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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第44章 世界解放
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第3話 強化された【世界】と【自在】

「お前たちなら用はない。俺の領地から出て行ってもらおうか」


 手を前に出すゼオン。

 スキルが発動する前兆を感じ取って身構える。


「……は?」


 しかし、気付いた時には真っ白な世界に戻っていた。


「お前たちが来る可能性も考えておくべきだったな」


 目の前にあるドードーの街からゼオンが悠然と歩んでくる。


「移動させられた……? いや、追い出されたのか!」


 【世界】のスキルを持つ俺だから直感で理解した。

 今はドードーの街に入ることすらできない。


「やはり放置するのは危険だな」


 真っ白な地面をゼオンが足で叩く。

 だが、何かが起こる様子はない。


「地面の形でも変えて棘でも造り出すつもりだったのか?」

「そのつもりだったけど、この世界では無理なようだ」


 足元へ魔力を流したところまでは感知することができた。だが、その魔力は霧散するように消えてしまった。

 ゼオンの手に剣――魔剣が現れる。


「リュゼ」

「りょうかい」


 真っ白な地面を蹴って魔剣を手にしたリュゼが向かってくる。


「あんたの相手はあたし」

「いいよ! こっちも決着をつけたかったところ」


 アイラが剣を打ち合いながらチラッと視線だけをこちらへ向け、俺たちのいる場所から離れて行く。


 神剣を振り下ろす。

 すると、甲高い音と共に矢が地面に落ちる。


「そっちの剣士がリュゼの相手を受け持つなら、そいつの相手はシャルルがやれ」

「はい」


 弓を振り上げるシャルル。

 姿を隠していたシルビアの短剣と衝突して魔力の光を衝撃により放つ。


「「【風刃(ウィンドエッジ)】」」


 メリッサの杖とテュアルの本から放たれた風の刃が衝突して衝撃波を生み出す。

 二人が同時に放った同じ魔法が相殺される。しかし、次の行動を即座に起こしたのはメリッサだった。石の弾丸を放ち、テュアルが地面の上を転がって逃げる。


「どうやら使える魔法、もしくは数に制限があるようですね」

「そうなのか?」

「はい。彼女の力量を考えれば魔法で迎え撃った方が簡単です。それに……」


 メリッサが気にしていたのは、リュゼが持っている魔剣をゼオンが出現させたことだ。シャルルが使用している弓もリュゼが前に出ている間に渡していた。


 自分の武器を持っていないのはおかしい。

 ゼオンは迷宮主として【道具箱(アイテムボックス)】を所有しているはずであるため、仲間の武器を予備に持っていたとしてもおかしくない。

 だが、彼女たちも収納リングを所持しているため自分の武器ぐらいは自分で保管しているはずだ。

 それができない理由がある。


「二人の武器に限定するなら理由は分かっている」

「え……」


 メリッサの疑問に答えを持っていたのはイリスだ。


「5年前の戦いが終わった後、あの場には彼女たちの武器と収納リングが遺されていた。今も収納リングは身に付けているみたいだけど、あの時の物とは別物なのは私たちが理解している」


 危険な魔剣や使う者のいない弓。

 それらの特別な力を秘めた武器は、【魔力変換】で迷宮の糧にさせてもらった。とくに魔剣を収集していたリュゼの収納リングは迷宮を復旧させるのに大きく役立ってくれたのを覚えている。


「そうか。あの収納リングの中身は空なんだ」

「武器も【道具箱】から取り出したのではなく、【宝箱】から生み出している」

「正解だ」


 魔力を惜しむことなく最強の武器を渡している。

 そして、テュアルの本は彼女のスキルによって生み出された物で、記録してある魔法を自由に発動させることができる。だが、死んでいる間に記録していた情報が消えてしまい、ストックしてある魔法の数が不足している。


