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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第44章 世界解放
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第26話 石の世界-前-

 その魔物は、生まれた時は弱い魔物だった。

 生まれた場所は自分よりも強い魔物が多く、自分は捕食される側だった。

 魔力が溜まった淀みから生まれた魔物に親はなく、生まれたばかりである自分を守ってくれる存在はいない。



 ――腹が減った。



 生まれたばかりでも……生まれたばかりだからこそ、腹に何もないから空腹を覚えてしまった。

 しかし、生まれた森に自分が勝てるような存在はいない。

 それでも空腹という本能には勝てず、自分でも勝てそうな相手を探してしまう。



 ――いた。



 魔物が見つけたのは、小さな鼠の魔物。

 生まれた時から体は大きい方で、小さな鼠と比べたなら魔物の方が大きかった。本能なのか締め上げることができれば仕留めることが分かり、気配を殺しながら小鼠へと近付く。



 ――!?



 ほんの少しの間、目を離した隙に見失ってしまった。

 直後、後頭部に走る激痛。

 生まれたばかりの魔物は知らなかったが、相手は小さな鼠だが素早く鈍重な獲物にだけ狙いを定めて十数年も生きていた魔物だった。


 魔物が痛みに耐えながら頭を動かして後頭部にいる小鼠を睨み付ける。

 睨みつけられた小鼠だったが、捕食を続けながら嘲笑う。

 獲物だと思っていた相手に、自分が獲物だと思われている。

 自分の弱さによる悔しさから怒りが込み上げてくる。

 だが、捕食されるだけの魔物にはどうすることもできない。



 ――せめて、こいつの動きを止めることができれば……



 睨まれても止まることのない歯の動きが憎たらしかった。

 その時、小鼠の動きが止まり、自身に生命力が漲るのを感じ、魔物は戸惑ったものの、すぐに生命力の出所を知った。

 目の前で動きを止めた小鼠だ。

 戸惑いながらも魔物は、石化した小鼠の生命力を凝縮させた宝石を造り出し、喰らうことで大きく成長した。



 ――自分は強くなれる。



 その事実を実感した魔物は、慎重に自分でも倒せる魔物から捕食し、強くなることを決心した。

 だが、魔物の決意は夢半ばで冒険者と呼ばれる人間に倒されたことで終わった。



 ☆ ☆ ☆



「さっきの言葉をどう思う?」

『私たちの事を強く憎んでいた』

「それは当たり前だ」


 以前の自我が残っているのだとしたら、自分を殺した相手を憎まずにいられないはずがない。


「それよりもあいつは『子供たちを殺した』と言っていた」


 大蛇の子供。

 直接は思い当たらないが、最近になって討伐した大蛇以外の蛇の魔物と言えば灰蛇しか思い当たらない。もう数百体を討伐しているため、子供()()で済ませていい数ではない。


