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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第44章 世界解放
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第22話 果ての村に閉じ籠る意味

「おじゃまします……」


 開け放たれた屋敷の入口から全員が入って来る。


「随分と苦労しただろ」


 なにせ石化していては建物の中に入るのも苦労する。


「本当よ。【明鏡止水】でも斬れないってどうなっているのよ」

「まあ、愚痴は後で聞く」


 制圧が始まってから十数分が経過している。

 既に村の中に潜んでいた灰蛇は、全て倒したはずだ。

 それでも石化から元に戻ったのは一部だけで、つぎはぎのように壁や家具の一部だけが元に戻っていた。

 大部分は未だに石化したままだ。


 こうなると石化した当初の状況を知る必要がある。


「イリス」

「了解――【回帰】」


 村長であるリューの肩にイリスが手を置く。


「お……?」


 ほんの一瞬の間に元の姿を取り戻すリュー。急に体を動かせるようになり、前へ倒れてしまう。

 だが、倒れ切る前に手をついて耐えた。


「状況は分かっているか?」

「あ、ああ」


 手を使ってゆっくり起き上がる。

 石化していた間も意識はあった。屋敷にいた灰蛇が全て排除されたことまでは把握していたはずだ。


「村にいた蛇は全て排除した。だけど、誰も石化から戻らない……いったい、何があったんだ?」


 全滅させても建物の一部が元に戻るだけで人間が元に戻ることはなかった。

 デイトン村は、今も石化した状態を保っている。


「俺にも、よく分からないんだ。気付いた時には村を囲むように灰色の蛇が侵入していて、迎撃しようと外に出た兵士が何もできずに石になったんだ。さすがにヤバいと思ったから、女子供だけでも避難させようと思ったんだけど……」


