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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第43章 呪乱商都
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第44話 呪血-後-

「あんた何者だ?」

「ただの冒険者」

「おいおい……さすがに俺だってこれが普通じゃないことぐらいは分かるぞ」


 イリスのしたことは一流の魔法使いでも難しい。


「とにかくあんたが来てくれて助かっ……どうした?」


 兵士には正体不明の相手を倒せたようにしか見えなかった。

 だが、イリスは未だに険しい表情のままだった。


「まだ、いる」

「え……」


 気付いた時には遅かった。

 建物の壁に付着した血が広がり、覆い尽くそうとする。


「させない!」


 イリスが手を向け、冷気を迸らせると建物が凍り付く。


「おおっ!」

「ダメだ……」


 近くにあった建物は凍らせることができた。だが、その奥にあった建物までには冷気が及ばず、真っ赤な血で覆われてしまう。

 血で覆われた部分が溶け、建物が崩れる。


「私の近くにいると危険だ。離れていた方がいい」

「へ……?」


 兵士には危険が未だに理解できていない。

 足を止めていると、急に目の前が暗くなったことに気付き、原因を知って後悔してしまった。


「げっ……!」


 視界を埋め尽くすほどの真っ赤な血。

 それが洪水のように押し寄せてくる。


「に、逃げないと……!」

「やっぱり前言撤回」

「ぐへっ」


 全力で背を向けて走り出そうとしていた兵士の襟を掴んで動きを止める。

 イリスから魔力が放たれ、巨大な津波となって押し寄せていた血を瞬く間に凍らせてしまう。


「チッ」


 動きを止めることに成功したイリスだったが、その口から漏れてきたのは舌打ちだった。

 兵士も次の瞬間には舌打ちの理由を理解する。


 激しく動いていた血は、凍らせる前にあちこちへ飛沫を飛ばしていた。

 それらがイリスの見えないところで血を広げ、建物を覆い尽くしてしまうと溶かして再び津波を発生させる。


 貴族の屋敷があった正面だけでなく、左右や後ろから津波が押し寄せる状況。もし兵士が一人で逃げ出していたら、逃げ場を失って飲み込まれていた。

 イリスの近くは危険だが、それ以上に安全な場所でもあった。


「おい、あそこにいる人!」

「どうやら、あそこは安全なようです」


 無事だった建物から人が出てきて、イリスの方へと駆け寄って来る。

 彼らは建物の中で襲われないよう隠れていたが、建物そのものも溶かされてしまうと知って慌てて飛び出してきた。

 そんなことを考えていたのは一人や二人ではなく、何十人といた。


「私の近くにいるのは構わない。けど、率先して守るつもりもないので勘違いしないように」


 上から降ってきた人よりも大きな血の塊。逃げている人を狙った物で、落下する先には高価な服を着た小太りの男性が走っている。

 男性も自分に向かって血の塊が落ちてきていることに気付き、慌てて逃げる。しかし、普段から運動をしていない男性の身体能力では逃げ切れない。

 涙を流しながら逃げる男性が、首だけを頭上へ向けると血の塊が氷の塊へと変化する。


「おお、助かった!」


 率先して守るつもりのないイリスだが、余裕があるのに見捨てるつもりもなかった。


「避けてっ!」

「がぁ……っ!」


 たった一滴。氷の塊へと変化し切る前に落ちた血の雫が男性の頭に落ちただけで、男性の体は真っ赤な液体へと変化してしまう。


「こんなのどうしようもない! 凍らせても、たった一滴残してしまうだけで新しい液体を生み出すなんて……」


 兵士が変貌してしまった人間を見て慄く。

 たった一滴の雫によって体積分だけ新たに真っ赤な液体を生み出すことになる。周囲にある物を全て余すことなく凍らせるまで避難することはできない。

 だが、事態がもっと深刻であることをイリスは見抜いていた。


「この戦い。このままだと終わらない」


 イリスが凍らせた血の津波も、別の血が触れることで凍っている表面も含めて新たな血へと変化してしまう。


「何人犠牲になった?」

「12人が溶けたところは見えた。他は知らない」

「そう」


 気付けばイリスの周囲に50人近い人数が集まっており、彼らを守る為にも次々と大量の血を凍らせていく。

 氷が血に変わるまで時間も掛かる。


 そうしているとメリッサから念話が届く。向こうにもイリスが苦戦しているのは見て分かるはずで、緊急を要するのは間違いない。イリスとしても打開策を求めてメリッサの話に意識を傾ける。