「子供が灰蛇の事を言っているなら、あいつが産み落とした子供っていうことになるんだろ」


 どこから現れたのか不明だった魔物だが、ようやく知ることができた。

 同時に行き先が不明だった生命力にも予想ができる。


「奴は万が一の場合に備えて、自分の分身とも言える大量の卵を用意しておいたんだ」


 自身には戦えるだけの最低限の生命力。

 残りの奪った生命力は子供たちへと分け与えていた。


「こんなことになるなら大蛇の討伐に浮かれていないで、森のどこかにあった卵を破壊しておくべきだったな」


 森にあったのは確実だ。

 最初、灰蛇は森から出てきたし、森を出れば見渡す限りの平原が続いている。さすがに500個を超える卵を隠しておくのは不可能だ。


『過去の行動を悔やむより、これからどうするべきかです』

「そうだな」


 大蛇の髪が6方向へ向けられる。

 そのうちの一つは俺へ向けられていた。


「どうやって感知しているのか知らないけど、こっちの位置は把握されているようだな」


 大蛇の姿が見えるコテージの上から飛び降りて、石化したコテージを盾にして隠れる。

 放たれた石化の眼光が石化したコテージに当たり、弾かれてしまう。


「石化の眼光は強力だけど、石化していない物を石化させるだけだ」


 既に石化している物には効果を発揮しない。


「そういうわけで、ここにいれば安全ですよ」


 隣で隠れている兄に教えてあげる。


「お前たち、いつもこんな危険な事をしているのか?」

「まだ余裕ですよ」


 脅威ではあるものの、まだ誰も負傷していない。

 それが俺たちに余裕を与えていた。


「奴は生命力を奪う為に手当たり次第に石化させました。自分で障害物を生み出したようなものです」


 石化した建物に散らされて眼光が届かない。


「こうして隠れていれば安全です。今のうちに作戦を……」

『ジャマだな』


 尾を大きく振り上げる。


「何をする気だ?」


 振り下ろされた尾が石化した建物を吹き飛ばす。

 粉々になったコテージが宙を舞い、中にあった家具も石化した状態で零れ落ちていく。


 尾は真っ直ぐ俺の方へ向かっている。


「このままにするのはマズイ……!」


 石化した障害物が邪魔になっていない。

 攻撃として脅威になっているが、それ以上に石化した人々が巻き込まれてしまうのが問題だ。コテージが壊されるのは構わないが、さすがにイリスの【回帰】でも粉々にされた人間を元に戻すのは不可能だ。


「【魔導衝波】」


 大量の魔力を尾に叩き付けて内側から爆発させる。


「足りない……!」


 しかし、爆発させることができたのは尾の半分。向こう側まで届かない。

 攻撃の為、動きを止めている間に尾の先端を動かして俺に狙いを定めている。


 ――斬。


 振り上げられた尾が衝撃に吹き飛ぶ。


「アイラ!」

「ちょっとしっかりしてよ。こっちはあんたがやられたら終わりなんだからね」

「分かっている。それでも、見捨てられなかったんだよ」


 吹き飛ばし切れなかった部分をアイラが剣で斬り飛ばす。

 大蛇の時よりも進化しているせいか体が硬くなっており、大蛇の時と同等の魔力で【魔導衝波】を叩き込んでも尾を吹き飛ばすことができない。

 それはアイラも同じで、斬撃は尾の半分までしか届かない。

 二人で協力してようやく斬り飛ばすことができる。


 大蛇がこちらを睨みつけてくる。


「考え事をしている最中だ。少し黙っていろ」

「……!」


 石化の眼光が飛ぶが、大蛇の視点では目を離していないのに一瞬の間にいなくなってしまった。

 それでも感知すれば俺とアイラのいる位置を把握することができる。


「石化しているから安全だと思ったけど、考えは改めた方がいいな」

『こういうこと』


 イリスから念話が飛んでくる。

 視界を共有すると石化した木箱を手にしており、それを同じように石化した壁へ叩き付ける。すると、衝突した部分が砕けた。


「なるほど。石化した物同士が衝突すると両方が粉々になるのか」


 石化すると重くなる。おまけに一部だけを切り取ることもできなくなる。

 そのためイリスが今やったように投げ付けるなどという真似はできない。石化した騎士も数人が協力して落としてしまわないよう慎重に運んだ。

 衝突させた時にどうなるのかなど誰も試していなかった。


「でも、あいつの体は粉々になっていなかったわよ」

「そんな自分もダメージを受けるような真似はしないだろ。性質が似ているだけで大蛇の方が圧倒的に強いんだろ」


 つまり、石化した建物や人を大蛇は自由に砕くことができる。

 今から避難させている時間的余裕などない。


『なら、まずは尾の動きだけでも制限させる必要がありますね』


 空から光る剣が何本も降って来る。

 蠢く尾を串刺しにすると大蛇の体を縫い付けてしまう。


「でかした、メリッサ」


 大蛇が尾にどれだけ力を込めても魔法で造られた剣が抜けることはない。

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