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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第45章 消失都市
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第11話 歪魔―後―

 アイラが歪魔の動きを抑える為、攻撃していた頃……


「代わります」


 ミシュリナがポーリッドの治療をしていたイリスの交代を買って出た。

 彼女の後ろではクラウディアが止めたそうな顔をしながら出そうとしていた手を引っ込めていた。気味の悪い化け物が現れ、騎士であっても蹂躙されるような場所からは一刻も早く離れた方がいい。

 だが、ミシュリナはそんな事を全く気にしない。


「私は『聖女』です。なら傷付いた者を見捨てられるはずがありません」


 治療と浄化に特化した『聖女』。

 戦場へ駆り出されることもあり、負傷者の治療はミシュリナにとって珍しい事ではなかった。だが、それも安全が確保された戦場の後方での話。このような戦闘が繰り広げられている場所の近くでは滅多に行われない。


「いいの?」

「それは私の台詞です。貴女の力を必要としている仲間は別にいるのではないですか?」


 仲間は歪魔と必死に戦っている。ポーリッドの治療を優先させたのは、相手が騎士を率いる責任者で、失われた腕の再生は『聖女』でもできずイリスの【回帰】を求められていたからだった。

 腕の再生は既に終わった。

 ここからはミシュリナでもできるし、ポーリッドのいる場所に生きている負傷者が次々と運び込まれてくる。回復に特化している『聖女』にとって、この程度の人数を治療するのは造作もない。


「じゃあ、お願い」


 イリスが激しい戦闘が繰り広げられている場所へ近付く。


「【雹雨(ヘイルレイン)】」


 上空から雹が雨のように降る。歪魔のいる場所だけに狙いを定めて振らせるのは気を遣うが、空間の歪みに阻まれないよう当てるには狙いを定める必要があった。


「メリッサ、いつまで遊んでいるの?」

「そちらこそ【回帰】を使用して魔力は大丈夫なのですか?」

「問題ない。一撃で終わらせる」


 頑丈に強化された歪魔が相手では魔法で強化された雹程度ではダメージを与えることができていない。

 イリスの本当の狙いは、ダメージを与えることではなく冷気をばら撒くこと。歪魔に当たった雹は砕けると同時に冷気を発生させていた。


「【凍結棺(フリーズコフィン)】」


 歪魔が巨大な氷に閉じ込められて動けなくなる。

 強力な盾によって守られていた歪魔だったが、その盾と共に空間を凍らされてしまえば防ぎようがない。

 残りの2体は冷気不足で凍らせるには至らない。


「いえ、充分です」


 メリッサが飛び出す。

 残った2体の歪魔の動きが鈍くなっている。変質させられたが、強力な冷気を浴びせられた時にどうなるのか、そこまで考えが及んでいなかった為に人間だった頃の意識に引き摺られている。


「【輝光断絶(ブライトブレイク)】」


 メリッサの握る杖から溢れた光が刃を形成する。

 全長2メートルの刃を振るう。近くにいる方の歪魔にも届かない場所からの攻撃だったが、歪魔のいる方向へ刃が到達した瞬間に何十メートルにも一瞬だけ伸び、後ろにいた歪魔もまとめて両断する。

 光という実体のない刃による両断は、空間の歪みも越えて歪魔を両断することに成功した。


「そんな凄い魔法があるなら最初から使っていればいいじゃない」


 強い攻撃魔法を使えないアイラが無邪気に言う。


「無茶を言わないでください」


 光の刃が消え、杖だけとなっていたのに握る手は震えていた。

 凄まじい威力を発揮する魔法だが、斬った瞬間に使用者へ魔法の反動が襲い掛かるようになっている。そして、斬ろうとした対象が頑丈であればあるほど使用者への反動は大きくなる。

 メリッサの場合は剣となった杖を握る手への麻痺として現れていた。

 それに魔法そのものが高度であるため発動に集中を要していた。


「これで終わりならいいのですが……」


 両断された歪魔も起き上がる気配がなく、倒れた体も粒子となって消えようとしていた。無理な変質によって致命傷を受けた体では、肉体を維持することすらできなくなっていた。

