第13話 トリオン
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名前:歪励悪魔
レベル:100
体力:20000
筋力:20000
敏捷:20000
魔力:20000
スキル:【空間操作】【空間歪曲】【歪励弾】【力吸収】
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イリスがスキルを使用すると仲間全員の視界にトリオンのステータスが表示されて共有することができるようになる。
ステータスの内容で気になるところはある。だが、それよりもステータスを知ることができた理由だ。
「いつのまに【鑑定】したんだ?」
俺たちの中で他者のステータスを垣間見ることができるのは【迷宮魔法:鑑定】だけだ。
膨大な情報を読み取ることが可能な魔法。ただし、読み取ることができるのは迷宮に関係する人物や物に限られる。
「向こうへ転移で消える直前」
イリスも治療と攻撃を行った直後で、トリオンが姿を現したばかりの頃は余裕がなかった。それでもシルビアたちが攻撃をしているうちに余裕を取り戻し、自分が何をするべきなのか思い出した。
残念ながら時間がなかったため詳細な情報までは得られなかった。それでも最低限の情報は得られていた。
「助かった。おかげで色々と分かった」
騎士団が野営地に用意した天幕の一つを利用させてもらい、6人で円になって作戦会議を行う。
「敵は悪魔か」
以前にも悪魔と遭遇したことがある。
望んだ夢を見せ、夢の虜にすることで閉じ込めることのできる悪魔。夢に閉じ込められた人を操ることもでき、国が瓦解した可能性もあった。
大昔は国が総力を挙げて討伐しなければならない相手だった。
「どうして、そんな奴が現れたんだ?」
悪魔は人間が放つ憎しみや怒りから生まれ、そういった負の感情を糧にして生きている。
「ここにいた事を考えれば、転移させられたことによる恐怖から生まれたのではないでしょうか」
「そうかな?」
メリッサの案をノエルが否定する。
「思い出してみて、向こうに移動させられた人たちは驚いてはいたけど、怖がっているような様子はなかったよ」
転移した状態のまま存在を固められてしまった。
突然、上空に現れた光に驚いて目を瞑っている人こそいたものの恐怖しているほどではなかった。
その状態のまま固定されているため、移動した後で恐怖したとは思えない。
「もっと別の感情から生まれたんだと思う」
悪魔の誕生の秘密は攻略の糸口になる可能性が高い。
見つけたいところだが、今は考えたところで答えが得られない。
「恐怖って言えば、あいつはどうしてあたしたちのことを警戒していたの?」
「それは、わたしたちが脅威だったからじゃない?」
アイラの疑問にシルビアが答える。
歪魔と化したバルトロを苦戦することなく倒し、騎士を素体に作られた歪魔も無事に倒すことができた。トリオンにしてみれば歪魔は自信作と言える存在だったはずだ。それを倒せてしまえる俺たちは脅威と言ってもおかしくない。
「たしかに戦った姿を見せた後なら脅威に感じてもおかしくないと思う」
「……うん?」
シルビアの言葉に若干の違和感を覚える。
それでは戦闘した姿を見せる前から警戒しているみたいだ。
「最初に接触した時から警戒していましたよ」
「最初……歪魔になったバルトロは俺を外に出さないよう必死だったな」
「……その前、です」
その前、と言われてもトリオンや歪魔と接触した記憶はない。
「接触はしています。トリオンから殺気を浴びせられています」
「あ……」
たしかに嫌な気配があった。
姿を見ていないせいで忘れていたが、あれがトリオンとの最初の接触になるはずだ。
あの段階では、ドードーの街へ侵入こそしたものの戦闘らしい戦闘を全くしていない。バルトロのパーティと揉めたものの、歪魔を持つトリオンに警戒心を抱かせるほどではないはずだ。
それでも警戒――恐怖を抱いていた。
イリスが溜息を吐く。
「そもそもトリオンの言動がおかしいと思わないの?」
子供らしい言動……というよりも幼いイメージを抱かせた。
イリスには、そのままトリオンが幼いからだと思えた。
「あの子は本当に生まれたばかり。それこそ、数時間前に生まれたばかりなんだと思う?」
「だったら、さっきのステータスはおかしいだろ」
レベルが既に100あった。
「おかしい、と言うならレベル100で全てのステータスが20000? そっちの方がおかしいと思う」
あまりに数字が揃いすぎている。
生まれた瞬間にそれだけの力を与えられたと思った方がいい。
「あの子は生まれた直後に力が与えられてステータスが上昇した」
必要があったために20000ものステータスが与えられた。
たしかにそれぐらいのステータスがなければ俺たちと対等に戦うのは難しい。
「そして、歪んだ空間の外では生きることができずに『帰った』。それは歪んだ空間の中で生まれたからなんだと思う」
空間が歪んでいても生きられることを目的にした存在。
だから、歪んでいない正常な空間の方がトリオンにとっては異常に感じられてしまった。
生きていく為の手段はスキルにも現れている。
「ドードーの街があった場所があんな風に歪んでから今まで、その間に変わった事はあった?」
既に異常な事態と言える。
だが、そんな状態だったからこそ誰も近付くことができなかった……俺たちを除いて。
「まさか……」
【世界】は歪んだ空間を正常な状態へと書き換えることで安全なスペースを確保していた。
それは、歪んでいる空間こそ安全だと言えるトリオンにとっては、初めて感じることができた脅威だった。ただし、その脅威を感じたのはトリオンではない。
「あの空間そのものが【世界】に対して恐怖を抱いた」
どうにかしようと思った。歪んでいるからこそ、ただの空間であるにも関わらず人間みたいな感情を抱いてしまった。
だが、恐怖を抱いてしまっただけで、干渉できるようになるわけではない。
空間が求めたのは、人間のように動けて干渉できる存在。
「そんなのいるわけがないだろ」
「それが、そうでもない」
そもそも、そんな風に人間みたいな感情を抱いてしまったのは、ドードーの街があった空間が今も転移させられた場所と繋がっていたせいだ。
向こう側には、今も生きた人間がいる。
「トリオンの大元になっている存在は、転移させられた人たちだと思う。自分で見ていたから分かると思うけど、あいつは転移させられた人たちを自由に出すことができる」
消えた4人の騎士は、空間を繋げて自由に出し入れされていた。
彼らについて確かめたわけではないから間違っているかもしれないが、おそらく向こう側の世界に送られていた可能性が高い。
なら、向こう側に送られたドードーの街の住人を呼び出すこともできる。
ただし、ただの人間を呼び出したところで役に立たない。
「だから人間らしい存在を生み出そうとして……悪魔が生まれてしまった」
「ちょっと待て。なら、あの悪魔は俺たちに対する恐怖心から生まれたって言うのか?」
「そうだと思う」
イリスは確信がないように言うが、おそらく間違っていないだろう。
探索などしてしまったために悪魔を生み出してしまった。とはいえ調査依頼を受けていたのだから探索をしないわけにもいかなかった。
「あいつが生まれた経緯は分かった」
問題は今後の事だ。
「どうやって奴を倒すのか考えよう」
手掛かりは既にある。