「どうしますか? 向こうは以前よりも強くなっているようですが?」


 オネットがゼオンに尋ねる。

 5年前は複数で一人と戦うことで対等に渡り合うことができたが、今は一人ずつ戦っても余裕を持つことができている。


「それはそうだよな。あれから5年もあったんだからこっちのレベルは上がっている」


 ただし、向こうに5年のブランクがある訳ではない。

 復活してから数日。ゼオンたちにしてみれば5年前の出来事は、数日前の出来事と何も変わらない。

 それだけの変化があって初めて対等に戦うことができている。


「オネット。お前の武器はどうする?」

「私は時間を掛けて決めたいと思います。ここはキリエさんに任せます」


 目を閉じていたキリエが鋭い視線を向ける。

 次の瞬間、体から大量の神気が溢れて衝撃波となって襲い掛かると俺たち4人を吹き飛ばす。


「……どうやら彼女の相手はわたしがするしかないみたい」

「大丈夫か?」


 キリエの力は見たことがある。

 それに彼女へ神気を提供しているのは女神セレスだ。キリエよりも対峙したことが多い彼女の方だからこそ分かることもある。

 今のは女神セレスの力を越えている。


「へぇ、一人で戦うつもりか? こっちとしてはわたし一人で、そっちの4人を倒すつもりだったんだけどな」

「今の一撃で大体のところは分かった」


 ノエルからも今までにない量の神気が感じられる。


「……どうやら本当に理解したみたいだな」

「それも、完全とは言い難いけどね」


 普段以上の力を放出するノエルだったが、それでもキリエの放出する神気には及ばない。


「遅れるなよ。全力でついてこい」


 キリエが神気を纏った足で強く踏み込むと真っ白な地面にヒビが入る。

 真っ直ぐ駆けてきたキリエの拳を錫杖で受け止めるノエルだったが、そのまま後方へと押されてしまう。


「行かせるか!」


 空中に石の弾丸を生成してキリエへと撃ち出す。


「……っ!」


 魔法を行使した際、普段以上に魔力を消耗している感覚を覚えて苦しくなる。しかし、気力を振り絞って弾丸を飛ばす。


「うるさい。邪魔をするな」


 だが、発射されたはずの弾丸がキリエに到達する10メートル以上も前で消失してしまう。

 あとには石の破片だけが残される。


「そんな魔法で、わたしをどうにかできると思ったか」


 しかもキリエは振り向いてすらいない。

 後ろから狙われた弾丸を削り取ってしまった。


「今のって……」

「はい。女神セレスの悪食です」


 女神セレスは歪められた神格によって周囲のあらゆるものを喰らい尽くす力を手に入れてしまった。

 そして、女神セレスの『巫女』であるキリエも同様の力が使えるようになった。


「どうする?」


 思わず隣にいたメリッサに尋ねてしまった。

 魔法を使用したメリッサが気付いていないはずがない。


「この空間だと肉体を強化する類の魔法は問題ないみたいだけど、放出系の魔法は普段以上に魔力を消耗するみたいだ」


 逆に神気は普段よりも強力になっている。

 強い力を発することのできたキリエの姿を見て女神セレス以外の神が味方しているのかと思ったが、ノエルだけは神気が強くなっていたことを一目で見抜くことができていた。


「戦う力の少ない奴に戦う気のない奴。なら、俺が3人を相手にするしかないな」


 ゼオンが指を動かすと地面から飛び出してくるかのように岩が出現する。

 咄嗟に腕を交差させて防御すると叩き付けられた岩の衝撃に耐える。

 メリッサも空間の歪みを察知して横へ跳ぶ。しかし、同時に回避先へ上から降ってきた建物は回避することができずに潰されてしまう。


「メリッサ!」


 駆け寄ろうとするイリスだったが、彼女もどこかから出現して自分に飛んでくる槍に対応させられて助けることができずにいる。


「まずはお前からだ」

「……っ!」

「止まれ!」


 イリスを攻撃しようとするゼオンに向かって走る。

 有効射程は50メートル。


「――【世界】」


 ゼオンが有効射程内に入った瞬間、【世界】を発動させる。

 柱が3本に増えて強化されたことで密閉空間でなくとも時を停止させられる結界を生成することができるようになった。

 50メートルは広いようで狭い。とくに俺たちレベルの力を持つ者ともなれば一瞬で判断しなければ、懐まで飛び込まれてしまう。


「よしっ」

「……あまい」

「なぁ!?」


 一瞬ではあったものの停止していたはずのゼオンが結界内で動く。


「殺されたお返しだ」

「が、はっ……!!」


 ゼオンの拳が胸に叩き込まれ後ろへと吹き飛ばされる。


「マルス……!」

「ご主人様!?」


 ノエルやシルビアの叫び声を聞きながら自分の迂闊さを呪った。

 俺の【世界】が強化されているのだから、同じように迷宮から与えられた特別なスキルであるゼオンの【自在】も強化されていると考えるべきだった。

 障害物がないせいで何キロも飛ばされ、近くにいたはずのイリスの姿が小さくしか見ることができない。


「それに……」


 おそらくゼオンたちの方が最下層の向こう側にある世界について詳しい。

 この世界ならではの『何か』がある。


「残念だったな」

「参ったな。こりゃ……」


 殴られた胸を押さえながら立ち上がっているとゼオンが目の前に現れる。

 自分の位置すら自由自在なゼオンにとって視界を遮る物が何もない世界は、絶対的な力を発揮することができる。

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