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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第45章 消失都市
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第26話 書き換えた現在

 急いで駆け付けてみれば【転移】を妨害する結界が展開されているし、リオが攻撃されようとしている状況で眷属の誰も行動を起こそうとしていない。自らの意思でないことは彼女たちの顔を見ればわかる。おそらくリオが絶対命令権を行使したのだろう。

 咄嗟に障害物があるようにして攻撃を中断させたが正解だったようだ。


「素晴らしい。本当に一瞬……いや、それ以上の時間でこれだけのことができるのか!」


 ゼオンは一瞬にして変わった光景を目にして喜んでいた。

 やった俺自身もできてしまったことに驚いている。


「なるほど。こうするのが確実なんだな」


 剣を手にして荒野を駆ける。

 ゼオンへ斬り掛かると同じように剣を握りしめて受け止められる。

 力は向こうの方が多少ばかり上。だが、どうにも手を抜かれているような感じがして攻撃される気配はないし、殺気が感じられない。


「そんなに俺の【世界】が知りたいのか」

「是非とも知りたい。その力こそ俺たちの求めたものだ」


 返事を聞きながらスキルを発動させる。

 俺を中心に半径10メートルの地面が荒野からマグマへと瞬時に変わる。


「なっ……」


 足元がマグマの海へと変わったことでゼオンが落ちて行く。

 どのように変化させるのか事前に知っていた俺は落ちることなく魔力を足元に溜めて足場として留まる。

 だが、突然の変化について行けないゼオンは落ちるしかない。


「どういうステータスをしているんだよ」

「いやいや、さすがにマグマを浴びて耐えているわけじゃないからな」


 マグマの海に下半身を浸かっていても平然としている。

 上から見下ろしていると、まるでマグマの風呂に浸かっているようにしか見えない。


「よく見れば何をしているのか分かるんじゃないか?」

「……トリオンと同じか」

「正解」


 ゼオンのスキルは【自在】。トリオンが空間を歪める光景を見ていたおかげで、空間も自在に歪められるようになった。

 手前に壁があるせいでマグマは押し退けられ、押し寄せることもできない。

 この程度の方法では倒せないことはわかっていた。


「本当に器用な奴だな」

「だけど、そこまででしかない」


 マグマからゼオンが出てくる。

 このままマグマにしていても意味がないと判断し、元の荒野へと戻す。ゼオンの通用しないだけでなく、周囲の気温まで火山と同程度(・・・・・・)にしてしまうためこちらまで熱で消耗させてしまう。


「おまえ、今のは……」


 どうやらリオは気付いたみたいだ。

 さすがに一度は経験しただけはある。


「世界に干渉することで事象を書き換える――それが【世界】の能力だな」


 ゼオンの言葉に頷いて肯定する。

 否定するのは簡単だが、ゼオンは既に確信を持っている。


「そうだ。そのスキルで歪んだ空間も元に戻した」


 歪んだ状態を元に戻した、というのは正しくない。

 あくまでも正常な状態を上書きしただけだ。

 目の前に捻じれた布巾があったとして、普通は捻じれているのとは反対方向に解いて捻じれを解消させる。それを俺は、捻じれていない新しい布巾と交換することで問題を解消させた。

