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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第44章 世界解放
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第23話 石化の浸食

 それは、急に姿を現した。


「……うん?」


 宴会中だったが、外での騒ぎを知ってゼラトは警戒を強めるよう兵士に指示を出していた。酒を飲んでいない者を総動員させての警戒。酒を飲んでしまった者も翌朝には叩き起こすつもりでいる。

 倒したと思っていた石化能力を持つ敵だったが、同様の能力を持った敵がいる。


 村で何らかの異常があって向かったマルスたち。現状を把握できていない騎士たちでは警戒する以外にできることがなかった。

 騎士に命令された兵士たちは眠気に耐えながら、自分たちが駐留している場所を囲む木の柵の前で立っていた。

 闇夜の奥から聞こえる「ズルズル」と這う音。


「……」


 兵士に緊張が走る。

 森にいた石化能力を持つ魔物が、どのような魔物なのか飾られているのだから全員が把握している。それに、急な配置の理由も知らされている。


 蛇の魔物。

 闇夜のせいで姿は見えずとも、音が蛇の接近を知らせていた。


 そうして目を凝らしていると闇夜の中に光が灯る。


「……警戒!」


 隊長が叫び、部下も武器を握る手に力を込める。

 さらに合図があれば走れるようにしている。相手の能力も分かっている。眼光が飛んできた直後には石化させられてしまう。


 しかし、この力には弱点がある。攻撃の手段が頭部にある眼から放たれる眼光であるため、一度に一人までしか攻撃することができない。ただ視線を向けるだけでは攻撃にならないため両眼でしっかりと狙いを定める必要がある。