 既に囲まれており、村から出る為には灰蛇の横を通り過ぎる必要があった。

 女性や子供を連れた状態で、そのような危険な行動に出るわけにはいかず、村長としてリューが選択したのは自らの屋敷に籠城することだった。

 どうにか数組の母子を避難させることにした。


 しかし、その頃には村の大半が石化させられており、村長の屋敷にも灰蛇はサイズが大きくても這うことで隙間を通って屋敷の中へと侵入した。

 籠城ではなく、逆に閉じ込められることになってしまったため逃れる術を持たないリューたちは抵抗することもできずに石化させられてしまった。


 灰色の蛇によって石化させられた。

 相手の特徴などを聞いてみたが、灰蛇の仕業であるのは間違いないようだ。


「チッ、やっぱり最初に攻めてきた灰蛇は別にいるのか」


 最初に村を襲った灰蛇が率先して村を石化させた。

 その灰蛇がどこへ行ったのかは不明だが、倒した中にいないから村の石化が解除されていない。


「あまり時間を掛けている余裕はないんだけどな」

「そう、なのか……?」


 尋ねながらリューがふらつく。

 石化している間に生命力を奪われてしまっているため消耗していた。

 ただし、今のところリューの命には問題はない。


「アレを見てみろ」


 村長の屋敷から見える外に石化した人が立っている。

 役職に就いているわけではないが、村の中でそれなりの発言力を持っている老人だ。俺も子供の頃に遊んでいたら怒られた記憶がある。


「家族を置いてでも助かりたかったんだろ。必死に逃げている最中に後ろから睨まれて石化させられたんだ」


 石化した経緯はともかくとして、石化した事実そのものが問題だ。


「石化させる本来の目的は、相手の生命力を奪い取ることだ。しかも、厄介なことに大蛇の時よりも急いで回収しようとしている」


 リューが石化していたのは十数分の出来事。

 それなのに起きた時には石化から解放された騎士と同等に疲労していた。


「果たして生命力――寿命の少ない老人たちが耐えられるかな」

「な……! 俺みたいに戻すことはできないのか!?」


 リューが俺に掴み掛ってくる。

 俺たちなら石化から解放する手段がある、と思っているのだろう。【回帰】なら元に戻すことは可能だ。ただし制限がある。


「これから何が起こるのか分からない。予備にある程度の魔力は残しておきたい。だから元に戻すことができるのは、残り一人か二人っていうところだ」

「そんな……」


 リューを除く村人の全員が石化している。

 残念ながら全員を元に戻すことはできない。


「元に戻してあげてもいい。けど、誰を戻すのかは村長であるお前が決めろ」

「……」


 そんな重要な事を決められるはずがない。

 決められた者は助かるが、他の者はリューが見殺しにしたことになる。


「そもそも今回の件は、お前たちにだって責任があるんだぞ」

「……! 何を言っているんだ……お前たちがもっと早く来てくれていれば、こんなことには……!」

「ならなかっただろうな」

「なら……!」

「そう。近くにいれば防げた事態なんだよ」


 俺たちが村にいれば取り囲まれた状態からでも被害を出さずに事態を鎮静することができたかもしれない。

 仮に離れていたとしても騎士団が駐留してくれていれば時間稼ぎはできただろうし、冒険者と手を取り合えば灰蛇を全滅させることだってできたはずだ。

 どちらにしても、村の警備では戦力が足りなかった。


「今が緊急事態だっていうことは分かっていたはずだ。追い出すような真似はせずに騎士団を迎え入れていればこんなことにはならなかったんだよ」


 老人たちは変革を恐れて騎士団を迎え入れなかった。

 だが、当人たちの思惑とは関係なく世界は変化していく。その変化に対応することができなければ、今回のように自らの身を苦しめることとなる。


「その辺を考慮して説得するのは、村長であるお前の仕事なんだよ」

「……」


 俺たちが訪れる前から、村の未来を考えて色々と行動をしていたが、発言力だけはある威張り散らした老人たちを説得することが叶わなかった。

 村長として力不足な事は自覚していた。

 だが、それがこんな事態にまでなるとは思っていなかった。


「誰かを選ぶことなんてできない。助かるなら全員で、だ」

「若い人たちは大丈夫だろうけど、その選択で老人は助からないかもしれない。それでもいいんだな」

「ああ」


 それが村の責任者である村長の選択だというのなら、俺から何かを言うことはない。


「これだけは覚えておけ。自分の世界に閉じ籠るだけだと、そこには未来なんてないんだ」


 俺も人の事は言えない。もし、父の行方不明がなければ衛兵として村で一生を終えていたはずだ。

 こうして村を出たからこそ、自分の世界は広がった。

 そして今のデイトン村は、村から出て行かずとも外との交流が可能な状況になろうとしている。以前は行き止まりだったため、村にいただけでは交流にも限りがあったが、村の選択次第でいくらでも広げることができる。


 悩むリューを置いて外へ出る。

 状況は判明し、何をするべきなのかはっきりとした。


「村に残っていた灰蛇は全てが陽動だった。本命の石化させた灰蛇を探すぞ」

「それはいいのですが、村長と村人は放置していいのでしょうか?」

「全員を石化から元に戻す為には、石化させた灰蛇を探す必要がある。石化している状態なら簡単には死ぬことがないから現状のままの方がいい」


 生命力を奪い尽くすにも時間が掛かる。

 外的な要因に攻撃も受け付けなくなるため石化していた方が安全な可能性がある。

 危惧すべきは生命力の少ない者たちだが、そこまで責任は持てない。


「こんな暗い夜に森へ行くけど、ついて来てくれるか?」


 眷属の皆は問題なく頷いてくれる。


「ここまで乗りかかった船です。ちょっと危険ですけど、問題ありません」


 エルマーも賛成してくれた。


「……けど、森へ行く必要はなくなったみたい」


 イリスの視線が森とは別方向へ向けられている。

 騎士団が駐留している方向で、火が上がっていた。

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