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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第46章 黄昏聖浄
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第7話 妖精の長老

 集落の入口とされている場所から中心にある神樹までは大きな道が真っ直ぐ伸びている。他の場所からの道も神樹へと続いており、集落で神樹がどれだけ重視されているのか見ただけで分かる。


 ミエルを先頭に神樹の方へと歩く。

 すると、ミエルの姿を見た人々――妖精が横にズレて道を開けてくれる。歩きやすくはなったが、異質な歓迎に戸惑ってしまう。


「なんだか、あんまり歓迎されていない?」

「そんなことはない。どちらかと言えば避けられているのはアタイの方だ。これでも郷で重要な役職に就いているからな」


 門番なんてしていたのだから兵士のような立ち位置だと思っていた。しかし、周囲の人々の反応は貴族や王族を迎える平民のようだった。

 少なくとも軽々しく接していい相手ではない。


「気にしなくていい。ただ力が強いから選ばれただけの話だから」

「そうか」


 しばらくすると神樹が目の前に迫るほどだった。

 だが、ミエルの目的地は神樹ではない。神樹のすぐ下にある小屋だった。


「失礼します、ミエルです」

「おお! 戻る時間でないのに帰ったということは……」

「はい。救世主様をお連れしました」

「入ってくれ」


 ミエルが小屋の扉をノックすると中からしわがれた老婆の声が聞こえてくる。

 小屋の中にいる老婆から了承が得られたところでミエルが無造作に扉を開けた。小屋の中には顔や手の肌に皺ができた老婆が板張りの床の上で正座していた。見るからに老婆といった女性だが、その目には活力が満ちていた。


