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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第45章 消失都市
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第18話 歪魔襲撃対策―前―

 メルストの冒険者ギルドにある大きな会議室。


「いったい、どういうことだ!?」


 普段は冒険者ギルドなど利用しない領主が会議室の中で怒鳴っていた。

 彼はドードーの街近くで駐屯しているはずの騎士の部隊が撤退してきた報告を領主の館で聞き、冒険者ギルドを訪れていた。今後の話し合いを考えれば自らの館よりも冒険者ギルドの方が適している、と判断することができていたからだ。

 そして、本来なら冒険者ギルドの主と言っていいギルドマスターは頭を抱えていた。年齢を理由に引退した人物で、薄くなった白髪がストレスから抜け落ちようとしていた。


「今日だけで何があったのか説明してくれ」

「はっ」


 請われてポーリッドが説明する。

 冒険者ギルドからの依頼を受けた冒険者が暴走し、歪魔と化したのを『聖女』の依頼を受けて訪れた俺たちの手によって討伐されたこと。

 その後、悪魔が内側にいることが判明し、これも俺たちの手で討伐されたこと。

 最初から説明したが、最も厄介なのは今も空間の歪みが拡大していることだ。


「本当に、そんなことが起こっているのか?」

「我々では歪み、というのを感知することができません。なので、これから話させていただくのは感知できる彼らの報告によるものです」


 ポーリッドが言うと領主やギルドマスター、彼らの側近といった為政者たちの視線が俺へ向けられる。


 もう紹介は済んでいる。俺の名前を聞いただけで、彼らは異常な事態へ対処できたことにも納得していた。

 そうして会議にも参加させられることになったのだが、会議室にいるのはほとんどがむさ苦しい年上の男性ばかり。女性である彼女たちを入れたくないので、外でミシュリナさんたちと一緒にいてもらっている。


「まず空間の歪みですが、一定の速度で今も拡大を続けています」

「……私たちは『空間の歪み』など言われても理解できないのだが、それはどのようなものなんだ?」

「それは……私たちにもわかりません」

「なんだと!?」


 ポーリッドも飲み込まれた人たちがどうなったのか見ていた。

 だが、見ていただけで何が起こったのかは理解できていない。


「ここから『いなくなる』と思ってください」


 代わりに答えてあげる。


「いなくなる?」

「こういう感じですね」


 会議の参加者にはコップに注がれた水が配られている。

 自分に与えられたコップを誰からも見えるように持つと、収納リングへと収納してしまう。彼らは権力者だ。魔法道具である収納リングについても多少の知識を保有していたので詳しい説明は必要ない。


「今のでコップはこの世界から消えました」


 移動先は収納リング内にある亜空間。

 自由に出し入れできるが、現在は世界のどこにもカップは存在していない。


「そ、その……消えた……移動した人たちはどうなっているんだ?」


 領主の疑問の答えも俺は知っている。だが、知っている理由を教えるわけにはいかないため曖昧に微笑むだけに留める。


「色々と問題はありますが、最も大きな問題はドードーの街があった場所だけだった空間の歪みが拡大を続けていることです」

「そ、そうだ……! もし、それがここまで来たら……」


 領主やギルドマスターが息を呑んだのが手に取るように分かる。

 上空から俯瞰したドードーの街近辺の地図を空中に投影させ、現在の状況をわかりやすくする。


「今も拡大を続けています。ただし、その速度は一定ではなく波があります」


 おそらく拡大するよう干渉したのはトリオンだ。だが、幼いトリオンでは完全な制御をすることができず、あの子の精神状態に拡大速度が左右されている。

 おかげで正確な時間を予想することができない。


「それでもメルストまで到達するのに最低でも1日は稼げるでしょう」

「1日!? 明日にも到達するというのなら、すぐにでも避難しなければならない!」


 領主が立ち上がって避難を始めようとする。鬼気迫ったような表情から自分だけ逃げて助かろうと考えているのがわかる。なにせ領主の責任を果たして民を逃がしていれば自分は間に合わない。

 パニックは起こるだろうが、メルストにいる全員を逃がすことはギリギリだができる。


「いいんですか?」

「なに……?」

「人の避難はできます。ですが、空間の歪みに飲み込まれた瞬間にメルストで残っていたあらゆる物は消えてなくなることになります」


 メルストには人々が生活する為の家、働く場所がある。

 何年、何十年と掛けて発展を続けてきた都市が一瞬にして消滅することになる。


「人間が避難するだけなら簡単です。ですが、災害が起きた時以上にこの場所には何も残されなくなります。それでもいいんですか?」

「……では、どうする?」


 ゆっくりと噛み締めるように言ったおかげで、冷静さを取り戻した領主が席に座る。

 やることなど最初から一つだけだ。


「この現象を引き起こしているのは歪んだ空間の中で生まれた悪魔です。少なくとも、この悪魔を倒さないことには事態を鎮めるのは不可能だと思われます」

「だが、その悪魔は歪んだ空間の中にいるんだろう?」


 人間が入った瞬間に消されてしまう。

 それでも引き籠っているトリオンを倒すことはできない。


「突入できる俺のパーティが悪魔の討伐を引き受けます」

『おおっ!!』


 彼らは俺がこれまでに残してきた偉業を知っている。

 荒唐無稽なことを言っていたとしても、何かを信じたい状況では縋ってしまわずにはいられない。


「だったら早く行ってくれ」

「騎士隊の撤退は完了しました。すぐに向かってもいいんですが……」


 投映された地図に赤い点がいくつも表示される。

 さらに地上から見た光景も同時に映し出されるようになる。


「う……」


 領主が口を押さえる。

 映し出されたのは歪魔。いくつもの生命を混ぜ合わせることで生み出された歪魔だが、今は体からいくつもの手足が飛び出しているようなこともなく、一つ目の巨人――サイクロプスが歩いているように見える。


 アイラとメリッサが倒したのは失敗作――試作品と言ってもいいような存在。

 それをトリオンは短時間で完成させた。

 不気味な見た目は領主には辛かった。


「この都市に向かって30体の歪魔が向かっています。どうやら近くにいた魔物の肉体を取り込んで生み出したようです。こいつらは厄介です。Aランク相当の攻撃でなければ足止めにすらなりません」

「だったら、君たちが倒せばいいじゃないか」

「それも有効とは思えません。倒したらこちらも消耗しますし、今いるので全てとは限りません。全て倒した後で突入し、後から現れた歪魔にメルストが滅ぼされるなんてことも考えられます。向こうの速度はゆっくりですが、それも俺たちがここにいると知っていて警戒しているからでしょう」


 歪魔の侵入を許してしまった時点でメルストが滅ぶのは確定だ。

 そうなれば避難どころではない。


「どうにか俺たちに頼らず撃退する必要があります」

「手伝わないのか?」

「俺たちの役割は突入と討伐です。与えられた役割は責任を持って全うするつもりですけど、都市の安全にまで保障はできません」


 突入した後、自分たちの安全は自分たちで確保してもらうしかない。


「掻き集められるだけ高ランクの冒険者を集めてください。そうしなければ死ぬことになりますよ」

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