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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第45章 消失都市
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第12話 狙われた騎士

 恍けてみせる少女。だが、楽しんでいるような表情から嘘を言っているわけではないことが分かる。


「さっき生まれたばかりだからね。名前も持っていないんだよ」

「生まれたばかり?」

「トリオン……うん、アタイの名前はトリオンだね」

「が、あああぁぁぁぁ!」


 倒れたポーリッドから苦痛に満ちた叫び声が発せられる。


「ちょ、なにこれ!?」


 珍しく慌てているイリス。彼女の視線の先では、ポーリッドの頭が紫色の手に掴まれていた。手からは得体の知れない光が漏れ出しており、ポーリッドの叫び声からも危険な状態だと分かる。

 近くにいた剣を振るう。


「おっと」


 刃が届く直前、頭を掴んでいた手が離れる。



「お前か」

「そうだよ」


 声の主はトリオン。

 改めてトリオンの手を見てみればポーリッドの頭を掴んでいたのと同じ紫色の手があった。


「一部だけ空間跳躍させたか」

「便利でしょ」


 手首から先だけをポーリッドのいる場所へと空間を繋げて移動させ、頭を掴んでスキルを使用した。


 力吸収(エナジードレイン)。体力や魔力、気力といった様々な力を吸収してしまうスキル。このスキルをトリオンは簡単に使いこなしていた。


「どうしてあの人を狙う?」


 距離だけなら今は俺の方が近い。それに治療が終わったポーリッドよりも攻撃しやすい相手は他にもいた。にもかかわらずポーリッドを執拗に狙っている。


「お兄さんが強いことは知っているからね。自分が勝てない相手に攻撃するなんて馬鹿な真似はしないよ」

「なに……?」


 たしかに戦っている姿は見せた。


「あ、ちがうよ。アタイはお兄さんに対する恐怖から生まれたんだ」

「それは、どういう……」

「ま、それはどうでもいいや。こっちは、あそこにいる歪んだお兄さんから力を貰うことができたからね」

「歪んだ……?」

「そうだよ。お兄さんたちを妬んだ気持ちがあるっていうのに、それを必死で隠しているんだもん。こんなご馳走を逃すわけにはいかないよね。もっとちょうだい」


 トリオンがポーリッドのいる方へと手を伸ばす。両腕の手首から先が消え、ポーリッドの傍に現れる。

 だが、そう何度も同じ手が通用するはずがない。


「む……」


 手の出現位置を瞬時に捉えたシルビアが先回りして短剣で攻撃している。


「じゃあ、こうだ!」


 現れた手が再び消え、シルビアの前に現れるとポーリッドへしたように頭を掴もうと進む。

 シルビアは眼前へ迫る手に対して体を反らして回避する。


「あらら」


 捕らえられると思っていたトリオンは手を再び消して空間跳躍させる。

 だが、手が新たに現れるよりも早くシルビアが出現場所へと視線を向け、何度も斬りつける。


「へぇ、すごいね」


 シルビアの攻撃そのものは、歪魔にもあった空間の歪みによって届かない。

 それでも攻撃されたことでシルビアへと手を伸ばすことができなかった。


「こっちを忘れるなよ」


 シルビアへの攻撃に集中して無防備な姿を晒しているトリオンへ斬り掛かる。

 返って来たのは煙でも斬ったかのような薄い感触のみ。


「……忘れてないよ」


 声のする方を見れば全く異なる場所にトリオンの姿があった。

 シルビアの視線が別の場所へ向けられる。今度はポーリッドの治療を再開したイリスの頭上にトリオンの右足が現れていた。

 エナジードレインの発動には触れている必要がある。それは肉体ならどこでもよく、手である必要性はない。


「いただき!」


 トリオンの足が頭上から迫る状況でもイリスは手を止めない。

 何故なら……


「――【断絶】」


 精神を研ぎ澄ますことによって、あらゆる物を切り裂くことのできる斬撃。

 残念ながら高位の魔法を扱うことのできないアイラでは空間の歪みを認識することができない。魔法が相手であろうと切り裂くことのできる最強の斬撃も認識することのできないものまで斬ることができない。