「妖精、か」


 側にいたイリスが小さく呟く。

 妖精郷で見た妖精は誰もが美しく若い女性だった。老婆の姿に惑わされるところだったが、目の前にいる老婆の魔力は間違いなく妖精のものだった。


「いかにも。郷で長老を務めさせていただいております、アルバと申します。どうぞお座りください」


 床へ座るよう促され全員が座る。

 タイミングを見計らって若い……と言うよりも幼い少女の妖精が葉を煎じた茶を出してくれたが、すぐに奥へと姿を消してしまう。


「まずは、このような場所まで足を運んでくれたことに感謝します」

「とりあえずどういう状況なのか教えてくれると助かるんだが……」

「ミエルから何も聞いていないのですか?」


 老婆が鋭い視線をミエルへ向ける。


「だって、オババ様からは『連れて来るように』とだけ言われていたし、オババ様から説明した方が手っ取り早いでしょ」

「何も説明していないのについて来てくれる方が稀です。あなたは、まず彼らに感謝することです」

「でも、オババ様……」

「まずは、その呼び方から改めなさい。客人もいるのですから『オババ様』ではなく『アルバ様』と呼ぶべきでしょう」

「はい、アルバ様」

「よろしい」


 客人、それもミエルの言葉が正しければ『救世主』と称されるような人物の前で説教されて不貞腐れていた。


「内輪での話はそれぐらいにして、何を依頼したいのか説明してもらえますか?」

「依頼、ときましたか」

「もしくは何か『頼みたいこと』があるから、あんな面倒な事をしたんでしょう?」


 面倒な事というのは、今回の騒動そのものだ。

 そもそも次元の歪みの向こうから誰かが出てくる時点で普段とは違う。向こうにあるのが『遺跡』などではないと予想するべきだった。


「元の空間にいた人々は、平原に出現した次元の歪みは偶発的にできたものだと予想していました」


 それが遺跡というもの。これまで何百年も研究されているが、どのようにして別の次元と繋がるのか、偶発的に繋がってしまう原因は未だに判明していない。

 だから道の次元の歪みを前にして、多くの人々が『遺跡』と繋がっているものだと勘違いしてしまった。しかし、実際には『妖精郷』と繋がっていた。


「妖精郷と向こうが繋がっているのは意図したものですね」

「何か根拠がおありですかな?」

「召喚魔法」

「……」

「ウチの魔法使いが次元の歪みを通った時に【召喚魔法】に似た気配を感じ取っていました」


 気付いたのはメリッサだった。ただし、似ていると言っても僅かで【召喚魔法】を模倣した力の痕跡が見つけられただけだ。


「あの歪みは誰かを呼ぶのが目的だったんですね」

「そうです」


 アルバが茶を飲んで一度落ち着かせる。


「魔法……ではありませんね」

「ああ。神樹に願いを奉納した」


 窮地に陥った時、祈りを捧げることで妖精の願いは叶えられる。

 どのように叶えられるのか具体的な事は分からなかったが、救いを求めて祈りを捧げたことで別世界と繋がる次元の歪みが生まれた。

 その次元の歪みを妖精は、助けてくれる誰かが通り門だと判断した。


「だから俺たちが救世主なのか」

「その通りだ」


 救世主であることに明確な理由はない。ただ妖精が望んだだけだ。


「冒険者がどういう存在なのかは知っていますね」

「依頼を受け様々な場所を訪れる人」


 魔物の素材や薬草を求めている人がいれば依頼を引き受け、危険な場所へも赴かなければならない。

 そういう意味ではアルバの認識も間違っていない。


「あなたたち妖精は、俺たちに叶えてほしい願いあるんですね」

「ああ」

「なら、そういう時に冒険者に対してどうすればいいのか分かりますね」

「なっ……! 救世主様が対価を求めるというのか!?」


 俺の言葉が気に入らなかったミエルが立ち上がる。

 妖精である彼女が求めたのは『無償』で自分たちを助けてくれる救世主。決して助けた対価を求める人物ではない。


「対価もなしに助けてもらおうなんて甘い考えは持つな。自分たちだけでどうにもならないから助けを求めたんだろ」

「そうだけど……」

「もちろん用意させてもらおう」


 アルバが部屋の奥にあった棚から箱を取り出して俺たちの前に置く。


「へぇ」


 中に入っていたのは実。

 それが何なのか知らない者が見れば果物だと勘違いしてしまいそうな見た目をしていた。しかし、俺たちは既に実物を見たことがある。


「神樹の実か」


 以前にエルフの里にある神樹からも得たことがある。

 神樹は膨大なエネルギーを蓄えた実が成ることがあるが、その実が成るのは100年に1度だけという非常に希少な物。

 長い時間が必要な物だったとしても長命なエルフや妖精なら目にする機会は生涯で何度かある。そして、目の前にいるアルバは見た目相応の時間を生きている。神樹の実を持っていたとしてもおかしくない。

 神樹の実が貰えるのは非常にありがたい。なにせ、神樹の実は迷宮の力を持ってしても栽培の難しい代物だったからだ。


「もちろん一つだけではない。今は手元にこれしかないが、妾が生涯をかけて集めた50個を譲ろう」

「50……!」


 それだけの数を集めるのにどれだけの時間が必要だったのか想像したくない。


「いいんですか?」

「貴重な物ではある。だが、妾にとっては神樹の実よりも郷の方が大切なだけだ。このままだと妾にとって命よりも大切な郷が滅んでしまうことになる」


 皺ができて年老いた体からは想像もできないほど強い意思の籠った目で真っ直ぐ見られる。

 同時に左右からも見られている気配を感じる。眷属である彼女たちは俺に決定権を委ねている。

 遺跡の調査に関しては、次元の向こう側が妖精郷だったことを報告するだけで完了したと言ってもいい。だが、妖精郷が抱える問題も無視したくない。報酬も提示されている以上、断らなければならない理由もない。


「いいだろう。その依頼を引き受けさせてもらいます」

「それはありがたい。詳しい事はミエルに郷を案内させながら説明させてもらう。もうすぐ日も暮れるだろうからちょうどいい」

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