。


 遺跡と繋がっていると思われる次元の歪みへと赴き、他の冒険者と合流した後に決闘で勝利し、向こう側へと招かれて妖精の住まう郷――妖精郷へと足を踏み入れることとなった。

 しかも、妖精郷は妖精郷で問題を抱えており、普段の遺跡探索のように利益を得られるような場所ではなかった。


「それで、何の用だい?」


 ルイーズさんの目が俺と同行者のイリスへ向けられる。

 蟻型の化け物との戦闘後、後片付けや妖精たちへの説明で忙しくしている中、イリスだけが妖精郷のある世界について詳しく調べてくれた。時間がなかったため最低限の事しか調べられなかったが、気になることがいくつかあった。


「妖精について教えてほしいんです」


 俺たちは妖精について知っている事があまりに少ない。

 最も知っているイリスでさえ噂話でしかなく、他の者については俺も含めてお伽噺の類だと思っていた。

 だが、妖精は実在した。


「依頼されたのは、妖精郷を襲う化け物の退治じゃないのかい?」

「ただ迎撃するだけじゃ意味がない」


 その日の襲撃を凌ぐだけなら既に何日も行われている。

 問題を解決するなら根本的な部分でどうにかする必要がある。


「妖精について知っておく必要があると思う」

「どうしてだい?」

「妖精郷にあった神樹はエルフの森にあった神樹よりも巨大だ」


 それでも簡単に調べた限り、神樹が持つ能力はどちらも変わらない。


「神樹の傍で生きるエルフと妖精。両者の違いは何なのかって考えた時――どちらも変わらないんじゃないかって思ったんです」


 エルフと妖精は同質の存在。

 それが俺たちの間で話し合った末の結論だった。


「まず断っておくけど、アタシも妖精について知っているわけじゃない。それでもギルドマスターとして行方不明になっていて妖精郷から戻ったと思われる冒険者と話をして、ある程度の推測をすることはできている」

「それでかまいません」

「……あいつらは本質的にはエルフと同じだろうね」


 ギルドマスターとしてルイーズさんも行方不明者を追う為に妖精郷について調べたことがあった。

 彼女が真っ先に注目したのは妖精郷のみで得られる妖精粉(フェアリーパウダー)だった。時間が経過してしまうと性質が変化し、取引によって得た錬金術師は気付かなかったが妖精粉にはエルフの魔力に似た性質があった。戻って来た行方不明者と早々に接触することができたルイーズさんは微かに残った痕跡から気付いた。


「問題は、どうして容姿に大きな違いがあるのかっていうことだね」


 エルフは長命で、魔力に長けているとしても本質は人間に近い。

 しかし、妖精は女性しかおらず、世界樹の恩恵によって人数を増やし、寿命が訪れると跡形もなく消えるという。


「そこに問題を解決する手掛かりがあると思っています」

「できることなら手伝ってやりたいところだね。引退したといっても、今でもそれなりの伝手はあるもんだよ」


 ルイーズさんの影響力は引退した今でも衰えていない。どうやっているのか分からないが、以前よりも高ランクの冒険者が多くアリスターに常駐するようになり、迷宮の奥深くまで潜るようになっている。

 そうなった背景にはルイーズさんの影響があると知られていた。

 迷宮も賑わらせてもらい、ルイーズさんには本当に感謝しかない。


「そこまで気にかけてもらう必要はありませんよ」

「それに、あそこへ行くには次元の歪みを通る必要がある。いくら私たちの紹介でも門番が通してくれるとは思えない」

「その言い方だと、他に入口がないことを確信しているようだね。アタシは今まで妖精郷は、この世界のどこかにあるんだって思っていたけどね」


 残念ながらそうでないことは判明している。


「私たちは妖精郷のある世界へ辿り着いた直後に使い魔を放っている」


 最初は遠くにある神樹を確認する為だった。その後は、周囲の探索に当たらせており、地形などの必要な情報は最低限揃っていた。

 中でもイリスが注目したのは空を見上げた時に見えた星々だった。


「フィリップさんたちから夜に迷った時は星の位置を頼りに方角を把握するよう教えられていた。だから目印にするべき星は頭に入っている」


 俺たちは夜に人里離れた場所を訪れる機会は少なかったため気にしていなかったが、俺たちの仲間になる前のイリスは自身の知識と技術を頼りに迷わないようにしなければならなかった。


「あの世界にある星は、この世界にある星と全く異なる」


 どこかに妖精郷が隠されているわけではない。

 もっと遠くと繋がっている、もしくは異なる次元があそこに隠されている。

 どちらにしても次元の歪みを利用する以外に妖精郷を訪れる手段はない。


「なら、アタシにできるのはアドバイスぐらいだろうね。さっきも言ったように妖精の本質はエルフと変わらない。なら、エルフと人間の間にある決定的な違いを生み出しているものは何だと思う?」


 かつて魔力災害が起こった際、エルフは環境を浄化してくれる神樹の側にいることで災害を逃れた。同時に神樹の放つ魔力に適応できるよう人間から性質を変化させたのがエルフだった。

 その事実はエルフの中でも知っているのは限られている。俺たちの情報源は迷宮核だ。大昔から人格をそのまま残している迷宮核は知っている情報が限定的だが、知り得た情報を忘却することはない。


「神樹、ですか」


 妖精を妖精と成している理由は神樹にある。


「やはり調べるしかありませんね」


 ただし容易ではない。

 妖精は神樹を神聖視しており、普段は誰かが近付くことすら禁止しているようで不用意に近付けば歓迎されない。


「大変かい?」

「大変ではあります。ただし、もう依頼を受けてしまいました」

「随分とやる気になっているみたいだね。何かあったかい?」

「何かあったのは俺ではありませんよ」


 イリスを見る。

 妖精郷に足を踏み入れてから考えることが多くなったようで黙っている時間の方が長くなっている。


 以前、知り合いが妖精郷へ消えた。

 それとなく気にはしていたが、どのような場所で、どうやって行けばいいのか全く手掛かりがなかった。

 その手掛かりをようやく掴むことができた。


「アンタが気にすることでもないのに今でも気にしているのかい」

「でも……」

「消えた旦那。置いて行かれた女房の姿は見ていられなかった。結局、旦那の帰りを待つことができず女房は逃げるように街を離れた。それだけの話さ」


 冒険者なら行方不明になることも珍しくない。

 だからこそ、数年後になって何も覚えていない男が帰って来たことが許せなかった。


「報酬は欲しい。けど、それ以上に仲間の一人が妖精郷を気にしているんだ。だったら俺がすべきことは、調べられるよう手を尽くすだけです」


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