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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第44章 世界解放
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第9話 石化からの生還

「やぁ、やっぱり君に頼んだのかい?」


 デイトン村の外で駐屯していた騎士の一人が村へ近付く俺たちに気付いて手を挙げながら歩み寄ってくる。

 騎士ゼラト。昔からアリスター家に仕えるベテランの騎士で、もう50歳を超えていたはずだ。以前は騎士団の団長をしていたが、現在は後輩へと譲ってのんびりとした生活を騎士団で送っていた。

 彼とは少しばかり面識がある。俺の兄であるカラリスが騎士であり、アリスター家が懇意にしている冒険者ということで顔を合わせたことがある。


 向こうの認識としては面倒事を起こすかもしれない要注意人物。そして、面倒事が起こった時に頼ることとなる相手。

 今回は、非常事態が起きたため頼ることとなった。


「お久しぶりです。ゼラトさんがここを指揮していたのですね」


 エリオットから現場を指揮している騎士に挨拶するよう言われている。

 実際には自由に動き回る許可は得ているが、最初に挨拶をすることでアリスター家の意向が強く働いていることを示す。

 実際、村の中から興味津々といった様子の子供たちがこちらを見ていた。


「指揮と言っても、この問題を解決できるわけじゃないけどね」


 若い頃は優秀な騎士として厳格な人物だったが、孫が生まれてからは気のいい好々爺になっていた。


「もし、見たこともないような魔物が森から出てきた時には村の住人を避難させるのが私たちの仕事だよ。ただね……」


 ゼラトさんが村の中へ視線を向ける。

 ちょうど子供たちを親の一人が迎えに来たところらしく、こちらに冷ややかな目を向けてきた。


「村の協力は得られていないんですね」

「そうなんだよね」

「すいません。どうにもここの村は自分たちだけで完結してしまっているところがあるので、余所者を歓迎する気にはなれないんですよ」

「そうらしいね」


 自分たちが困った時には助けを求めるが、助けを求められた時には率先して助けようとは思わない。さらに今回は村が被害を受けていないのも消極的にさせている原因になっていた。


「お、来たようだな」


 村の中から一人の騎士が出てきた。


「兄さん」


 村との交渉を引き受けた兄だ。

 この村の出身ということで他の騎士よりも話し易いため交渉役を引き受けていた。


「すみません。俺の力が足りないばかりに村へ入る許可すらもらえませんでした」

「気にすることはない。私たちみたいな余所者を引き入れて自分たちに被害が及びたくないんだろう」


 交渉に失敗した兄をゼラトさんが宥めていた。

 そもそも騎士を含む集団が村の外で野営をしていること自体がおかしい。


「以前からこんな様子だったんですか?」


 出て行った時の状況が状況だっただけに村へ立ち寄るのは依頼の時だけだ。あとは情報を集めることすらせず、自分の出した依頼がどうなったか結果ぐらいしか興味がなかった。

 だから、村の外で野営していると聞いた時は驚いた。


「いや、冒険者が数人訪れただけなら迎え入れてくれたさ」


 外から来た人間は外貨を落としてくれる貴重な相手。

 村が提供できるのは収穫した野菜を使った料理ぐらいだが、それでも森で狩りを行う冒険者はいるため商売として成立していた。

 だが、そんな小さな商売を続けているだけだった。


「これから本格的に開発が進めばデイトン村も規模を大きくしないといけない。それをこの村の人間は理解していないんだよ」


 年寄りたちはこれまでの生活を続けるつもりでいる。

 しかし、時代の変化について行くことができなければ別の場所に中継地としての村が作られることになる。そうなればデイトン村へは誰も立ち寄らず、忘れ去られることになる。


 アリスター家としても既にある村を利用した方が得であるため、誰もが立ち寄れる村へ変わってくれることを期待している。

 ただし、今の状態では期待するのは難しいらしい。


「それよりも仕事に取り掛かることにしましょう」

「おう、そうだな」


 兄に案内されて天幕の一つへと入る。

 広いスペースを確保できる天幕は、本来なら負傷者を収容する為の物。ところが今のデイトン村では負傷がおらず、1体の人の姿をした石像だけが置かれていた。


「本当に、石化しているんですね」


 騎士の姿をした石像。

 それは、森の中で石化させられた騎士だった。


「色々と試してみたんだが、ダメだった」


 石化のスキルが使える魔物が存在するため、石にさせられた者を元に戻す薬は存在する。滅多にいる魔物ではないが、アリスター近辺でも出没することがあるため都市には常備されている。

 もちろん様々な薬を試されたが、既存の薬では元に戻すことができなかった。


「できそうか、イリス?」

「問題ない。私の【回帰】はどんな状態であろうと関係ない」


 イリスが石化した騎士の肩に手を置く。

 触れている必要はないが、こうして触れることによって対象を明確にすることができる。石化した騎士とは顔を合わせたことがある。元の姿をイメージしながらスキルを使用することによって石化される前の状態へと戻す。


「ぷはっ……!!」


 一瞬で石になっていた騎士が人の姿を取り戻し、水中から飛び出してきた時のように息を大きく吐き出す。

 イリスの【回帰】なら元に戻せることが証明された。


「残り40人」


 森には石化した騎士や冒険者が40人以上いる。


「まずは少しでも多くの人を元に戻すのが先だな」

「すまない。俺たちに力がないばかりに……」

「兄さんが謝ることではありませんよ」


 最初に偵察を行っていた冒険者が石化された。

 次に救助へと向かった騎士や冒険者までもが石化させられてしまった。


「相手は知恵の回る魔物です」


 石化された人間を餌にして救助に訪れた者を石化させている。

 罠が張られていると分かっている状況であるため迂闊に救助へ赴くことができずにいた。


「俺たちなら。その魔物に気付かれる前に連れ帰ることができるかもしれません」


 もし、向こうから姿を現してくれると言うのならこっちにとっても探す手間が省けて助かる。


「イリスは留守番。何かあった時の為にアイラも護衛として置いていく」

「あ、あの……」


 指示を出していると石化から回復した騎士が四つん這いになりながら顔を上げてこちらを見てきた。


「あのような状態から、助けてくれてありがとうございました」

「……」


 騎士としては礼を言っただけ。

 だが、その言葉は俺に考えさせるには十分だった。


「自分が石化していた意識があるんですか?」


 屈んで目線を合わせながら尋ねる。


「はい……何もできず、ただ目の前で起こっている出来事を見させられているだけなのは悲劇でしかありませんでした。ですが、申し訳ございません。私も石化した原因には心当たりがないのです」


 気付いた時には石にさせられていた。

 それよりも重要な問題がある。


「……予定の変更だ」


 当初の予定では数日掛けて石化した人間を戻す。

 それと並行して森で起きている問題を排除するつもりでいた。


「【回帰】で全員を助けていたら間に合わない」


 欠点と言えるのが消費魔力の多さだった。効果を考えれば当たり前だが、多くの魔力を消費するため、1日に治せる人間は数人に限られている。

 おそらく半数は生還させることができる。しかし、考えていた方法では残りの半数がどうなるのか予想することすらできない。


「俺は今回の一件で犠牲者は誰一人として出すつもりはないんだ」


 天幕を出ると森のある方向へと足を進める。


「お、おい……どうしたんだ」

「全員を助けるつもりなら、イリスのスキルでは間に合いません」

「きちんと成功していたじゃないか」


 石化した人間が元に戻る光景を兄も見ていた。

 だが、戻る過程で致命的な問題が発生していたこと。そして、石化中に起きている問題に少ない言葉だけでは気付けなかった。


「アレはただの石化ではありません」

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