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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第43章 呪乱商都
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第46話 吸呪の刃

 パスリルの体が一回り大きくなり、きつくなった服に隠れていない肌が灰色に変わるのが分かる。

 全身から溢れ出す力を制御できず宙に浮かんでいる。


「これが呪われる……呪われた力か、すばらしぃ……!」

「引っ込んでろ」


 上から蹴り落とせば地面に叩き付けられ、粉塵をまき散らしながら転がる。


「シルビア、何があった?」


 商業ギルドからここまで移動時間を短縮するため跳んできた。


「妙な短剣を使われました」

「詳細は?」

「時間がなかったので少ししか読み取ることができませんでした」


 【迷宮魔法:鑑定】は強力だが、さすがに見ていなければ発動させることができない。

 先ほども時間がなかったため名前ぐらいしか読み取ることができなかった。


「なるほど」


 だが、名前から凡その効果を推測することができる。


「【吸呪の刃】」


 素直に解釈するなら、考えられる効果は二つ。

 吸収(ドレイン)系の能力のように他者から体力や魔力を吸収するのが目的。呪いの力により何らかのリスクを背負う代わりに絶大な効果を発揮してくれる。


 そして、もう一つが……


「リスクを背負う代わりに、呪いの力を自らのものとする。その姿もリスクによるものか?」


 粉塵が晴れ、立ち上がったパスリルの姿は上半身の服が盛り上がる筋肉に耐え切れずに千切れ飛び、背中からは蝙蝠の羽に似た灰色の小さな羽が生えている。


「何があったんですか!?」


 友の変わり様にゲイツが慌てて掴み掛かってくる。


「どうやらルヴィアが溜め込んでいた呪いの力を吸収したようです」

「吸収!? そんなことをしても大丈夫なんですか?」

「どうやら制御はできているみたいですね」


 ルヴィアのように肉が延々と膨張することもない。膨張が止まったということは制御ができている可能性が高い。


「ただし、別の意味で大丈夫とは言えませんね」

「どういうことですか!?」

「あれは不可逆の変化ですよ」


 もう元の人間に戻れることはない。

 膨大な量の力を使い切るまで止まらない。


「チッ、そういうことを言っている間に!」


 パスリルが口を開けると、魔法陣が出現して魔力の塊が砲撃のように吐き出される。

 ドラゴンのようなブレス攻撃。ただし、狙いは俺たちではなく商業ギルドの建物へ向けられている。正確には避難し切れていない人々を一掃するのが目的だ。


 助けるよう依頼を受けた。


「ここで見捨てるのは俺の信条に反する」


 神剣を傾けてブレスの前に掲げる。

 刃の先に当たったブレスが滑り、空へと打ち上げられる。斬ってしまうこともできたが、後ろにいる一般人は余波だけで死んでしまう。確実に安全な方法で対処するなら反らす必要があった。

 そのまま神剣を持たない左手を突き出す。触手で出来た羽を動かして飛んできたパスリルの拳と衝突する。


「ガァッ!」

「獣みたいな奴だな。でも、意識はあるんだろ」

「……!!」


 パスリルの意識が左へ向けられる。

 直前まで気配を完全に隠していたシルビアに気付いて上へ飛び上がる。


「すいません」

「いや、いい」


 シルビアが謝ってくるが、俺は気にしていない。


「まだチャンスはある」


 強大な力を手にしたものの戦闘に慣れていない。商人であるため戦闘を見たことはあっても自分から戦った経験などあるはずがない。

 ただし、その欠点を補えるだけの力がある。

 空中にいるパスリルの指先から伸びた触手が鋭い爪に変わる。振り下ろされた触手の爪から10本の斬撃が建物へと飛ぶ。

 神剣を横に振って斬撃を発生させ、パスリルの爪から放たれた斬撃を打ち消す。


 パスリルの目的は、あくまでも大きな被害と混乱を生み出すことにある。俺たちの存在は邪魔ではるものの率先して排除するつもりはない。本能で完全に勝利することが不可能だと理解している。

 ただし、こちらも被害を抑える必要がある。


「防御は全て俺がやる。攻撃はお前がやれ」

「はい!」


 シルビアが地面を蹴って跳び上がる。ただ跳び上がっただけでは空中にいるパスリルには届かないが、空中を蹴って駆け上がることで追い掛ける。

 空中にいても追いつかれることを察したパスリルが高速で飛行する。向かう先は商業ギルドだ。離れた場所から攻撃しても届かないと理解して近付いている。


 シルビアも追い掛けているが、ギリギリ間に合わない。

 道具箱から先端に重たい鉄球のついた鎖を取り出し、商業ギルドの方に向かって投げる。


「【跳躍(ジャンプ)】」


 高速飛行するパスリルも速く到達した鎖。

 それを【跳躍】で先回りしてキャッチするとパスリルの方へ投げ付ける。

 自分の進路を邪魔する鎖を跳ね除けようと太くなった手を振るうパスリルだったが、鎖を叩いた瞬間に発生した衝撃によって吹き飛ばされる。


「呪い用の結界を生み出す魔法道具だ」


 鎖で囲った空間に結界を生み出すことができる。

 結界内では、あらゆる呪いを発生させることができず、呪われた存在そのものを弾いてしまう。当然、鎖そのものにも呪いを弾く効果があり、触れただけでパスリルを拒絶することができた。

