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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第45章 消失都市
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第8話 歪みの修正

 シルビアが言っていた。


 ――歪んでいる。


 変化したバルトロを護るように展開されている空間の歪みもそうだが、バルトロ自身が歪んでいる。それも肉体ではなく、存在が歪んでいる。

 人間を相手に試したことはなかったが、相手が化け物となったのなら試す相手としてはちょうどいい。


 人間への【世界】の使用。

 変質した存在を元の状態へと戻す。

 幸いにして元の姿は知っているし、要領はイリスの【回帰】と同じだ。


「――戻れッッッ!」


 膨張していた肉が(しぼ)んでいき、人の姿へと戻って行く。

 防御の為に空間が歪まされているが、そんなものを気にすることなく歪みの向こう側にいるバルトロの姿を元に戻していく。


「それで、ここからどうする?」


 イリスが尋ねてくる。

 今は存在が変質しているおかげで動くことができるが、このまま完全に人間へ戻してしまうと時間停止の影響を受けて動かせなくなる。

 結局、バルトロを変質させた力との我慢比べになってしまう。


「もちろん方法は考えてある」


 そもそもバルトロの肉体が変質してしまったのは空間の異常に耐える力があったからに過ぎない。それを可能にしているのが首から提げられたネックレスだ。


「……悪いな」


 ネックレスに対して【世界】を使用し、宿っていた魔法効果の全てを打ち消してしまう。これで普通のネックレスと何も変わらなくなる。

 だが、これはバルトロの身を護ってくれる物が何もなくなることを意味する。


「ぐぅうっっ!?」


 苦しみに満ちた声と共にバルトロが捻じ曲がって消失する。

 その場にはバルトロの痕跡を示すような物は何も遺されていなかった。


「ランクアップは大事だったかもしれない。だけど、死んだら何も残らないだろ」


 本当に何も遺せなかったバルトロを思って時の停止した世界の中で響く。



 ☆ ☆ ☆



「だ、大丈夫ですか!?」


 元の場所へ戻るなりシルビアが俺の身を心配して体をペタペタと触ってくる。合流はできなかったがこちらの様子は見ていたため大怪我を負っていないことは理解している。

 それでも心配せずにはいられないほど危機に見えたようだ。


「俺は大丈夫だから。それよりもこっちでは何か変化はなかったか?」


 出掛ける前よりも騎士や兵士の数が多くなったような気がする。


「それについては私の方から説明します」


 空間の歪みのせいで戦闘の音や衝撃は伝わらなかった。それでもこちらに残ったシルビアたちがガタガタ騒ぎ出したせいで何かがあったことは、騎士たちに察せられてしまった。

 ミシュリナさんの護衛が任務であるポーリッドにとってシルビアが慌てるほどの事態で何もせず待っているわけにはいかなかった。


「そういうわけで信号弾を打ち上げて騎士を招集したわけです」

「俺はどちらでもいいですけどね」


 改めて注意をしておく必要があったためちょうどいい。

 ドードーの街があった場所を土壁で覆ったが、土壁に近付くだけでも危険だということがバルトロによって証明されてしまった。騎士たちも土壁に沿って巡回するようにしていたが、それも安全ではないと伝える必要がある。


