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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第45章 消失都市
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第19話 歪魔襲撃対策―後―

 メルストの門を背にして多くの冒険者が集められていた。

 彼らの視線の先にはドードーの街があるはずだ。発展したこともあって以前は片鱗を見ることができていたが、完全に消滅してしまったためここからでは見ることができなくなっていた。


「き、来たっ――!」


 普段は斥候として活躍する冒険者が遠くを見ながら叫ぶ。

 この場にはメルストの領主が抱える騎士も駆け付けており、彼らの目でも遠くから近付いてくる巨人の姿を見ることができた。

 ゆっくりと近付いてくる歪魔。遠くからでも巨大であることが分かり、全員に緊張が走る。


「あ、あんなのをおれたちだけで倒すのか!?」


 思わず叫んでしまったのはBランク冒険者。普段はメルストで最強の冒険者の一人として数えられているせいで偉ぶった態度を癪に感じる冒険者も多いほどだったが、今はそんな様子を思い起こさせないほど緊張している。

 強いからこそ敵の異様さを感じることができる。


「逃げることなんて許されないぞ」


 既にメルストの冒険者全員に緊急依頼が発せられている。メルストを拠点にして活動している冒険者は、北から迫る脅威に対処しなければならない。


「本当に俺たちだけでやるのか?」


 ただし、集められたのはAランク二人とBランクが十人のみ。Cランク以下の冒険者については俺の方で拒否させてもらった。

 歪魔で最も脅威となるのは、身を覆うように展開された空間の歪み。これを突破するには最低でもAランク以上の力が必要になり、Bランクでは足止めが限界。Cランク以下では無駄死にするようなものだ。


「大丈夫です。国へ緊急の救援要請を出しました。そう遠くないうちに援軍は駆け付けてくれます」


 ミシュリナさんが鼓舞する。彼女が言うように救援があるだけ絶望的な状況ではない。

 ただし、その救援がいつ到着するのかわからない。早くても明日、遅い場合には1週間後になる可能性もある。救援が到着する頃にはメルストの廃棄を決めなければならないという絶望的な状況だった。

 どちらにしても、その頃には終わっている。


「少しでも早く終わらせたいと思います」

「……お願いします」


 トリオンを少しでも早く終わらせれば危機は取り除かれるかもしれない。

 突入準備を進めながら、明後日の方向を見る。


「手を貸すつもりはないみたいだな」

「はい?」

「いえ、なんでもありません」


 意識を切り替える。

 だが、突入しようと思った足を止めなければならなくなった。


「……どうやら援軍が到着したみたいですよ」


 離れた場所に黒い球体が出現する。

 この場に集まった者の多くが、突如として出現した球体に警戒心を向けるが、黒い球体の正体を知っている俺や眷属は平然としていた。

 やがて、黒い球体――【転移穴】から少女にしか見えない女性が姿を現す。


 ソニア。俺と同じ迷宮主(ダンジョンマスター)であるリオの眷属で、転移などの空間に関連するスキルを得意としている女性だった。

 さらにソニアの後ろからは見覚えのある女性が次々と出てくる。


「おいおい……まさか全員を連れて来たわけじゃないよな」

「全員いるぞ」


 眷属の後でリオが姿を現す。

 リオに続くようにして転移穴から冒険者と思しき者たちが出てくる。


「メルストの冒険者ギルドのギルドマスターだな」

「あなたは……」


 初老のギルドマスターは口をポカンと開けたまま呆然としている。

 彼も人伝いにリオの容姿について聞いている。腰には冒険者だった頃の象徴とも言える魔剣があり、話しに聞いていた通りの容貌と女性の仲間を引き連れている。


「事情は理解している。どうやらかなりのピンチらしいな」

「その通りだが……」

「話を聞きつけて帝都にいた冒険者を集めてきた」

「まさか、強制依頼を……?」

「いや、さすがに皇帝だからといってそこまでの力はない。あくまでも声を掛けただけだ」


 リオが皇帝に就任してから10年近くが経過しようとしている。既に冒険者だったころの姿を知る者の方が少なくなり、野性味溢れる冒険者らしい格好をすれば姿を現しても皇帝だと気付かれることはなかった。

 そうして冒険者ギルドを訪れると自分の知るイシュガリア公国の現状を伝え、救援の依頼を受ける者がいないか希望者を募った。


「報酬は俺の個人的な資産から出して彼らを雇った。今のメルストには必要だろ」

「そ、そのとおりではあるのですが……どのような礼をしたらいいのか……」

「だったら立て替えてもらったと思えばいい」


 リオが連れて来た冒険者はAランクとBランク冒険者のみで約100人。

 彼らを雇うのにいくら必要なのか考えてギルドマスターが頭を抱えていた。


「か、かしこまりました……」


 それでもメルストの状況を考えれば援軍はありがたい。

 結局は受け入れる以外の選択肢がなかった。


「ですが、どうせなら帝国軍を連れてきていただけるとありがたかったです」


 皇帝であるリオなら独断で軍を動かせるだけの権力がある。何度も行使できる権力ではないが、助けられる側としてはより大きな戦力に縋りたくなってしまう。

 ただ、リオが軍を動かさなかったのにも相応の理由がある。


「いいのか? グレンヴァルガ帝国軍をイシュガリア公国へ進軍させても」

「……」


 ギルドマスターは答えられなかった。

 他国の軍隊が自国内を自由に動き回るなど許容できるはずがなかった。

 皇帝としてイシュガリア公国がどのように思うのかわかっていたからこそリオは公国の危機であろうと帝国軍を動かすことができなかった。

 だからこそ自由に動ける冒険者を雇い、自身も冒険者として訪れていた。


 こんな事が可能なのもソニアの【転移穴】があるからだ。彼女の手でイシュガリア公国の首都にいる戦力を連れて来る手もあったが、ここまで大きくなった問題に個人的であっても手を貸すのは問題だった。

 ただし、冒険者を巻き込んで、さらに大きくすることで有耶無耶にした。


「さて、そっちにも色々とやり方があるだろ。だから、こっちはこっちで街を護らせてもらうことにする」

「あ、ああ」


 有無を言わせぬ態度にギルドマスターは頷くしかなかった。

 皇帝らしい仕草で離れ、俺の方へと近付いてくる。


「状況はわかっているのか?」


 連絡はしていなかった。だが、これだけの戦力を連れて来たということは、どういう状況なのか最低限の事は理解しているはずだ。


「ああ。ソニアにこっそり見張らせていたからな」


 シルビアの方を見るが、彼女は首を横に振る。

 誰もソニアが近くにいることに気付かなかった。


「ま、その方法は伏せさせてもらう」

「知っているのはいい。それよりも皇帝のお前がどうして出て来たんだ?」

「たまには体を動かしたかったんだよ」

「……」

「というのは嘘で、冒険者を動かせるようにしておきたいんだ」


 皇帝として何らかの思惑があるのか、詳しい事は教えてもらえなかった。

 ただし、絶望的な状況で援軍として現れてくれたことはありがたかった。


「俺が期待していた援軍ではないけど、助けに来てくれたことは素直に嬉しいよ」


 さすがに無力な人々が歪魔に蹂躙されるのを見過ごすのは忍びない。


「だったら誰が来るつもりなんだ?」

「もしかしたら俺たちが突撃した後で駆け付けてくれるかもしれない。だけど、お前が来てくれたおかげで街を心配する必要もなくなった」


 仲間の方を見る。

 前回と同じ陣形を組む。


「後ろは任せた。俺たちはこっちの事は気にせず、悪魔を倒すことだけに集中させてもらう」

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