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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第45章 消失都市
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第3話 消えた街

 ドードーとメルスト。

 二つの街はそれほど離れておらず、冒険者の足なら数時間程度で辿り着くことができ、何もない平原に作られたドードーは以前なら早々に見つけることができる。

 しかし、とっくに見えていてもおかしくない距離まで近付いているにもかかわらず街の姿を見ることができない。


「どうした?」


 気になって後ろを見ればメリッサとノエルの二人が足を止めていた。

 二人とも僅かにだが体を震わせており、正面を見つめたまま視線を固定させていた。


 正面――ドードーがあった方向だ。


「見えていないのですか?」


 メリッサの言葉に正面を見る。

 だが、俺には平原が広がるばかりで異変らしい異変を見つけることができない。強いて言うなら……


「街があった場所に街がなくなったことか?」


 事前に街が光と共に消えたことは知っている。

 さらに消えた街が転移しただけではあるものの、どうにもならない状態であることも知っている。

 知らないのは、転移したこちら側の状態だ。


「見るんじゃなくて観るの」

「そう言われても……」


 ノエルに言われて目を凝らしてみるが、何も感じ取ることはできない。

 アイラやイリスも同じように視線を向け、シルビアも何かを探ろうとしているが困惑しているところを見るに物理的な問題ではないのだろう。


「どうやらノエルさんには観えているようですね」

「うん。ほとんど勘みたいなものだけどね」


 メリッサが頭上に手を掲げ、火球を魔法で生み出す。手に収まるほどの大きさしかない火球。

 軽く手首を振ると火球が真っ直ぐ飛ぶ。

 数秒後、突如として火球が消えてしまう。


「消えた……?」


 メリッサなら数キロ先であろうと届く火球を生み出すことができる。

 意図的に消したのでないなら、何もないように見えても何かによって阻まれた可能性がある。


「障壁でもあるのか?」

「そんな単純な物ではありません。私にはもっと厄介な物があるように感じられます」


 ノエルも同意見らしく頷いている。


「どうすればいい?」

「少なくとも火球が消えた場所よりも先へ生身で進むのは危険です。常に【世界】を展開させてください。私たちも【世界】の領域から出なければ安全なはずです」

「そんなことでいいのか?」


 強化されたことで【世界】の負担も少なくなった。維持し続けるのも今は不可能ではない。俺にとってはスキルを発動させるだけだ。


「【世界】のように特殊なスキルを所持している必要があります。それに対応できる者が近くにいなければ一人で向かうことになります」


 最初から分かっていたことだが、ドードーの街があった場所の近くは危険地帯と化している。

 そんな場所へミシュリナさんたちを連れて行くわけにはいかない。

 当初は『聖女』として状況を見て意見を述べてもらおうと思っていた。危険だとしても誰かが側についていれば守り切れると思っていた。

 しかし、接近そのものが許されない空間では守るのも不可能だ。


「私の事は気にしないでください。こちらで待っています」

「そうは言っても……」


 何もない平原。

 近くに魔物の気配は感じられないが、何が起こるのか予想できない。そんな場所に置いていくわけにはいかない。


 誰かを置いていくべきか。

 ただ、俺たちが向かおうとしている場所が危険地帯で、何があるのか分からないのも事実だ。


「それには及びません」


 ミシュリナさんが杖で地面を叩く。すると杖の先端にある宝石から光の球が上空へと打ち上げられ、破裂すると強い光を放つ。

 簡単な【光魔法】で、強い光を発することができる。

 攻撃力のない魔法だが、たしかに効果はあった。


「誰か来るわよ」


 遠方から接近してくる騎馬の集団を見てアイラが警戒心を強める。


「いや、大丈夫だろ」