 そして最も重要なのが危険な空間が拡大している事だ。


「で、では……このまま放置していたらどうなるんだ?」

「それは……」


 答えることができなかった。

 いずれは拡張に限界が訪れて止まってくれればいいが、際限なく拡大を続ければ周囲にある全ての物を潰してしまうことになる。


 バルトロや彼の仲間が消えた瞬間を騎士たちに幻影で見せる。


「これは……!」

「ひどい……」

「……っ」


 目の前の光景に誰もが辛い思いをし、息を飲み込んだ。

 こんなことを繰り返してはならない。


「……どうすればいい?」

「今の範囲を確認する方法は簡単です」


 何かを投げ込めばいい。もし、投げた物が消えることになれば、その場所から向こうの空間が歪んでいることになる。


「地図に間違いはありませんね」


 魔法で空中に周辺の地図を映す。

 北に一つだけ小さな村があるものの、次に近い都市はメルストだった。


「村には避難勧告を出した方がいいかもしれませんね。空間の歪みがどれだけの速さで進んでいくのか分からないですし、人命優先で救助した方がいいでしょう」

「あ、ああ……!」


 状況を把握できていないものの危険が迫っていることだけは理解できた。

 村人は目に見えた危機がないから不審には思うものの騎士からの勧告となれば従わざるを得ない。


「問題はメルストだな」


 ポーリッドの表情は深刻だ。

 村に住んでいる人間は多くても100人ほどだ。

 だが、メルストでは数千人が生活し、多くの人が都市を訪れて交易で賑わっている。


「あの街にいる人を避難させるなんて不可能だ……」


 ポーリッドの目が俺へ向けられる。

 何も答えを返さないでいると足元にあった石を拾って土壁の方へと投げる。すると、土壁よりも手前で歪んで消えてしまった。

 土壁は無事なまま残っているのに、土壁より手前の空間が歪んでいる。


「こんなの、どうしろっていうんだ!」


 空間の歪みなど騎士であってもどうしようもない。


「マルス、どうするのよ」

「どうするって言われても……」


 方法なら思い付いている。ただし、もう少し情報を必要としていた。


「……仕方ありませんね。俺が引き受けたのは調査依頼だったんですけど、問題の解決までしないといけないみたいです」

「協力、していただけるのですか?」

「このまま放置するわけにはいきませんからね」


 事態を解決しなければ、最悪の場合にはイシュガリア公国が……いや、世界そのものが消滅してしまうかもしれない。

 いずれは関わらなくてはならないなら手に負える早期から積極的に関わっていくべきだ。


「とりあえず、もう一度中へ入ってみる必要があります」

「頼める、だろうか」


 苦虫を噛み潰したような表情。

 きっと俺に頼ることしかない現状が騎士として悔しくて仕方ないのだろう。


「ええ、どうにか原因を見つけて――」


 剣を抜いて土壁のある方に向かって斬撃を放つ。

 俺に向かって飛んできた何かを消滅させることには成功した。シルビアたちも土壁を越えて来た段階で何か――エネルギーを圧縮して生成した球体の存在には気付いて迎撃するべく構えていた。


「ぇ――」


 だが、それは今まで察知したことのないエネルギー。一定の距離に接近されるまで察知することができなかった。

 そして、俺へ放たれた力に意識が向けられたばかりに、同時に放たれたもう一つの攻撃に気付くのが遅れてしまった。


「ポーリッドさん!」


 ポーリッドの左肘を中心に消失していた。左手首から先は地面に落ちており、無理矢理消されたせいで消失部分からは血が大量に流れ出ていた。


「イリス!」

「分かっている!」


 彼には責任者として死んでもらっては困る。


『外したかい。いや、隣にいた美味そうな奴は苦しんでいるみたいだね。いいよ、最高のご馳走だよ』

「今のは……」


 土壁の向こう側から聞こえてくる不気味な声。

 幼い少女のような雰囲気だが、その声には醜悪な感覚が込められている。


『じゃあ、こんな方法はどうだい?』

「下がってください」


 メリッサが俺たちに下がるよう言う。【空間魔法】を扱うことができるメリッサは空間の異常を感知することができる。


「新たに目の前の空間が歪みました」


 誰もいない場所が歪められた。

 肉眼では何も変化がないように見える空間。そこに人が空中にドサッと放り出されて、着地する。


「ノト、シャル――それにゲインとボロスまで!」


 現れたのは男性騎士が3人に、女性騎士が一人。

 合流する前に姿が見えなくなった男女の騎士に、信号弾を打っても合流しなかった二人の騎士だった。

 4人とも無事なようには見えるが、似たような存在を見たばかりなため分かる。


「待ってください」

「なんだよ!」

「彼らは、もう……」


 行方不明だった騎士を見つけて駆け寄ろうとした騎士の肩に手を置いて止める。

 次の瞬間、現れた4人の騎士が肉体を変貌させる。

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[一言] これ、なんで土壁は無事なんだろう??
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