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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第45章 消失都市
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第2話 メルスト

 イシュガリア公国の東にある都市――メルスト。

 東部の中でも比較的大きな都市で、様々な場所へと続く道があり、中継地になっていた。

 商人が集まり、彼らを護衛する冒険者も多く見られる。


 依頼を出す冒険者ギルドは今日も賑わっている。


「なるほど」


 依頼票が貼り出された掲示板を見て納得した。


「何が分かったの?」


 隣にはアイラが護衛としている。

 だが、彼女が守るのは俺だけではない。


「私には分かりませんね」


 アイラの反対側にはミシュリナさんがいる。

 今のミシュリナさんは普段の目立つ白い法衣ではなく、地方のどこかにある教会にいるシスターが着る地味な法衣を纏い、眼鏡を掛けて変装をしている。

 ただの眼鏡ではない。掛けた者への認識を阻害する効果を持った魔法道具で、ミシュリナさんだと認識できないようになっている。もっとも、事前に対象とした相手へは効果がなく、一定以上の強さを持った相手には通用しない。だが、多くの人は騙せるため問題にはなっていない。

 ミシュリナさんの一歩後ろではクラウディアさんも従者のように控えている。ミシュリナさんが高貴な身分だと分かるような態度は止めてほしいところだが、同じように認識阻害の眼鏡を掛け、地味な法衣も纏っていることで部下のように見られているはずだ。