 近付いてくる馬に乗っているのは鎧を着た騎士。鎧にはイシュガリア公国の紋章もあり、状況からミシュリナさんと合流することを目的にした集団だと思われる。

 騎馬隊は俺たち……ミシュリナさんの前まで辿り着くと馬から降りて膝をつく。


「ポーリッド隊、馳せ参じました」

「ご苦労様です。急な呼び出しにもかかわらず駆け付けてくれて助かりました」

「はっ」

「早速ですが、何か変わった事はありませんでしたか?」


 彼らの役割はドードーの街の封鎖。何があるのか分からず、調査へ向かわせた魔法使いも悉く消息を絶ってしまった。不用意な干渉はさらなる危険を呼び寄せる可能性がある。

 国は手っ取り早く封鎖することを決定した。


「我々が封鎖した3日前から近付く者はいません。ですが、封鎖する範囲に対して人数が少ないため絶対とは言えません」


 数千人が暮らせる規模の都市を封鎖するのに対して、封鎖に動員された騎士は約30人。他にも100名以上の兵士が動員され持ち場で待機させられているらしいが、完全な封鎖には人数が足りていない。


「それは仕方ありません」

「ただ……」

「何か気付いたことでも?」


 ポーリッドの視線が俺たちに向けられる。

 『聖女』と騎士。イシュガリア公国に仕える者だけなら問題ないが、部外者の冒険者には聞かれたくない。


「彼らなら問題ありません。貴方も彼らについては知っているでしょう。少なくとも私が友好関係を築けていられる間は害になるようなことはありません」


 迷った末に俺たちの関与を受け入れた。


「まずは報告させていただきます。騎士のリックスとオスカーの姿が見えなくなりました」


 二人の騎士。共にポーリッドの部下で、ツーマンセルで警戒に当たっていた。


「ミシュリナ様の言葉があったため消えた都市へは近付いておりません」

「それでも行方が分からなくなった、と言うのですね」

「はい」


 騎士が消えた。

 忠告を無視して都市へ近付いた可能性は低い。


「こちらが想定していた範囲の外は安全、とは限らないのかもしれません」


 警戒なら都市が消失した、という事実だけで先に派遣された魔法使いが十分に警戒していた。だが、それでも行方が分からなくなってしまった。


「いいでしょう。十分に安全な距離を保って警戒することにしましょう」

「それから関係あるのか分かりませんが、もう一つ報告することがあります」


 誰かに見られている。

 そんな感覚を覚えて警戒する範囲を広めていたが、見ている相手を見つけることはできなかった。


「それは仕方ないかもしれません」

「……どういうことだ」


 ポーリッドの言葉に苛立ちが含まれる。

 相手を怒らせてしまうことを承知でアドバイスしなければならないため、怒らせてしまうことを承知で告げなければならない。


「相手は冒険者です。それも調査が得意な高ランクの冒険者が本気で隠れたなら見つけるのは至難です」

「我々が冒険者に劣るというのか!?」

「そういうわけではありません。単純に得手不得手の問題です」


 AランクもしくはBランクの冒険者。真っ向から騎士と衝突したのなら騎士が勝つだろうが、奇襲も許された姿を隠した状態でなら冒険者の勝利する確率の方が高い。得意とする分野の違いだ。


「それからあなたたちの感覚は間違っていません」

「なに……?」

「では、調査へは俺たちが乗り出すことにします。警戒はそちらにお任せしましたよ」


 ポーリッドたちに周囲の警戒とミシュリナさんの護衛を任せ、ドードーの街があった場所へと近付く。

 都市は消えた。それでもドードーの街がどこにあったのか、その痕跡はしっかりと遺されていた。


「あそこだな」

「私も来たのは数年前だから自信はないし、何も残っていないような状況じゃあ判断はできない。それでも痕跡はしっかりと遺されている」


 以前に来たことのあるイリスに確認してみたが、断言してもらうことはできなかった。

 それでも間違いはないだろう。

 前方20メートルから先の地面が円状に窪んでいる。深さは2メートル程度で大したことはないが、都市を覆うほどの広さは異様だ。

 そこには本来ならドードーの街が存在していたはずだ。

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