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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第45章 消失都市
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第6話 自動発動する【世界】

 握ったハンマーの柄から手を放す。


「どういうつもりだ?」


 ハンマーを手にした男が訝しんで俺を見る。


「べつにあんたたちと対立するつもりはない。この街には関わらないようにしてくれないか?」


 おそらく彼らはメルストの冒険者ギルドで雇われた冒険者だろう。彼らも冒険者として依頼を受け、何も成果が得られないままでは帰れないため街への突入を決心したのだろう。

 そんなことを許すわけにはいかない。だが、彼らの存在は俺たちにとっても役に立ってくれる。


「帰ってドードーの現状を正しく伝えてくれ」


 俺から伝えても完全には信用されない。だが、以前からの顔馴染である彼らの話なら信用もしてもらえるだろう。

 原因調査。依頼は失敗に終わってしまうが、危険性を伝える役割は担ってくれるはずだ。


「悪いが、それは承諾しかねる」


 ハンマーを手にした男ではなく、後ろにいた男が言う。


『バルトロ――Bランク冒険者で、このパーティのリーダー』

『知っているのか?』

『有名っていうわけじゃない。けど、この辺りだとギルドから信用される程度には信用されている冒険者』


 名前の分からない相手だったが、後ろに控えるイリスが念話で教えてくれる。

 メルストへ立ち寄った際、イリスにはドードーの街周辺で活動する冒険者について調べてもらっていた。


「そっちも調査の依頼を受けているんだろうが、ここは本当に危険なんだ。関わらずに帰った方がそっちの為になると思うんだけど」

「お前たちみたいに強い奴には俺の気持ちなんて分からないだろうけど、こっちはランクアップが懸かっているんだ。簡単に引き下がるわけにはいかないんだ」

「そうか」


 バルトロと問答している間に、ハンマーを手にした男が自らの武器を土壁に叩き付ける。


「なっ……!」


 先ほど以上の力での攻撃。

 当然壊れるものだと思っていただけに亀裂すら入れられなかったことには驚愕せずにはいられなかった。


「お前の仕業か!」

「ああ、そうだよ」


 魔法で造られた土壁。これだけ近くに居れば一部分だけを強化して耐久力を上げることもできる。これで彼らの攻撃で壊されることはない。


「きさま、邪魔するのか!?」

「……これでも善意で助けてあげているんだけどな」


 これまでの事を考えるとドードーの街への接近そのものが危険な可能性がある。彼らの為にも遠ざけるのが最も安全な方法だった。


「俺たちはここを調べる必要があるんだよ!」

「だから……っ!?」


 背筋が凍るような感覚を覚える。

 同時にスキルが自動に発動していたことに気付いた。


「【世界】が、勝手に……?」


 スキルの中には常時発動しているもの、条件を満たした時に自動で発動するものがある。

 俺の【世界】は常時発動するようなものではない。今は条件を満たしたためにスキルが自動で発動した。


「世界が歪んでいる」


 俺とイリスは【世界】によって守られている。

 だが、守られていない者への結果は即座に現れた。


「い゛……」

「な、ん……」

「は……」

「……」


 バルトロ以外の4人の姿が一瞬にして消えてしまう。彼ら4人は腕や足、胸といった体の一部を中心にグニャリと歪んだように消えてしまった。痛みがあったのかどうか分からない。それほど一瞬にして消えてしまった。


 問題はバルトロだ。


「がっ、あぁぁ……!」


 バルトロの体が左肩と右肘、左腰の3箇所を起点に捻じれていた。頭部と右足は原型を留めていたが、もはや異形と化している。


「どうして、あいつだけ……」


 俺たちが無事なのは【世界】があるから。

 他の者と同様に消えてしまうなら納得できた。


「アレを見て」


 イリスが指差したバルトロの胸元を見る。そこには強い光を放つネックレスが提げられていた。


「なるほど。あのネックレスがバルトロを守っているのか」


 迷宮から出土した物にしか使えないはずの【迷宮魔法:鑑定(アナライズ)】が使用できた。近くに迷宮を抱えるドードーの街があるのだから迷宮から得られた貴重な魔法道具が出回っていてもおかしくない。

 強い魔法効果から身を護ってくれる魔法道具。忽然と姿を消してしまうことからバルトロは魔法や魔法に近い減少を疑った。


 少しでも身を護りたい。

 その想いから魔法道具を手に入れていた。


「仲間の分も手に入れていれば感心したんだけどな」

「さすがにあのレベルの魔法道具をいくつも用意するのは普通の冒険者には無理」


 自分の分を購入するだけで精一杯だったのだろう。

 結果、渡せなかった仲間は一瞬にして消えてしまった。


 だが、バルトロの現状を思えば持っていなかった方がよかったのかもしれない。


「Aランク相当の魔法道具でも防げなかったのか」


 魔法道具では起こっている異常を完全に防ぐことはできず、いくつかの場所で空間の歪曲が発生し、ギリギリのところで耐えるのが限界だった。そして魔法道具そのものの限界が訪れれば、この状態も終わりを迎えることとなる。


「た、たすけ……助けてくれ」


 必死に声を絞り出していた。

 どうにか動き出したいところだが、空間を捻じられてしまっているせいで身動きすることすらできない。手を伸ばして助けを求めたくても、前へ出すことができない。できるのは言葉と目で訴えるぐらい。


「だから言ったんだ」


 こんな事態になるなど全く想定していなかった。それでも何か異常事態が起きる可能性はあり、最も簡単な方法で安全を確保する為に近付けないようにしていた。その言葉を無視して接近したのはバルトロだ。

 助ける義理はない。だが、このまま見殺しにするのも気分が悪かった。


「ちょっと待っていろ」


 手を向けて【世界】をバルトロへ使用する。

 【世界】は、俺と俺の眷属以外へ使用した場合には対象の時間を止めることになる。そうして時間が停止している間にバルトロを安全な場所へ移動させる。


「な、に……?」


 だがスキルを発動させた瞬間、これまでに感じたことがないような感覚が手へと返ってきた。

 同時にバルトロに異変が起きる。


「ぁ……」


 歪曲が起こっていた場所でバルトロの体が捻じ切られた。


「まだ魔法道具の耐久力は残っていたはず」


 咄嗟にイリスの方を向くと教えてくれた。

 最低でも1分は耐えられると判断していたから、冷静にスキルを使用することができていた。

 直前の出来事を考えれば、原因と結果が繋がる。


「時間の停止ができない……?」


 捻じ切られて吹き飛んでいた左右の腕がバルトロの背中へ落ちて来る。

 左足も失っていたが、空間の歪みが未だに続いているせいで立ったまま固定されている。

 見えないなにかによって磔にされたバルトロ。

 もう絶命する直前の姿を見ていると……


「ぶっ……ぅ!!」


 千切れた場所から噴き出す血のように真っ赤な肉がバルトロの体から膨張する。

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