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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第45章 消失都市
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第4話 残された穴

 都市があった場所へと近付く。


「おっ」


 目の前まで迫ったところで意図せずスキルが発動する。

 事象を改変することのできる【世界】。

 自動で発動したことによって周囲から色が抜けたように薄くなってしまう。


「失礼」


 後ろから聞こえたメリッサの声。

 振り向いている間にノエルとシルビアが前に立ち、アイラとイリスが左右に立って周囲への警戒を強める。


「確認ですが、【世界】が適用されているのは色が薄くなったように見える範囲だけですか?」

「そうみたいだ。無意識のうちに維持を続けるのに適切なように発動させているらしい」


 半径10メートル。この程度の広さに6人もの人間がいれば窮屈な思いはしなくても、戦闘は不可能だ。

「どのみち調査が目的だ。派手に動き回るつもりはないけど、その範囲から出るなよ」

「もちろん分かっています」


 その為の陣形は眷属の間でいつの間にか打ち合わせされていた。

 ドードーの街に起こった異常を感知することのできるノエルが前に立ち、シルビアが隣で物理的な異変がないのか探る。襲撃があった際にはアイラとイリスが耐えられるよう俺の左右に立っている。

 最も重要なのが中心にいる俺だ。倒されないことも重要だが、それ以上に全員の中心に居続けるのが重要だ。


「絶対に中心から離れることがないようにお願いします」

「迷宮の先みたいに動けなくなるのか」


 この陣形そのものは迷宮の最下層の先にある世界と同じだ。アイラとノエルの位置が微妙に違うものの些細な差だ。


「あそこは私たちでも動けなくなるだけで済みましたが、ここではそういうわけにはいきません」


 魔法で生み出した岩をメリッサがアイラへと投げ渡す。

 両手で抱えなければならないほどの大きさがある岩。それをアイラが軽々と【世界】の範囲外まで投げ飛ばす。

 だが、結界から出た瞬間に岩が歪んで消えてしまう。


「今の、おかしくなかったか?」


 強烈な力が加えられたことで砕けたわけでも、鋭い力によって斬られたわけでもない。

 グニャリ、と歪んで――消えた。

 明らかに異常な光景だ。


「お前たちの目には、今のをやった力が見えているのか?」


 俺の問いにノエルとメリッサが頷く。

 二人ともスキルにとって特殊な見え方ができる。目で見ているわけではなく、感覚で捉えることができる。


 ノエルの目には重苦しく、結界の外が暗く見えており、岩が近付いた瞬間に濃さが一気に増して塗り潰されてしまった。

 メリッサの目には倒れた柱のような物がいくつもあり、岩の接近を察知した瞬間に近くの柱が襲い掛かるように飛んできた。


 他の者には少しばかり薄暗くなったようにしか見えない世界だが、二人には異なる見え方がしている。


「俺たちが無事なのは、【世界】で守られているからなんだな」

「はい。私たちなら多少は耐えられるとは思いますが……」

「少なくとも単独行動する気にはなれないかな」


 アイラが腰に刺した剣へ無意識のうちに手を添えていた。

 イリスも周囲を警戒する目を鋭くしている。


「全員で固まって行動するのはいいとして、これからどこを目指す?」


 街があった場所には何も残されていない。

 地面が窪んでいるのは、迷宮の最下層の向こう側へ移動したドードーの街に石畳や地面がそのまま移動したため、こちらにあった地面が消失してしまったせいだろう。

 この場所には何も残されていない。


「いいえ、一つだけ残されている物があります」


 シルビアが離れた場所を指差す。

 メリッサとノエルには異様に変質した街の光景を捉えることができる。だからこそ肉眼で捉えることのできる単純な物を見逃してしまった。


「あれは……穴?」


 街の中心に近い西側の場所に大きな穴が開いていた。

 距離があることと、穴と同じ高さであるために見にくいが人を飲み込むような巨大な穴がそこにはあった。


「どうやら残されたのは、あそこだけのようです」

「なら、あそこを目指してみるしかないな」


 近くで見なくても穴が何なのか分かる。


「やっぱり……」


 近付いて見えたのは大きな縦穴。穴の内径に沿うように下層へ降りるための螺旋階段状の通路が続いている。


「ここの迷宮はけっこう深い地下にあるんだな」


 残されていたのは迷宮の入口。この縦穴も迷宮の一部らしく、転移させられることなく残ることになっていた。

 迷宮はそのまま残っていた。


「他に手掛かりになりそうな物……何か残っている物はないか?」


 何事もないなら全員で分かれて探索したいところだが、ここではそういうわけにもいかない。できるのは、この場で周囲を見渡して残された物がないか探すことぐらいだ。

 自分で探すだけでなく、眷属にも確認するが返事は非情なものだった。


「そうか」


 残された物は何もない。

 なら、新たに生まれた異常はなんだというのか?


「どうやって転移させたのか定かではありませんが、今も転移させる力が働いているように思えます。この場へ赴いて行方不明になった人たちは、もしかしたら向こう側へと転移させられてしまったのかもしれません」

「そうだとしたら連れ戻すのは不可能だぞ」


 転移したドードーの街への干渉そのものをゼオンは嫌っているようだった。

 向こう側の調査など今は考えられない。


「イシュガリア公国へは空間に異常が起こっていて、行方不明者はどこかへと転移させられたことにしましょう」


 もちろんミシュリナさんへは正確な情報を渡す。


「それで大丈夫か?」

「おそらく大丈夫だと思います。ノエルさんは特別だとして、国に仕えるような魔法使いでもドードーの街に何があったのか知ることはありませんでした」


 何人かは危険を感じ取って近付かずに退散した。

 しかし、国からの命令を受けているにもかかわらず何も分からない状況に業を煮やした者がいた。その者の仲間は危険を感じ取っていたため近付こうとする仲間を止めようとしたが、仲間の制止も聞かずに街へ近付いてしまい……少し目を離していた間に行方が分からなくなってしまった。

 一流の魔法使いの中でも異常を感知することができるのは、ほんの一握りでしかなく、彼らも正確なところを把握することはできなかった。


「残念ながら異常の原因は私にも分かりません。そして、対策も現状では思いつきません」

「ちょっと待て! なら、俺たちは何をしにイシュガリア公国まで来たんだよ」

「……観光?」


 そういうわけにはいかない。今も不安に苛まれている周辺領主の為にも何かしらの対策を打つ必要がある。


「せめて人が近付けないよう囲ってしまうことにしよう。それに原因不明のままにしておいて依頼完遂とは言えない」

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