 そして、冒険者だと分かる俺とアイラは二人の護衛。


「いえ、掲示板に貼られている依頼票を見ていたんですけど、どうにも今回の問題があったドードーの街がある方向への依頼がないんですよ」

「それはそうですよ。事態を重く見て国からドードーの街へは赴かないよう要請してあります」


 ドードーの街は迷宮を効率的に攻略できるようになったおかげで繁栄しており、商機を見出した多くの商人が訪れ、彼らを護衛する依頼がいくつもあった。

 また、最も近い都市であることからメルストには迷宮で得られる素材を手に入れてほしい、といった依頼で溢れていた。

 だが、そういった依頼が国からの要請があったために全て受理されていない。


「新たに受け付けていないんだから依頼票が貼り出されていないのは仕方ない。だけど、意図したように常時依頼まで剥がされている」


 冒険者への依頼にもいくつかの種類が存在している。

 中でも都市近辺で定期的に姿が見られる魔物を討伐することを目的にした依頼が常に掲示板へ貼り出されることがある。


 街道の安全確保を目的とした依頼。

 持ち帰った素材は値崩れすることなく、相場よりも少しばかり高めの金額で取引される。

 メルストとドードーの間では、スライムと植物型の魔物が定期的に出没して商人を襲っていたため両方の都市にある冒険者ギルドには双方の討伐依頼票が常に貼り出されていた。

 だが、今はどちらの依頼票もない。


「それに他の魔物に関する被害報告がない」


 凶暴な魔物が出現した際には情報を共有できるよう掲示板に張り出される。

 しかし、今はドードーの街で緊急事態が起きた事を知らせる張り紙すらされていない。


「再確認ですけど、国から派遣されてきた人たちはこの街を拠点にして、ドードーの街があった場所の近くで調査をしているんですよね」

「そのように聞いています」


 現在、ドードーの街は近付くだけで行方不明となってしまう。

 そのため派遣された軍の役割は何か変化があった際に対応できるよう待機していることと監視だった。


 それが3日前からの状態。

 ドードーの街で異変が起こったのは10日前。異変に気付いた冒険者ギルドの対応は早かったが、気付くのに遅れた国は情報が広がるのを恐れて封鎖することを決定した。


「この近辺は冒険者に村が依頼を出さなければならないほど魔物の多い場所みたいですね」


 普段は危険な状態に陥ることはない。しかし、長期間放置されてしまうと魔物が溢れてしまい、人のいる村や街を襲うようになる。

 そんな事態を今の状況で放置することができるはずがない。


「以前はドードーの街にも多くの冒険者がいて、彼らを支える人々で溢れていました」


 魔物に襲われるリスクは分散されていた。

 だが、そんな状況がドードーの街の消滅によってなくなってしまった。


「今の状態で魔物が溢れたらメルストへ直行することになります」


 メルストの冒険者ギルドはシビアになっていた。

 だから、救援依頼を出してまで冒険者を集めた。


「このギルドには人が多すぎます」


 高い金を出してまで多くの冒険者を集めていた。

 早急にドードーの街が消えた理由を知らなければならない。そうでなければ何の対策も採ることができない。


「ところが国の命令によって調査へ向かうことすらできなくなった。こんな状況を黙って見ていられるはずがありません」

「つまり?」

「誰かが秘密裏に派遣されている可能性があります」

「そんな……ドードーの街へ近付かないようにしているのは国の命令ですよ」

「国からの命令だったとしても納得できなければ、そして自分たちの身を危険にする選択のように思えたなら自分たちの意思で行動を起こすことにしますよ」


 何が起こっているのか国ですら正確な情報を把握することができていない。

 そのためメルストへは目的のみが告げられていた。


「さて、どれだけの戦力が派遣されているのか教えてほしいところですね」

「教えてくれるでしょうか?」

「いえ、教えてはくれないでしょうね」


 依頼を受けた冒険者の情報はギルドにとって機密事項も同然だ。冒険者ギルドが簡単に教えてくれるはずがない。

 念の為、受付へと向かう。


「いらっしゃいませ、初めての方ですね」

「ええ、依頼は国に仕える重要人物から受けました」


 依頼人が『聖女』であるため嘘は言っていない。


「目的地はドードーの街です。向こうの情報を集めているんですけど、何か変わったことはありませんでしたか?」


 尋ねながら冒険者カードをカウンターに置く。

 Aランクの冒険者カード。最高位であるSランクは国に仕えているため滅多に出会うことはない。そのためAランクでも十分に効果がある。現に冒険者カードのランクを確認した受付嬢の表情が引き攣っていた。


「現在あの街へ向かうのは許可できません」

「どうしてですか?」

「国からそのような命令が出ているからです」

「こっちは国から依頼を受けているんですよ」

「それでもです。情報開示を要求するなら国からの命令書が必要ですし、許可を得ていない人が向かうのを許可するわけにはいきません」


 受付嬢が強い眼差しを向けてくる。

 彼女も目の前にいる男が自分より強いことは理解している。それでもプロとしての矜持が特別扱いを認めない。


「では、他に冒険者が向かっている、なんていうこともないんですね」

「はい。こちらも調査に人を派遣する準備を進めていたというのに困った話です」


 事態を重く見た国によってドードーの街へ近付かないよう厳命されている。


「ま、こちらは依頼を引き受けている身です。ドードーの街へは向かわせてもらいますよ」

「……」


 受付嬢は何も言えなくなってしまう。

 国からの命令によって冒険者ギルドは冒険者がドードーの街へ近付かないようにしている。もし冒険者ギルドの言葉を無視して近付いた場合には重い罰則が与えられることになっている。冒険者も罰則を恐れて従っている。

 しかし、ギルドが処罰できるのは自分たちの街を拠点に活動している冒険者だけだ。俺たちのように依頼の途中で他所の街から訪れた冒険者まで罰則することはできない。

 法律のようなルールに違反したのなら冒険者を差し向けることもできただろうが、途中の街にあるギルドの命令に従わなかったぐらいでそのようなことになることはない。


「……はい。向かうだけなら止めることはできません。ですが、おすすめもできません」


 俺たちの身を心配して教えてくれるが、これまでにドードーの街の調査に乗り出した冒険者が20人以上いる。

 しかし、その冒険者は誰も帰ってくることができなかった。

 それ以上の情報は開示するつもりがないようだ。


「分かりました。あとはこっちの方で動くことにします」


 カウンターを離れる。

 冒険者ギルドで得られそうな情報は得られた。


「私の名前を使ってもよかったんですよ」


 今回の依頼は『聖女』からの個人的な依頼。

 国からの正式な依頼でないため冒険者ギルドに見せられるような依頼書は用意することができなかった。

 それでも『聖女』であるミシュリナさんが姿を見せることで公な依頼だと納得させるぐらいはできたはずだ。


「いや、いい。切り札は温存しておくべきです」

「聞きたいことは聞けたんですか?」

「はい。ドードーの街には何組かのパーティがいるでしょう」

「え、でもさっきは……」

「あんなのは建前ですよ」


 国からの命令があるために調査へ冒険者を派遣することはできない。

 だから、冒険者ギルドは冒険者へギルドを介さずに情報を独自に集める為に依頼を出すことにした。


「え、そんなことをしたら……」

「あまり褒められた手段ではありませんね」


 ギルドの記録には残らない。おまけに個人同士で依頼を受け、失敗した時や交渉時には揉めない為に存在しているギルドとしては違法な事を行っている。


「それでも彼らとしては情報を得る必要があったんでしょう」

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