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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第46章 黄昏聖浄
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第9話 押し寄せる蟻

 音の発生源へ振り向く。

 すると、離れた場所にある神樹に湿疹でもできたように赤い斑点がいくつも浮かんでいるのが見えた。


「いや、斑点なんかじゃない」


 上の方で見にくいが、現れた斑点のように見える物が下の方へと移動しているのは間違いない。

 あれがミエルの倒さなければならない『敵』。


「ミエル!」

「お待たせ」


 神樹の様子を眺めていると若い二人の女性が武器を手にして出てくる。

 一人は妖精には似つかわしい大きな盾を持ち、全身を覆う鎧を纏った緑色の髪をした少女で、もう一人はローブに身を包んだ藍色の髪をした少女だった。

 二人とも若い。だが、身に内包した魔力はAランク冒険者に匹敵するレベルだ。


「二人とも来てくれたんだ。他の人たちは?」

「もうすぐ来るはず。あたしたちだけ急いで先に来たの」

「今日こそあいつらを根絶やしにしてやるんだから」

「その気持ちは嬉しい。けど、無茶はするんじゃないよ」


 妖精郷にいる全員が門番を務めていたミエルたちのように強いわけではない。中でも強い者たちを『戦士』と呼んで称えていた。

 戦士の人数は十数人。

 門番として次元の向こう側へ出ている門番や、用事があって妖精郷の外へ出ている者もいて全員が妖精郷にいるわけではない。


「来た!」


 増援が来るよりも敵の襲撃が早い。

 現れたのは、真っ赤な体をした蟻。色だけでなく大きさも異常で、人間と同等の大きさをした蟻が地を這って移動している。

 見えるだけでも100体に迫る勢いで、今も神樹から溢れ出してきている。


「【(シールド)】」


 盾を持った妖精がスキルの名を告げると、掲げられた盾から光の壁が大きく展開されて押し寄せていた蟻の大軍を受け止める。

 妖精の表情が苦痛で歪む。相手が単独や数体の群れ程度なら余裕で受け止められたが、数十体も同時に受け止めるとなれば苦戦せずにいられない。


「リアラ!」

「うん、シェルフは動かないで」


 光の壁に押し寄せていた蟻が地面から飛び出して来た棘に串刺しにされる。

 シェルフの魔法によるものだった。何十体もの蟻が串刺しにされて掲げられている。

 そのうちの2、3体の体がボロボロになって崩壊する。


「今のは……」


 跡形もなく消え去った蟻。

 消えなかった蟻を見てみると足が動いており、まだ生きているのが分かった。


「あとは任せて」


 生き残っていた蟻をミエルが次々に屠っていく。硬く、大きな蟻だが足を止めた魔物を倒すのは難しくない。

 しかし、簡単に斬ることができていたのは10体にも満たない。


「くっ……」


 10体目を剣で攻撃した時には一撃で屠ることができなかった。

 そんなことは、これまでに何度も蟻と戦った経験のあるミエルなら分かっていた。それでも前へ出て行かずにはいられなかった。


「なるほど」


 妖精郷の増援が到着した。ただし、到着した5人は全員が体のどこかに傷を負っていた。負傷していないのはミエルたち3人ぐらいだ。


「これは救世主が必要とされるわけだ」


 門番に立った二人もいる。だが、門番に戦力も割かなければならない理由もあるはずだ。


「で、どうするの?」


 アイラが尋ねてくる。


「状況は分かった」


 判明していない事もある。

 ただし、最も大切な事だけは判明していた。


「依頼人が窮地に立たされている。迷うことなく剣を振れ」

「やっと暴れられる!」


 アイラが駆けながら剣を振り、次々と人間サイズの蟻を斬り裂いていく。


「うそ……もしかしてアタイと戦った時は手加減していたの?」

「それはそうだろう」


 決闘した時、相手が人間だと思っていた。なにより衆人環視の前で、決闘という形式を採っている相手を斬る訳にもいかない。

 しかし、今相手にしているのは倒してしまってもいい侵略者。

 蟻が普通でないことは見ていれば分かる。


「アレが何なのかは後で説明してもらおう」

「もちろん」


 何を相手にしているのかは実際に見て理解した。


「メリッサ一気に殲滅だ」

「それは止めた方がいいでしょう」

「数が多い。魔法で殲滅した方がいいんじゃないか?」

「こんな森で炎が使えるはずありません」


 蟻がいるのは妖精郷で信奉されている神樹。殲滅するような真似をすれば神樹を傷付けずにはいられない。

 メリッサの杖から放たれた風の刃が蟻を斬り裂いていく。ただし、広範囲には使えないため1体ずつ狙った攻撃になる。


「それでいいんだよ」


 俺も迫ってきた蟻の1体を神剣で斬る。硬い鱗で覆われた体だったが、硬いだけの鱗なんて神剣の前では何の意味もない。

 仲間が斬られるところを見て、迎撃しようと足の1本を伸ばす蟻だったが出した足ごと斬られてしまう。

 斬られて倒れた蟻の死体が少しして消える。


「やっぱりおかしい」


 何も残らない。

 実体があり、幻などでないことは斬った瞬間に理解した。


「一つだけ確認だ」

「は、はい……!」

「アレは全滅させても構わないんだな」


 魔法による殲滅は場所を考えれば控えなければならない。

 ただし、今も増え続けているため対処をしなければならない。


「もちろんだよ。あいつらは300体湧き出てくる。妖精郷の戦士が頑張れば、どうにか撃退することはできる。だけどね……」

「今の残った戦力だと心許ないか」


 迎撃に出て来た戦士は8人。それに多くの者が負傷もしている。

 津波のように押し寄せてくる蟻の群れを相手にするには心許ない。


「安心しろ。今回は誰の犠牲も出すことはない」


 左手から魔力を放ち、突撃してくる蟻の下から土の杭を飛び出させる。体を下から貫かれた蟻は、掲げられて足をピクリとも動かなくなる。

 すぐ隣を駆けていた蟻が足を止めて掲げられた蟻を見上げている。

 だが、すぐに斬り掛かってきた俺を止めようと足で攻撃する。


「弱い」


 蟻の体を斬り裂く。


「奇妙な生物だな」


 倒されてしまうと消えてしまうのもおかしい。だが、生物として備わっていなければならない『恐怖』がないのもおかしい。

 無惨な死を遂げた仲間を見て学習する知恵はある。

 しかし、その行動に『悲しみ』や『哀れみ』といった感情はなく、ただ淡々と死体を眺めているだけで、斬られる瞬間も感情が動くことはなかった。


 蟻を斬り捨てながら前へと足を進める。


「神樹の反対側はどうなっているんだ?」

「……そっちに今は(・・)人がいない」


 今は――現在はいなくてもかつてはいた。

 そこにいた人々がどうなったのかは聞く必要がないだろう。


「あいつらはどういうわけか妖精や人間を襲うことにしか興味を示さない」

「だから人のいるこっち側にばかり来るのか」


 敵の数もミエルの言葉を信用するなら300体で終わりだ。


「とにかく奥へ行かせないようにしろ」


 ついてくるように斬り続けるアイラたちに言う。

 大量に押し寄せる群れを前に留まって迎撃するなど普通の魔物が相手ならしない手段だが、相手の死体が残らないなら足場が死体で溢れ返るようなことにならないから気負うことなく斬り捨てられる。


「マルスは?」

「シルビアが何か見つけたようだ。ちょっと奥まで行ってくる」

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