 同じように正常な状態へ上書きした。


「俺はドードーの街が正常だったころなんて知らないんだ」


 イリスが以前に赴いていたおかげで、どのような場所だったのか【迷宮同調】で光景は知ることができた。

 しかし、その後で発展していて、空間の状態など当時のイリスでは知ることなどできない。

 だから――


「俺が最も知っている場所をイメージしながら使わせてもらった」

「自分の迷宮か」

「そのとおり」


 後ろから聞こえて来たリオの言葉は正しい。

 先ほどゼオンを落とそうとした迷宮の火山フィールド、街が消えて草原となったドードーの街があった場所では草原フィールドの光景を上書きさせてもらった。


「おそらく、これが【世界】の正しい使用方法なんだろ?」


 迷宮を地上にも顕現させる。

 時間停止は、その過程で発生する事象でしかない。上書きする世界を認識したことで生まれた能力でしかない。

 強化された【世界】の正しい使用方法。


「時を止めたってお前は動けるんだ。こっちの方がお前には効きそうだ」


 ゼオンに向かって真っ直ぐ走る。


「消え、て……いない!」


 正面から迫る俺を斬ろうとしたゼオンだったが、剣を振り下ろしたのは正面ではなく左。

 上から落とされた剣を滑らせて受け流しながら後ろへと回り込む。


「さすがに姿が見えなくなれば見誤るか」


 周囲をいつの間にか濃い霧が覆っていた。

 霧に隠れながら剣を振るうが、縦に構えたゼオンの剣に防がれてしまう。


「なんだ、この濃すぎる霧は!」


 人の姿を完全に隠してしまう霧など濃すぎる。

 おまけに濃密であるため動き方に細心の注意を払っていれば霧の動きからこちらの位置を察知されるのを防ぐこともできる。


「これを維持するのも大変なんだぞ」


 密林フィールドで発生する濃霧。

 その霧は隣にいた仲間の姿も隠してしまうほどで、冒険者は木と木の間を迷いながら進まなければならなくなる。

 【世界】で、その霧を発生させてもらった。

 通常、戦闘中に霧など発生すれば巻き込まれないよう離れようとする。しかし、【世界】によって発生した霧は、瞬時に濃霧が周囲を覆っている。


 迷宮主でも認識できない一瞬――いや、最初から濃霧があったように改変されている。

 そのため、防御は可能でも回避は不可能だ。


「リオの時とは逆になったな」

「そうだな」


 先ほどはゼオンの攻撃をリオが受け止めていた。

 違うのは、受け止めているゼオンの顔に余裕があることだろう。


「おっと」


 受け止めていた力が消え、神剣が空を切る。

 自身の位置を自由自在に変えられるゼオンにとって鍔迫り合いなど、自身の意思で自由に仕切り直すことができる。

 移動先は霧の外。ただし、そこから動くつもりはないみたいで俺のいる方に体を向けて待っている。


「荒野」


 濃霧が消え、乾いた大地が広がる世界へと変わる。


「随分と使いこなせているじゃないか」

「トリオンのおかげだ。あんなに広大な空間を上書きしていれば嫌でもスキルに慣れることができる」

「なら、黒幕である俺に感謝してほしいところだな」

「どうして、そこでお前に感謝する必要があるんだよ」

「なに……?」

「お前は黒幕なんかじゃないだろ」


 今回の問題のきっかけにはなったが、途中からは全く意図していない方向へと事態が進んでいたはずだ。


「こっちには賢い仲間が二人もいてな」


 ドードーの街にあった迷宮からここまで同行してきたのはアイラとノエル。二人とも俺とゼオンの戦いには介入しないよう伝えてあるため、万が一の場合には助けに入れる位置で待機している。

 そして、メリッサとイリスには迷宮の調査を任せ、シルビアに護衛と周囲の警戒を頼んでいる。


「あの迷宮を簡単に調べたところ最下層は100階まであるそうじゃないか。どうやら、あの迷宮が4つ目の迷宮で間違いないみたいだな」

「だから、どうした?」

「お前には目的があってドードーの街を向こうへ飛ばした。けど、空間が歪んでしまったことで迷宮を直接利用することができなくなったんだ」

「そんなことはない。きちんと迷宮内のどこへでも転移することができる」


 今さら言われたところで証明にはならない。


「なら、どうして最下層の向こう側の世界で再会した時に迷宮と繋がっている扉とは別の場所から出て来たんだ?」

「……」


 あの時、迷宮と繋がる扉が設置された広場で、ゼオンは扉からではなく反対側の路地から姿を現した。

 別の迷宮から向こう側へと侵入し、【自在】で近くへと転移した。

 迷宮の上は【転移】の移動先の対象とすることができる。しかし、あの世界は迷宮の下にある――別世界だ。そのため直接の移動は不可能で、俺たちも最下層へ移動してから扉を用いて侵入するしかない。

 ゼオンもそのルールから逃れられていないはずだ。


【世界】--三次元世界を二次元的に認識、異なる状態へと変化させることのできるスキル。

瞬間を認識し固定することで時間を停止させ、変化させて固定させることもできる。変化の瞬間は誰にも認識することができない。

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[良い点] まさに世界を支配するスキル!! Di○様かな? [気になる点] 『同程度』の点々がいつもと違う……?
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