 仲間の誰かが犠牲になるかもしれない。

 だが、仲間が石化している間に敵を倒すことができれば解放することができる。


「……よし」


 兵士たちの目にも灰蛇の姿が見えるようになる。

 複数人が別々の方向へ走り、仕留めるつもりで動き出した。


「え……」


 より前へ進んだことで気付いてしまった。

 闇夜の中に浮かぶ眼が一対だけではなかったことに。



 ☆ ☆ ☆



「どうなっている!?」


 ゼラトに届いた報告は信じられないものだった。


「……もう一度言います。南側から石化が徐々に広がっており、遠距離からの攻撃にて敵と交戦中です」

「それは分かっている」


 マルスが出て行った南側で警備をしていた若い兵士。

 彼の役割は伝令。若い事を理由に中央にある本部まで走らされていた。


「では、自分は持ち場に戻ります」


 状況の報告を終えたのなら持ち場に戻る。

 兵士としては当然のことだった。


「待て!」


 だが、ゼラトとしては承服しかねる行動だった。


「な、何か……?」

「行ったところで無意味だ」

「え……」

「報告します!」


 さらに別の兵士が天幕に入ってくる。


「北側からも石化が始まっています!」


 新しい兵士が伝えてきたのは、南側だけでなく北側からも襲撃されているという報告だった。


 ゼラトが頭を抱える。

 既に東側からも石化の浸食が行われていた。

 東・南・北からの石化。


「どうしますか?」


 副官のようにゼラトの傍にいたカラリスが尋ねる。


「どうしようもない」

「西側から逃げるのはどうですか?」

「そう上手くいくとは思えない」


 西側が大蛇のいた森とは正反対。灰蛇が森から出て来たのだとしても回り込むには距離がある。

 そのため灰蛇による包囲も成されていない。


「まるで作られた逃げ道のように開けられている。3方向から同時に襲撃するほどの知能がある相手だ。1方向だけ包囲に穴を開けるなど不自然ではないか?」


 相手が魔物だから、とカラリスは侮っていた。

 しかし、ゼラトは『魔物である』という前提を排除して、包囲された状態から生き残る術を探っていた。


 どうにか包囲から逃れる必要がある。

 今の状況では危険を覚悟で突破する必要があったが、すぐに諦めた。


「包囲している相手は姿を見られただけで石化してくるような奴だ。そんな相手から逃げ切れると思っているのか?」

「それは……」


 カラリスが言い淀む。

 仲間が石化される光景を見て逃げ出した兵士が何人かいた。しかし、逃げ切ることができず石化されてしまった事が伝令兵によって伝えられている。

 包囲された時点で逃れるのは不可能。

 どうにか敵を排除するしかなかった。


「私も規格外の魔物を相手にできるとは思っていない」

「では、どうするんですか?」

「規格外な魔物には規格外な人間だ」

「……」


 救援に弟を求めている事をカラリスは悟った。


「まだ戻って来ないのか?」

「ここを出てから10分ほどしか経過していません」

「……」


 すぐにでも戻って来てほしい。本来なら救援を伝えに誰かを向かわせたいところだが、ここから出ていくことが難しい状況では伝令を送るのも難しい。


「やむを得ない」


 ゼラトが思いついた方法は、所有権を考えれば褒められたものではない。

 だが、緊急事態であるため苦渋の決断を下す。


「火矢の準備をしろ」


 天幕の外へ出ると灰蛇に対抗するため準備されていた。

 命令を受けた兵士が火の点いた矢を弓に番え、灰蛇がいるであろう外へ向ける。


「違う」


 ゼラトの狙いは灰蛇ではなかった。


「どれでもいい。近くのコテージに火を点けろ」

「え、ですが……」

「ここにいながら離れた場所に彼らに救援を求めるには派手に燃え上がらせて、異常事態であることを知らせる必要がある」


 命令を受けた兵士が迷いながらも火矢をコテージへと射る。

 火の点いた矢の刺さった木製の建物は徐々に火が広がり、いずれは大きな火となる。


「よし」


 火によって明るくなるのを見ながらゼラトが拳を握りしめる。


「なっ……!!」


 だが、次の瞬間には笑みが凍り付くこととなる。

 コテージに火が燃え広がるよりも早く、石化が広がって火も含めて全てが石になってしまった。

 火が消えてしまったことで再び暗くなる。


「くっ……」


 ゼラトが横へ跳ぶ。


「え……」


 直後、彼の隣にいた弓兵が石像になる。

 石化した建物の陰に身を隠しながら周囲を伺う。別の場所ではカラリスも同様に身を隠していた。


「状況は!?」

「ダメです。石化が広がるばかりです」


 中心に近い場所にいたというのに、もう石化が及んでいた。

 隠れながらも見た灰蛇たちはゼラトやカラリス、建物の陰に隠れている者の位置が分かっているのか正確に近付いていく。

 我慢できなくなった灰蛇が眼光を飛ばし、石化が広がっていく。


「この野郎!!」


 槍を手にした騎士の一人が石化したコテージの上から飛び降り、カラリスへ這い寄っていた灰蛇を串刺しにする。

 頭部を槍に貫かれた灰蛇がそのまま絶命する。


「へっ、どんなもん……」


 それより先を言葉にすることはできなかった。

 複数の灰蛇から同時に眼光を浴び、一瞬の間に全身が石になってしまった。


「クソッ……」


 灰蛇は遊んでいる。

 その気になれば包囲した時点で殲滅させることも可能だというのに、一気に攻めることなく弄んでいる。


「カラリス、君の弟はこいつらの眼光を見てから回避していたんだよな」

「無茶を言わないでください。そんな芸当ができるのは弟たちだけです」

「……どっちがいい?」


 騎士の中で残っているのはゼラトとカラリスだけ。

 兵士も生き残っているが、二人が思いついた方法を試すには騎士が実行する必要がある。

 そして、兵士を率いる者として危険を引き受けるつもりでいる。


「……自分が倉庫へ行きます」

「では、私がこの場を受け持とう」

「大丈夫ですか?」

「安心していい。そう簡単にやられたりはしない」


 そう言いながら懐に忍ばせていたネックレスを見せる。

 万が一の場合に備えてアリスター家から支給された石化を防いでくれる効果を持つ魔法道具。灰蛇の力に対してどれだけの効果を持っているのか試していないので分からないが、何も対策がないわけではない。


「……お願いします」


 短く告げるとカラリスが走る。

 もちろん灰蛇が逃がすはずもなく追おうとする。


「させるか!」


 走るカラリスを隠すように盾を構えたゼラトが立ち塞がる。

 盾と鎧の至る所に眼光が当たり、石化が広がっていく。だが、ゼラトは手にしていた盾を捨て、鎧を脱ぎ捨てることで体が石になるのを防ぐ。

 ネックレスのおかげで体が石化するのには間に合った。


 次に大きな木箱を収納リングから取り出して壁にする。

 近くにいた兵士たちもゼラトがやろうとしていることを察して障害物となる物を進路上に置いていく。


「手伝います!」

「危険だ」

「承知の上です。最後にはこの体が……」


 石化の眼光を浴びた兵士が石になる。

 兵士が犠牲となっている間に隠れたおかげでゼラトは無事だが、進路を塞ぐ障害物を設置する兵士が次々と石化していく。


「どうやら、お前たち自身に知能があるわけじゃないらしいな」


 逃げたカラリスは気になる。

 しかし、石化させてしまった障害物が邪魔になって真っ直ぐ追うことができなくなっていた。

 だが、包囲する知能はある。


「どこかに指揮官がいるな」


 その時、保管庫にしていた場所で巨大な火柱が上がる。

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