第49話 呪いの消えた都
騒動から数日。
都市レジェンスは未だに騒がしかった。街中での大規模な戦闘により、復興が計画されるほどの被害を受けた。
俺や仲間が戦う姿を多くの人に見られ、もっと被害を気にして戦うべきだと批難を受けたが、俺たちが戦ったからこそ被害を今程度に抑えることができていた。
とはいえ、用事を済ませたら帰る俺たちには関係ない。
「来たな」
泊っている宿の扉がノックされ、メイドとして客を迎えたシルビアが開ける。
現れたのは最大国となったグレンヴァルガ帝国の皇帝であるグロリオ。最低限の護衛だけを連れてレジュラス商業国を訪れると連絡を受けており、俺たちも情報を共有するために留まっていた。
「久しぶりだな」
「いや、皇帝と頻繁に会う方がおかしいから」
「それもそうか」
シルビアが飲み物を用意してくれる。
部屋まで入ってきた護衛はいない。扉の向こうに護衛はいるが、部屋へは入らない。信頼してくれていることもあるが、彼らは俺たちが本気でリオに害を加えようと思ったら自分たちなど肉盾にすらならないことを理解している。
なら、俺たち以外の脅威に備えるべきだ。
部屋の中で行われる会話は聞かれるべきではない。防音がしっかりされているため外にいても聞かれる心配はない。
「簡単に事情は聞いている」
リオが訪れると知って商業ギルドの人間は慌てた。なにせ持て成す為の施設も壊されており、どうにか無事だった都市で一番のホテルで対応するしかなかった。
豪華なホテルだが、皇帝を迎え入れるには不適格だ。必死に何があったのかを説明し、納得してもらうことで滞在してもらっている。
もっとも、リオは別ルート――グレンヴァルガ帝国の密偵からも事前に情報を得ている。何があったのか客観的な情報は得ていた。
「随分と派手に暴れたみたいだな」
「そうしないといけない相手だったんだよ」
俺から聞きたいのは、もっと詳しい裏事情だ。
「裏に女神セレスがいた」
その言葉でリオの意識が切り替わる。
「まず何があったのか俺の口から説明させてもらう」
ゲイツの元を訪れたところ商業ギルドの次の会長を巡って暗殺などの陰謀が起こっており、護衛として俺たちを求めたこと。
そこから呪いに関する様々な出来事があり、それらの呪具を提供していたのが女神セレスだと判明し、戦うことになったことまで包み隠さず伝える。
密偵たちでも知り得ない情報だけに真剣だ。
この情報をどう扱うかはリオの自由だし、俺たちが規格外だと知られてしまうのは今さらだ。
「倒したのか?」
「倒した感触は確かにあった。だから倒せたのは間違いない」
問題は相手が神であるという点だ。
何かしら人間とは異なる方法で復活する方法を用意されていた場合にはどうしようもない。
「そこまで警戒していたら何もできないだろ。今は無事に倒せたことを祈ろう」
「いや……たぶん復活する予定でいるんだろ」
セレスは暗躍していた目的が『すぐに分かる』と言っていた。
俺たちに倒される可能性も理解していた状況で言ったのだから、復活する可能性は十分に考えられる。
「俺の方から伝えられるのは以上だ。グレンヴァルガ帝国としてはどうするつもりなんだ?」
もう関わるつもりはないが、今後の為にも把握しておきたい。
「どうにもしないな」
「そうなのか?」
「まあ、敢えて要求するなら現状維持……いや、以前と変わらない状況を継続するように言うつもりだ。この国は支配する旨味がないからな」
交易の要衝であるレジュラス商業国。運ばれる物に対して関税を掛けることで大きな利益を挙げていた。
もし、この場所を周辺国のどこかが得られれば大きな利益を得られるかもしれない。
問題となるのは維持する方法だ。
もし、他国がレジュラス商業国も独占するようなことになれば他の国々が黙っていない。瞬く間にレジュラス商業国を懸けて防衛戦争になるのは明らかだった。
周囲は敵だらけ。そんな場所を取っても維持は難しい。
今までのように商人たちに管理をさせておいた方が周辺国にとっては色々と都合がよかった。
「それなら大丈夫だろ」
会長選挙は中止になった。
会長候補だった4人の内、一人が死亡し、二人が犯罪によって投獄されている。残ったゲイツも部下が罪を犯していたため追及されている。それでも、ゲイツの能力は復興が必要なレジェンスにとって必要不可欠なものだ。
商人たちで話し合い、会長は空席のままにしてゲイツに責任を押し付ける形で復興を任せることにした。
「頼まれれば物資を渡してもいいけど、ちゃんと対価をもらうつもりでいる」
「それでいい。厄介な土地で国としては欲しくないが、最近は商人たちが力をつけすぎた。少しばかり苦労してくれた方がこっちとしてはちょうどいい」
「そういうもんか」
そんな風にリオと近況を話し合っていると、慌てた声が頭の中に響き渡る。
『ちょっと、これ見て!』
「どうした?」
「……ん?」
「迷宮核からの連絡だ」
最初の頃は色々と話し掛けて来ていたが、最近は緊急時でもならなければ連絡が来ることはない。
シルビアも迷宮核の声に意識を傾けるため耳に手を当てている。
「何があった?」
『こんな言葉が表示されたんだ』
「これは……!」
ようやくセレスが何を目的に動いていたのか分かった。
「何があったんだ?」
「リオの方には届いていないのか」
「ああ」
いつも通り大人しい迷宮核。
なら、これは地下100階へ到達した迷宮を管理する主に届けられたメッセージだ。
「そっちからも見えるようにしてやる」
リオとの間にパスを繋いで迷宮を操作する為の画面に表示された言葉を確認する。
「なっ……!? 俺じゃないぞ!」
「ここにいるんだから難しいだろ。そっちには迷宮主の権限を代行できる人間がいないんだから別の人間がした訳じゃない」
リオが無実なのは分かっている。
そして、犯人はセレスで間違いない。
『新たな柱が構築されました。
これで4本。我らが世界へ到達する日を楽しみにしています』
新たな柱――地下100階へ到達した迷宮の事だ。
ゼオンが3つの迷宮を限界まで拡張させており、ガルディス帝国を滅ぼす為にイルカイトの迷宮を使い捨てにした。
そこでアリスターの迷宮を地下100階まで拡張させたため、現在の世界には3本の柱があった。
どこの迷宮が拡張されたのか分からないが、新たに4つ目の迷宮が限界まで拡張された。
「これがセレスの目的だ」
夢魔が集めた魔力を奪い、商業都市に渦巻いていた魔力を喰らう。
他にも何か暗躍していたのかもしれないが、大量に掻き集めた魔力を使って迷宮を拡張した。
「だが、迷宮を拡張して何をするつもりなんだ?」
「迷宮の拡張は手段に過ぎない。あいつの本当の意味での目的は――『柱を増やすことで迷宮主だけに与えられたスキルを強化すること』だ」
自分のスキルだから意識すれば【世界】が強化されたことが分かる。
当然、もう一人のスキルも強化されているはずだ。
「俺の【世界】やゼオンの【自在】は迷宮を限界まで拡張させた恩恵で手に入れたスキルだ。世界にある限界まで到達した迷宮の数が多ければ多いほど、その力は増していく」
と言うわけで【自在】の強化が目的でした。
いやぁ、【自在】と【世界】は本当にチートに設定させてしまいました。一応、ラスボスが相手なので決戦のプロットはありますが、大丈夫なのか分かりません。