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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第45章 消失都市
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第22話 VSトリオン―前―

 黒いフード付きのローブで体を隠した少女。


「へへっ、まさかそっちから来てくれるなんてね」


 トリオンは自分の領域とも言える場所に俺たちの方から来てくれたことに喜んでいた。

 おそらくどうやって引き込むのか頭を悩ませていたのだろう。今、俺を中心に半径10メートルしか安全な空間を確保することができていない。この程度の広さでは満足に剣を振り合うこともできない。

 先ほどのように遠距離から歪励弾を打ち続けるだけでいい。

 それをしない理由にも見当がつく。


「あまり強がるのは止せ」

「……なんだって?」

「お前のその言動が強がりだっていうのはわかっている」


 悪魔に雌雄の必要性はない。

 ただし、精神の在り方から雌雄が生まれ肉体に反映されることはある。

 小柄な体やわずかに膨らんだ胸元から女性なのだということがわかる。

 悪魔であるトリオンは、少女の肉体に少女の精神を宿している。女の子らしくあれなどと言うつもりはない。だが、わかりやすい見た目をしているからには相応の精神がある。


「だから、なに?」

「どれだけ強がったところで俺たちにお前の攻撃は通用しない」

「そういうのは……! アタイを倒してから言いな!」


 正面にいたトリオンの姿が消える。


「へっ、どうだい……ぐへぇ!」

「そこに移動したのか」


 姿が消えたわけではない。空間移動をしたことで目の前からは消えてしまっただけだ。


 そして移動先はノエルの横。

 【世界】による結界のギリギリにいる眷属たち。彼女たちが手出しできない歪んだ空間なら安全だと思い、腕を突き出したトリオンだったが突き出した腕を回避され、逆に腕を掴まれると地面に叩き落された。

 ノエルを狙った理由は単純に俺たちの中で最も弱そうに見えたからだろう。その考えは間違っていないが、この空間においては間違った判断だ。


「うるさい!」


 今度は俺を挟んで反対側にいるイリスの近くへと転移する。

 その手には触れた空間を歪ませる為の力が込められている。どれだけ強固な防御であっても空間と共に壊されれば耐えられない。

 イリスが空間もまとめて凍らせたのをトリオンは見て知っている。だから、たとえ凍らされても氷を破壊できる力を込めている。


「【氷柱雨(アイシクルレイン)】」

「い゛っ……!」


 攻撃の為に突き出した腕に先端が鋭く尖った氷柱が何本も突き刺さる。


「そのまま凍らせてあげる」

「ぁ……」


 腕に走る激痛に膝をついてしまったトリオンを覆うように冷気が体に纏わりつく。とはいえ肉体を覆うように展開されている空間の歪みに付着し、周囲を氷で覆うように広がっている。

 このままでは氷に閉じ込められる。

 恐怖を覚えたトリオンが空間を跳躍して俺たちの正面に現れる。


「どう、して……」


 現れた場所は20メートル先。

 空間が歪んでいる為、トリオンにとっては安全な場所だが、目の前に広がる光景にトリオンは戦慄を覚えていた。


 見られている。

 空間を跳躍しての移動であるにもかかわらず、6人がトリオンのいる場所へと正確に視線を向けていた。それも移動して現れた瞬間には目を向けており、トリオンの認識よりも早い。

 事前に出現場所がわかっていなければ不可能な事だ。


「こんなことができるはずない! この場所でならアタイが最強なんだよ!」

「それはお前の勘違いだ」

「は……アタイが強くないとでも言うつもりかい?」

「そうだ。自分が誰にも負けない『最強』だなんて勘違いしている子供に負ける気がしない」


 絶対的な攻撃力を持つ【歪励弾】。

 最上級クラスの攻撃以外は通さない【空間歪曲】。

 一瞬にして別の場所へ移動することのできる【空間操作】。

 どれだけ強力なスキルであろうと対抗できる力や弱点は必ずある。外を知らずに生まれたトリオンはそのことを知らない。


「この空間へ逃げ込んだことで有利になったと思っているようだけど、【空間操作】においては有利になっていないんだよ」


 常に捻じ曲がったような空間。そこで空間を繋げようとすれば、さらに捻じ曲げるか緩やかになる。

 空間の歪みが顕著に顕れたことで出現先が捉えやすくなった。

 さらに大きな力を要するようになったことで跳躍に時間が必要になってタイムラグが生まれた。

 もっとも俺たちでなければ侵入できないのだから本来なら安全な場所であることに変わりはない。


「出てくる場所さえわかればそれほど怖くないんだよ」


 トリオン自身の身体能力は高くない。

 至近距離で戦う状況になれば負けない。


「この……」


 次にトリオンが出現したのはアイラの背後。

 剣士にとって背後は死角で、アイラには見えていない。


「なん、で……」


 移動した直後、トリオンの肩に鋭い痛みが走る。

 突き出されたアイラの剣が肩を掠めていた。


「外しているわよ」

「仕方ないでしょ。こっちは見えていなくて大雑把な攻撃になるんだから」

「クソッ!」


 恐怖を押し殺してアイラへと手を伸ばす。

 しかし、トリオンの手がアイラへ届くことはなく、アイラの振る剣によって細切れにされてしまう。

 残骸となったトリオンが地面に転がるが、それも少しすると塵になって消えてしまう。


「こんなもの……なわけがないんだよな」


 上空には複数の使い魔が待機して状況を知らせてくれている。

 メルストの前では歪魔との戦闘が未だに続けられており、歪魔が消える様子もない。

 トリオンによって召喚されたと思われていた歪魔が消えていない。

 これが意味するのはいくつかあるが、最もわかりやすいもので問題ないだろう。


「出てこい」

「あ、バレた?」


 なんでもない様子のトリオンが離れた場所に現れる。

 そもそも俺たちを恐れているトリオンが簡単に姿を現すはずがなかった。突入前にはどうやってトリオンを誘き出すのか考えていたぐらいだ。


「自分の存在まで歪めたか」


 おそらく先ほど倒れたトリオンも本物。

 しかし、トリオンは自らの力を自分自身へ施すことで複数の存在――偽物を生み出すことに成功した。トリオンと全く変わらないためスキルも使えるし、気配も本人と変わらなかった。

 ただし、最初から使い捨てにするつもりだったのか自分が歪められた存在だったとは知らなかった。


「お兄さんは驚いていないみたいだね」

「いや、驚いているさ」


 存在を歪めて新たな魔物を生み出した。

 いずれは自己を歪めることで強い力を手に入れられることも予想していた。ただし、予想よりも早いという意味では驚いている。


「なら、もっと驚かせてあげるよ」


 トリオンが左手を上に掲げる。

 すると、100発以上の【歪励弾】が空中に生成される。


「お兄さんたちはここに入って来られたけど、その狭い範囲でしか動けないみたいじゃない。だったら、そこを埋め尽くしちゃうほどの攻撃を受けたらどうなるんだろうね」


 物量に任せた攻撃。

 今の状況を思えば有効ではある。


 ただし、それは自分の得た情報が正しかった場合の話だ。


「4人とも――走れ!」

「「「「了解」」」」


 シルビア、アイラ、イリス、ノエルの4人が別々の方向へと走り出す。

 俺を中心とした【世界】の結界からは出てしまっている。


「え、ちょっと……」


 結界からは出ることができない。

 その前提が覆されたことでトリオンが困惑し、4人を交互に見ている。

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