 試すのは初めてだったが、高い迷宮の魔力を消費しただけの甲斐があった。

 鎖を念動力で操作して商業ギルドの一角を覆う。


「これでよし」

「あの、これは……?」

「そこにいれば安全ですから出ようなんて考えないでください」


 そこは肥大化したルヴィアによって破壊される前は大会議室だった場所。本来なら会長を決める為の会議が行われる場所で、多くの逃げ遅れた商人たちが取り残されていた。彼らには護衛がいても、この異常事態を逃げ出す勇気がなかった。


「……準備はしてきたけど、ケチらずにもっと用意すればよかったかな」


 初めて手にする魔法道具。効果も保証されていないのに余分な量を手に入れるはずがない。

 事前に用意していた分では大会議室を覆う分だけで精一杯だ。


「ま、パスリルの目当てはここみたいだからな」


 天井を見上げれば、飛んでいたパスリルが落下するように触手の腕を屋上に叩き付ける。


「ひぃ……!」

「おい、ここは安全なんじゃないのか!?」


 瓦礫が結界内にいる商人の近くに落ちてくる。


「安全ですよ」


 バチバチ、と爆ぜる音が上から聞こえてくる。

 対呪いに特化させているせいで呪いには絶大な防御力を誇るが、呪いを持たない瓦礫などはそのまま通過させてしまう。

 ただし、呪われた存在になったパスリルは結界内へ入ることができず力任せに突き破ろうとしている。


「足を止めている余裕なんてないでしょ」


 シルビアの蹴りが胸に突き刺さり、吹き飛ばされたことで結界から離れる。


「さて――」


 最終確認だ。


「依頼内容の再確認です」


 ゲイツの側まで跳ぶ。


「呪いの鎮圧とパスリル・トレイマーズの捕縛は両立しなくなりました。これは俺の失態です。報酬から差し引いてもらって構いません」

「無理なのか?」

「魔力が尽きれば止まるかもしれないと思いましたが、それは呪いのせいで不可能みたいです」


 パスリルの体そのものが生命力を吸収していた触手に変化したような状態だ。

 無尽蔵に周囲から魔力を吸収している。空気中にも魔力はあるため吸収能力がある内は尽きる心配がない。それよりも攻撃の為に接近しているシルビアは吸収能力の影響を受けている。魔力の多さのおかげで無事だが、いつまでも戦い続けられる訳ではない。

 もう呪いを止める方法は一つしか残されていない。


「パスリルごと消滅させます」

「……それしか方法がないのか」


 ゲイツが拳を握りしめる。

 そこまで友が追い詰められていたことに気付けなかった自分を嘆いていた。


「そこまで責任を感じない方がいいですよ。パスリルの意思だけの問題ではありませんから」

「……どういうことです?」

「呪いから守る為の魔法道具……いいえ、呪具が関係しています」


 パスリルは魔法道具だと思っていたようだが、呪いを防いでいたネックレスは間違いなく呪具だ。

 呪いから身に着けた者を守ってくれる。だが、身に付ければ身に着けているほど本人に破滅願望を与える。意思の弱い者では早々に自殺を選択してしまう危険な道具だ。

 呪いから守ってくれるのも、結果的には一時的なものでしかない。

 ただパスリルは意思が強かったのか、それとも呪具と適性が高かったのか分からないが、大勢を巻き込んでの破滅を考えるようになっていた。


「一つ教えましょう。あの呪具を渡した人物はいます」


 【迷宮魔法:鑑定】の対象に出来る、ということは迷宮産の呪具ということだ。

 そして、渡した犯人にも心当たりがあり、ノエルが全力で探している最中だ。


「あんな危険な呪具を渡した相手はいます。どうしますか?」

「……追加料金を支払う。そいつも含めてパスリルや呪具を処分してほしいです」

「承りました。きちんと呪具も処分しましょう」


 結界の周辺で戦いを続け、今は屋上へ移動したシルビアとパスリル。

 魔法道具と呪いを併用して硬くさせたパスリルを相手にシルビアは苦戦しており、決定打に欠ける戦いを続けていた。


「ちょうどいい」


 タイミングよくアイラから救援の要請が入る。

『異世界コレクター~収納魔法で異世界を収集する~』コミカライズ!

第1話が更新されたので、よかったら読んでみてください。

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