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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第44章 世界解放
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第5話 ドードーの街―前―

「いらっしゃい」


 冒険者ギルドを訪れると、いつものようにルーティさんが笑顔で迎えてくれる。

 依頼を受ける為に冒険者が押し寄せて忙しい朝や帰ってくる夕方の時間を避けているとはいえカウンター前で長居するわけにもいかない。

 単刀直入に用件を言う。


「ルーティさんはドードーという名前の街について知っていますか?」

「……!? どうして、その名前を……!」


 何か情報が得られれば、程度の気持ちで聞いてみたが何かを知っているのは間違いないみたいだ。

 キョロキョロとあちこちへ首を向ける。

 不審な動きだ。だが俺が気にしたのは、ルーティさんが冒険者たちのいるカウンターの向こう側だけでなく、自分のいる内側も気にしていたことだ。


「どうやらギルドの人間なら全員が知っている情報ではないみたいですね」

「……何か知っている事があるなら、こちらが聞きたいところです」


 もうルーティさんは冒険者ギルドの中でベテランの職員と言っていい。

 そんな人が不審な挙動をしていれば冒険者だけでなく職員からも視線を集めてしまうのも仕方ない。


「と、とりあえず場所を変えましょう」


 逃げるように受付から移動させられて案内されたのは、冒険者ギルドの最奥にあるギルドマスターの私室。

 受付嬢としてルーティさんが全員分のお茶を置いていく。秋になって涼しくなってきたとはいえ日中はまだ暖かいため、冷たいお茶が出された。


 今日、同行しているのはイリスとノエル。聞き出した情報を共有するだけなら俺に同行する必要はないけど、彼女たちがいてくれた方が説明は簡単に済ませられると思って連れて来た。


「で、どうして俺の所に連れて来た?」


 案内した時、部屋の主であるギルドマスターは珍しく書類仕事をしていた。元冒険者であるため面倒な書類仕事を避けており、普段はルーティさんを中心とした職員が肩代わりしていた。それで済んでいたのもギルドマスターの実力が冒険者から信頼されていたからだった。


「彼らはドードーの街について何か知っています」

「なに!? あの、一瞬で消えたっていう街についてか……?」

「はい」


 どうやら地上にあったドードーの街で『何か』があったのは間違いないようだ。それも冒険者ギルドの上層部にしか知らせられないような事実だ。

 その上層部にルーティさんが加えられているのが気になるが、今は事実を確認する方が優先だ。


「いったい、ドードーの街で何があったんですか?」

「いや、先にこっちから聞かせてくれ。どうして、ドードーの街について聞こうなんて思った? お前たちはどこに消えたのか知っているのか?」

「消えた……?」


 ギルドマスターの言葉が引っ掛かるものの説明しようとして……ルーティさんが部屋にまだいることに気付いた。

 そしてギルドマスターの俺も視線から何を気にしているのか気付いた。


「安心しろ。彼女は信頼できる」

「信頼はしています」


 俺が冒険者になった頃からの付き合いだ。

 人間的には信頼している。だが、迷宮主である秘密まで打ち明けてしまうのは問題だと考えていた。


「こっち側にも秘密を共有している人間は必要だぞ」

「こっち側?」

「ギルドだ。冒険者ギルドにある程度は事情を把握している奴が必要だろ」

「それなら……」


 これまでは色々とギルドマスターが便宜を図ってくれていた。と言っても、地上で必要な物が出てきた際に迷宮で得られるようにし、情報源は伏せた状態でギルドマスターから情報を流してもらっていた。

 緊急時の依頼は報酬が高くなる。多額の報酬に釣られて多くの冒険者が訪れ、迷宮が活発になることで迷宮に大きな恩恵がある。ギルド側も問題を解決できるので全面的な協力が得られていた。


「すぐに、って言うわけじゃないけどギルドマスターを引退するつもりでいる」

「ええ、どうして……!」


 領主からの信頼も篤い人だ。

 以前に迷宮主である事が知られた際も領主と一緒だった。


「どうしてって、俺も老いた。冒険者を引退しても威圧感まで消えるわけじゃないからギルドマスターとして頑張ってこられたけど、もう無理だ」

「威圧感ならまだ……」


 数日前にも受付前でトラブルがあった際にギルドマスターが一喝するだけで鎮静化したと聞いた。


「無理だな。最近は睨むだけでも体に響く。俺の年齢を考えろ」


 具体的な年齢を聞いたことはないが、他の都市に俺たちと同世代の孫がいるとは耳にしたことがある。


「そういうわけで数年後にはルーティがギルドマスターを引き継ぐことになった」

「私は非常に不本意ですけどね」

「いいんですか?」


 先代のギルドマスターも元冒険者だと聞いている。

 ルーティさんはアリスターで生まれ、普通に受付嬢として雇われただけの冒険者を経験していない一般人だ。


「別に冒険者でなければならない理由はない。それに、この件は既に領主様も承認している」


 冒険者ギルドは国や都市とは関係のない中立な組織だが、それでもその都市にある以上は税を納めるなどの関わりがある。

 今後の事を思えば領主の意向は必須だ。


「でも、どうしてルーティさんなんですか?」

「お前らは断るだろ」

「そうですね」


 迷宮の運営があるのだから冒険者ギルドの運営に携わるような余裕はない。


「その都市で冒険者ギルドのギルドマスターをやるなら誰からも認められるだけの実力が必要になる」


 生半可な実力などではなく、最も強いと認められるだけの功績が必要となる。


「ああ、そういうことですか」


 実力のある冒険者なら俺たち以外にもいる。それこそ現役だった頃のギルドマスターと同等の実力がある。

 だが、どれだけの実力があったところで俺たちほどではない。

 どうしても比べられてしまい、元冒険者では都合が悪かった。


「ははっ、望んでもいないのに出世してしまいました」

「……まだ諦めていなかったのか」


 若い頃のルーティさんは受付嬢として有望な冒険者と親しくなり、大金を持つ冒険者と結婚して早々に寿退社するつもりでいた。

 それが今ではギルドマスターに推薦させられてしまった。出世すればするほど仕事は簡単に辞められなくなる。


「それもこれもマルス君のせいですよ!」

「俺!?」

「そうです。私を推薦したのだって領主様なんです」


 アリスター伯爵も俺がギルドマスターを引き受けないことは理解していた。

 だがアリスターとしては、冒険者ギルドと俺との間に良好な関係を築けるようにしてほしく、ルーティさんなら既に親しくしているため領主として最適な人物だと判断した。


「それは……すいません」


 俺としては謝るしかない。

 隣にいるノエルは苦笑しているし、イリスは表情を崩さないように注意している。


「で、マルス君はドードーの街については何を知っているんですか?」

「実はですね……」

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