 だから、アイラは問答無用で切り裂くことを選択した。


「全部たたき斬る!」

「む、むちゃくちゃなっ……!」


 アイラの振り下ろした剣から伸びた斬撃が空間の歪みと共にトリオンの手を切り裂く。


「あぶないなぁ」

「へぇ」


 焦ったトリオンが全く別の場所に姿を現す。

 その移動先へアイラが視線を向けていた。


「む、どういうわけかわからないけど、アタイの移動先がわかるみたいだね」

「そりゃ、こんなに何度も見せられていればね」


 姿を現さない間に放っていた攻撃が忽然と現れていたのと原理は同じだ。空間を操作することによって離れた場所へと飛ばす。それを自分の体でも行っているだけだ。

 その空間移動を捉えることができれば移動先を察知することができる。


 まるで自分の功績みたいに言うアイラだったが、実際に捉えているのはシルビアだ。空間を移動する際の歪みを何度も見たことで事前に察知できることができるようになり、【迷宮同調】により繋がっているため感覚レベルでシルビアの捉えた場所を知ることができる。

 アイラもべつに功績を奪っているわけではなく、シルビアを狙われてしまうと不利になってしまうためアイラが囮を買って出ていた。


「むむっ、これは困ったかな」


 トリオンにとって空間を自由自在に移動できるのは有利な点だった。

 それが今のところは致命的にはなっていないが通用しない。そのうちトリオンも予想できない方法で打ち破られてしまうことは彼女も予想できたはずだ。


「お前が何者なのか、しっかりと教えてもらおうか」

「そんなこと言われてもアタイだってくわしいことは分からないよ」


 見た目通り子供なのは間違いない。

 それでも、空間に強い影響を与えられるスキルを持つ存在と、転移後に空間へ強い歪みを持つようになった都市。

 両者に何かしらの因果関係がある、と疑ってしまうのは仕方ないだろう。


「本当はもっと準備してから来たかったけど……さすがにお兄さんたちを相手にするのは早かったかな。そこにいる人たちを食べたいんだけど、邪魔するんじゃ仕方ないよね」


 トリオンの内側で魔力が練られる。

 何をするつもりなのか理解し、すぐさま斬り掛かる……が、剣先が触れたのは固い地面だけだった。


『バイバイ』


 どこからともなく聞こえてくる声。

 トリオンの姿が見えなかった時と同じような声。最初は出所が分からないせいで方向を捉えることもできないのだと思っていたが、これはスキルによって空間を歪められて送られている。

 声のした方向から自分の位置を悟らせない。


「無駄なことを」


 少なくとも、どこへ戻ったのかは分かる。


「ドードーの街があった場所へ戻ったのでしょうか?」

「少なくとも近くにトリオンの気配を感じない」


 周囲は何もない荒野。身を隠せるのは土壁の向こうぐらいで、さすがにあのような短時間で準備できる魔法では跳べる距離に限界はある。

 可能性としては空間が歪んでいるせいで気配を捉えにくいドードーの街があった場所。そこが最も可能性が高い。


「お前だって見ていただろ」

「はい」


 トリオン自身に気付いた様子はなかったが、体のいくつかの場所が朽ち始めていた。

 活動できる時間に限界がある。


 シルビアへ回復薬(ポーション)を渡しながら尋ねる。


「あいつを追うにしても面倒だぞ」


 歪んだ空間の中で活動することができるのは俺たちだけ。ただし、その活動範囲は俺を中心に10メートルが限界。戦闘をするには狭すぎる範囲だ。


「何か方法を考える必要があるな」

「その前にあいつって何者なの?」


 攻めるなら体調を万全にしておく必要がある。

 回復薬(ポーション)を渡してからアイラの質問について考えるが、その疑問の答えを出すには情報が少なすぎる。


「二人とも見ていなかったの?」


 そんな中、イリスは答えを見出していた。

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