 騎士たちも戦闘が終わったことを察して力を抜いている。


「いや、終わりみたいだ」


 マルスが仲間たちのいる方へと近付く。

 歪魔が倒されると同時にマルスへの攻撃も止み、自由に動くことができるようになっていた。



 ☆ ☆ ☆



「さて、どうする?」


 この場での戦闘は終わった。

 しかし、元凶を滅ぼさない限り同じことが繰り返される可能性が高い。


「やっぱり中に何かある……いや、いるんだろうな」


 視線を土壁のある方へと向ける。

 執拗なまでに俺を攻撃してきた相手。歪魔を生み出した存在がいるのは間違いなく、両者を結びつけるのは容易だった。


「まずは攻撃してきた奴を探すのが優先だろうな」

「先ほどは全く気配を感じませんでしたが……」

「それでも『何か』がいるのは間違いないんだ。今は攻撃も止めているみたいだけど、いるのは間違いないんだ」

「問題はこちらをどうするか、ですね」


 負傷者だらけの野営地。

 ミシュリナさんがいるから致命傷を負った者も最低限の回復はされている。止血だけされて倒れた者、殴られた際に折れた腕を押さえる者。先ほどのように護衛を頼めるほどの余裕があるようには見えない。


「大丈夫、です」


 そんな中、最も負傷したポーリッドが立ち上がる。怪我はイリスとミシュリナさんの手によって治療されている。ただし、体力までは元に戻っていないため万全とは言えない。


「国の要人を護るのは騎士の務め。元から冒険者である貴方たちに全面的に任せるつもりはありません。私たちの命に代えても護ってみせます」

「では、お任せします」


 正直言って不安がないわけではなかったが、内部の調査を再び行わないことにははじまらない。

 そうして背を向けて土壁へと向かう。俺たちの魔法で造り出した物なのだからバルトロのように苦戦することなく簡単に入口を造ることができる。


『あはっ』


 内部から歓喜に満ちた声が聞こえたような気がした。


「きゃぁっ!」


 だが、それは勘違いだった。


「……っ、おまえ!!」

「いいねぇ、いちばん美味しい時に収穫できたみたいだ」


 蹴られて吹き飛ばされたミシュリナさん。

 彼女のすぐ傍にいたはずのポーリッドは胸を貫く腕を見下ろしながら呆然としている。心臓を貫く一撃。一目で致命傷だと分かる。


「ごちそうさま」


 ポーリッドの後ろにはフードを深く被った小柄な少女としか思えない存在が立っていた。人間ではない。フードを貫く大きな2本の角が頭に生えており、下半身の後ろでは細い尻尾がゆらゆらと揺れて存在を主張している。


「もういらないや」


 子供がいらなくなった玩具を捨てるようにポーリッドの体を放り投げる。

 声だけじゃない。目の前にしたことで、気配だけで相手の正体が分かった。


「探す手間が省けた!」


 一気に少女の隣まで【跳躍】で移動する。

 少女の視線は正面に固定されたままで一瞬にして移動した俺に気付いていない。

 そのまま剣を抜くと、貫くべく突き出す。


「今はお兄さんたちに用はないんだけど……」


 突き出した剣は少女へ届く前に別の物を貫いたことで阻まれた。

 狙いは少女へ定めたままだった。それでも気付いた時には放り投げられたポーリッドの胸を剣で貫いていた。


「治療」


 剣を引き抜くと後ろへ投げる。

 すでに準備していたイリスの手によって致命傷が治される。短時間で何度も死の淵を行ったり来たりさせているが、騎士なのだから我慢してもらうしかない。


「私も手伝います」


 ミシュリナさんも一緒に治療してくれるなら大丈夫だろう。


「で、お前は誰だ?」


 俺の問いに対して少女が顔を上げ、笑みを浮かべる。


「さあ?」

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