「『邪龍の血』?」

『そうです。そこで暴れている呪いは、そのような代物らしいです』

「まさかと思うけど……あの邪龍?」


 イリスには『邪龍』と聞いて心当たりがあった。

 かつて戦争に龍を利用しようと捕獲を試みた国があった。彼らの採った手段は、【闇属性魔法】でステータスを下げて洗脳するというものだった。完全な洗脳は難しくても、自分たちにとって都合のいい存在になる可能性はあった。


 だが、結果から言えば失敗した。ドラゴンは国でも凄腕の魔法使い数十人による魔法に耐え、【闇属性魔法】への耐性を獲得しただけでなく、自身も凄まじいまでの【闇魔法】を使えるようになった。

 その後、ドラゴンの憎しみは捕らえようとした国へ向けられることになった。

 そうしてドラゴンを利用した国は逆にドラゴンから狙われることになり、戦争どころではなくなって国の総力を挙げてドラゴンと戦うことになり、半壊するほどの被害を受けながらもドラゴンの討伐に成功する。


 歓喜に湧く人々。

 だが、伝説における悲劇はここからだった。

 国は忌々しいドラゴンを解体して生き残った人々に分け与えることにした。宴の席で振舞われた肉は盛況で、誰もが口にした。


 そして、宴会の翌日に国は自滅した。

 後に調査して判明したことだが、ドラゴンの肉体は死んでも呪われていたため肉を食べた人々は周囲にある『総て』を憎まずにはいられず、たった一晩で亡びるような破壊活動が行われた。


 今回、肉ではなく血が使用されている可能性が高い。


『霊薬を作成するのに高い効果を発揮してくれたのでしょうが、時間が経って浄化されていても呪いが残っていました。それが暴走させられた結果、そのようなことになっているのでしょう』

「どうすればいい!?」


 イリスは少しばかり切羽詰まっていた。

 大量の血に対処しながら核と呼べるような場所を探し続けているが、それらしい反応を捉えることができない。敢えて言うなら大量の血全てが核と言える。

 事態を解決するなら大量の血全てを一瞬で凍てつかせる必要がある。ただし、そんなことをすれば都市への被害は多大になる。

 伝説はイリスも知っていたが、まさか再現された伝説を相手にするとは思っていなかったため解決策など考えたことはない。


『ありません』

「え……」

『その時は、おかしなことになっていることを察知した周辺国が騎士を向かわせたようですが、防衛を固めた騎士たちは戦うことがなかったそうです』


 騎士たちは血のように真っ赤な人形が暴れているのを目撃した。

 だが、ある時を境に次々と真っ赤な液体へと戻り、大地を赤く染め上げることとなった。


「もしかして時間制限?」

『そう考えるのが妥当です』


 元々が死滅した肉から発生した呪い。自発的なものではなかったため効果時間も限られていた。


「やっぱりそれしかないか」


 メリッサとの念話が途切れる。

 どういった状況なのかは【迷宮同調】を通して理解している。できれば応援に行きたいところだが、そうもいかなくなってしまった。


「手段は二つ――暴れるのが終わるまで耐えるか、全てを凍らせてしまうか」


 チラッと後ろにいる人々を見る。

 恐怖に怯え、不安な顔を向けている。中には小さな子供もおり、イリスの良心に訴えかけられていた。

 彼らが何時間、場合によっては翌日まで耐えられるとは思えない。


 後者を選択することを決めると溜息を吐く。


「【氷神の加護】完全解放――【蒼氷羽衣(ブリザードローブ)】」


 蒼く輝く半透明なローブを纏う。


「――凍て付け!」


 都市を覆い尽くす勢いで冷気が広がっていく。

 今度は血の一滴だろうと残すことなく分厚い氷に覆われ、別の血によって溶かされることもない。


「壊さないよう避難して」

「あの、貴女は? 随分と体調が悪そうに見えますが」


 イリスの側まで避難してきた男性が声を掛ける。

 極大クラスの魔法を行使したイリスは魔力が枯渇寸前になったせいで今にも倒れそうなほど顔色が悪かった。


「とりあえず現状はどうにかしました。ここから先の事は自分たちでどうにかしてください」

「あ……」


 お礼を言わせる暇も与えずイリスが自分にとって最も安全な場所へと移動する。

 アリスターにある迷宮の最下層。ここなら誰かに襲われることもない。


『おかえり』

「何か事態に進展があったら教えて」


 挨拶をする迷宮核に一言だけ告げるとソファに寝転がる。

『異世界コレクター~収納魔法で異世界を収集する~』コミカライズ!

第1話が更新されたので、よかったら読んでみてください。

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― 新着の感想 ―
[一言] この呪いシリーズの解決は、今までの依頼金程度じゃまったく割に合わないな汗
[良い点] 被害があったとはいえ邪龍を討伐できる国とかすごいな!? [一言] 久々の迷宮核さん。なお出番は一言の模様(状況把握はしてるんだろうけども)
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