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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第45章 消失都市
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第15話 消える人々

「まったく……騎士様も人使いが荒いよな」

「おい、聞かれたらどうするんだよ」

「大丈夫だって、近くにいる騎士様だって声なんか聞こえない離れた場所にいるんだから」


 二人の兵士が仕事をしながら談笑している。

 彼らに与えられた仕事は野営地に設営された天幕や物資の回収。近くの街まで撤退することを決めたポーリッドだったが、メルストに兵士まで含めた全員を受け入れられるほどの余裕はない。従って物資などを持って行く必要があり、こういった仕事は下っ端の彼ら兵士の役割だった。


「ま、あんな戦闘を見た後だと文句を言えないけどな」


 巻き込まれないよう離れた場所から歪魔と騎士の戦いを見ていた。

 騎士ほどの力も持っていない兵士たちでは為す術もなく蹂躙されるだけに終わるのは目に見えていた。あのように危険な戦闘で率先して前線に立つからこそ騎士は特権を享受することができている。


「そこ、さっさと手を動かせ」

「は、はいっ!」


 それはそれとして過酷な労働を強いられるのは納得できていなかった。

 時には理不尽な命令を受けることもあるため、兵士の騎士に対するイメージはよくなかった。


「さっさと仕事を終わらせるっていうのには俺も賛成だな」

「どういうつもりだ?」

「別に騎士の連中に媚を売っているわけじゃない。お前だって化け物の親玉が壁の向こう側へ消えたっていうことを知っているんだろ」


 兵士には歪魔の詳細について語られなかった。トリオンの姿は多くの兵士が目撃していたため、あくまでもトリオンの生み出した化け物、ということにさせられていた。

 そして、トリオンこそが今回の事件を引き起こした黒幕。

 ざっくりとした説明しかされておらず、指揮官が倒れてしまったために態勢を整えるため撤退することを決めた。


 おおよそは間違っていない。致命的な部分は撤退したところで、騎士の力だけではどうしようもないことだ。


「こんな場所にいたら俺らも襲われるぞ」

「大丈夫だろ。安全をとって離れているんだから」


 土壁があるのは100メートル以上も先。

 冒険者のパーティが消えてしまった話は聞いていたが、土壁を壊そうと接近していたとも聞いていた。


 騎士からの説明では「接近するのは危険だ」とあった。

 だから、兵士たちの中には『離れていれば安全』という認識があった。


「さっさとこれを持って行くぞ」

「おう」


 二人が物資の詰め込まれた木箱を持ち上げ歩き出す。


「どうした?」


 しばらくして斜め後ろにいたはずの同僚がいなくなっていることに気付いて振り返る。

 だが、隠れる場所などないのに同僚の姿を見つけることはできなかった。


「いったい……」


 その言葉を言い切る前に彼も消えてしまった。


 ――ガシャン!


 木箱を落とした音だけが響き渡る。



 ☆ ☆ ☆



「うん?」


 複数のグループに分かれた兵士に指示を出して撤退準備を進めていた騎士が音を耳にして頭をそちらへ向ける。

 たしかに木箱が落ちる音が聞こえた。


「おかしいな……」


 音がした方向には何もなかった。

 木箱どころか片付けをしていたはずの兵士の姿も見つけられない。


「あいつらサボった、な……?」


 サボって姿を晦ませたと思ったが、すぐに違和感を覚えた。


 あまりに綺麗すぎる。もし、片付けをせずサボっているのだとしたら荷物がそのまま残されていなければおかしい。

 だが、土壁のある場所まで荒野が広がっているばかりで何もない。


「……!」


 そう何もなかった。

 荷物だけでなく、僅かに生えていた草も抉られたように『消えていた』。


「……警戒!!」


 異常事態であることを察知して近くにいる兵士へ呼び掛ける。

 だが、その言葉に応えてくれる者は誰もいなかった。


「まさか……」


 心の中では慌てながら、それでいて現実を認めたくない思いのせいでゆっくりと首を横へと動かす。


「え……」


 しかし、そこには想像していたような人々の姿はなかった。


 誰もいない。

 頭を向けた先では少なくとも10人の兵士が天幕の撤去を行っており、作業途中の天幕が置かれているはずだった。

 人だけでなく物もなくなっている。


「はは……」


 騎士の口から乾いた笑みが漏れる。

 半笑いのまま鞘から剣を引き抜く。


「どこだ! どこにいる!」


 そうして近くにいるであろう敵に向かって叫ぶ。

 遠くに見える土壁に壊れた様子はない。騎士はトリオンが空間を跳躍して土壁を壊すことなく外へ出てきていたことを知っている。だから再び外へと出て来て人々を消しているのだと思った。


「クソッ……!」


 反応がないことに苛立って剣を振り回す。

 遠くにいる別の騎士がおかしな様子に気付いて近付いてくる。さらに奥の方では兵士たちが取り乱した騎士を見ながらヒソヒソと話し合っていた。


「ち、ちがう……わたしは正常だ……なぁ!?」


 振り回していた剣が中ほどから消失してしまう。

 目の前には何もない。いや、視界には何も映っていないし、他の感覚では捉えることができず、気配も一切感じることができない。


 ――いる。


 それでも確信を持つことができた。


「ぃ……」


 小さな呻き声と共に騎士の体が持っていた剣の柄だけを残して消える。

 近付こうとしていた騎士の耳に柄が落ちた音が届く。


「なっ……」


 その時になってようやく彼にも異常事態であることが知れた。

 だが、何も知らずに近付いていたことが災いした。


「ぁ……」


 同じように呻き声を上げられただけで何もできずに体が消えてしまった。


「わぁぁぁぁぁ!」

「に、逃げろ!!」

「襲われたら消されるぞ!」


 作業をしていた兵士が物資を放って一目散に逃げ出す。


「くそっ!」


 騎士の一人が逃げる兵士を守ろうと消えた人々のいる方に向かって剣を構える。

 敵の攻撃を見ることすらできない。それでも騎士として逃げる者が消されるのを見過ごすわけにはいかない。

 しかし、立ちはだかる者がいれば的確に狙いを定めて消す。


「も、もう4人も消えた……?」


 事態に気付いた5人目の騎士が剣を構える。

 その手は震えており、恐怖を堪えているのが見て分かる。


「ぼくが、やるしかないんだ」


 騎士になったばかりの若者が声に出して必死に自分を鼓舞する。


「ひぃ……!」


 ――やられる。


 そう思うと目を瞑ってしまう。


「よく頑張った」

「え……?」


 少年騎士が目を開けると、目の前には冒険者が立っていた。


「俺とイリスでこっちはどうにかする。そっちは任せたぞ」


 マルスが離れた場所に向かって叫ぶ。


「要領は先ほどと同じでいいと思いますが、これを相手にするのは生理的に厳しいですね」

「それは同感」


 自分の武器を構えるメリッサとアイラの前の空間が歪み、人の形をかろうじて保つ化け物が吐き出される。

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