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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第43章 呪乱商都
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第43話 呪血-前-

 その日、レジェンスにある大きな屋敷では宴が催されていた。ただし、数十人が参加する大規模なものではなく、親しい間柄にある数人だけを招いた秘密の宴。

 レジェンスの商業ギルドの会長が決められる日。この国においては国王に等しい人物が決められる大事な会議。だが、レジュラス商業国の貴族たちは与えられた権限が少なく、会議に関わることすら許されていない。

 所詮は名目上の領主でしかなかった。

 侯爵や伯爵を名乗っている者もレジュラス商業国にはいるが、他国なら男爵と同程度の力しか持たない。

 だが、貴族には貴族なりの付き合いがある。


「今日集まってもらったのは他でもない」

「ようやく完成したのですね」

「ああ」


 侯爵が満面の笑みで頷く。

 手を叩くとトレイに真っ赤な液体の入ったグラスを載せたメイドが入って来る。彼女もメイドの格好をしているが、侯爵の信頼している人物だった。


「おお、これが……」

「はい。不老長寿の霊薬です」


 優秀な錬金術師を何人も雇って完成させた霊薬。

 多くの物が集まるレジェンスには禁断の素材とも言える代物が流れてくることがある。それらを秘密裏に回収し、どうにか作らせることに成功した。

 誰もが望む効果を齎してくれる霊薬なら高値で販売することができる。レジュラス商業国では金を保有していることは権力以上の力を持っている。だが、彼らはレジェンスで販売するつもりはなかった。


「この国の商人たちは意地汚い。貴族の私たちでも搾り取られてしまうことでしょう」


 彼らの目的は、他国へと持ち込んで貴族として迎え入れてもらうこと。爵位は今よりも低くなってしまうだろうが、それでも待遇が良くなることは間違いない。

 霊薬の作成にあたって出資してくれた商人もいる。彼らを裏切ることになるが、貴族たちにとって商人の全員が敵に等しかった。


 商人の言葉を借りるなら――騙される方が悪い。

 非合法な研究だったため正式な契約書も交わしていない。


「ですが、よろしいのですか?」


 霊薬の注がれたグラスが人数分用意されている。どう見ても自分たちで飲むつもりでいた。


「この薬を飲んだところで不老不死になれる訳ではありません。ですが、私たちのように苦境にいながらも国の為に戦い続けた者こそ今後も精力的に働くべきだと思いませんか? その為には老いた体など必要ない」

「……そう、ですね」


 霊薬を飲むことが怖くはある。

 それでも、自分たちを今まで率いてくれた侯爵を信じて霊薬を飲み干す。


『おおっ!』


 目の下にあった弛み、皺が出てきた肌、薄くなった髪。

 年齢を経るに連れて変わってしまった姿が若い頃を取り戻していた。


「噂は本当だったようですね」

「あのプリスティル商会の主が不老不死の霊薬を所持しているという噂ですな」


 いつまでも若い姿を保ち続けるルヴィア。一時は表舞台に出てこなくなったことから貴族たちの間ではそのような噂が広がっていた。

 実際は完成していないが、ルヴィアが似たようなことをしているため間違いとも言えなかった。


「今日は商人連中の目も会議に向けられている。私たちがいなくなったところで誰も気にしないだろう」


 貴族の事を気にしていない証拠だったが、彼らにとっては好都合だった。


 ――パリン!


 手にしていたグラスが地面に落ちる音が響く。


「興奮しているのは分かるが、グラスを割るのは良くないぞ」

「ちが、い……ますっ!」


 体を抱いて蹲る貴族。

 最初は一人だけだったが、次々と同じように苦しみ出す。


「そんなはずは……」


 侯爵は霊薬のせいだと思い、自分も飲んでしまったグラスを見る。

 事前に問題がないことは奴隷に飲ませて確認済みで、その奴隷も経過を観察した後に秘密を厳守するため処分している。

 ついには侯爵の体もガタガタ震え始める。


「なに、が……!?」


 侯爵は何も知らないまま生涯を閉じることとなる。

 霊薬は完成していた。しかし、その製法は呪われた龍の血の使用を前提としたもので、都市に混乱が起こることを望む神によって与えられたものだとまでは知らなかった。


 ただし、薬そのものに大きな問題はなかったためパスリルが暴走させなければ彼らの計画は成就していた。



 ☆ ☆ ☆



「う……」


 呪いによる被害が発生した場所に駆け付けたイリスは吐き気を催すような光景に思わず口を押えてしまう。


 事前の情報によれば貴族の屋敷があった場所。そこに屋敷は既になく、真っ赤な粘液が間欠泉のように絶えることなく溢れてきていた。

 屋敷の中心で佇む7人の人の形をした『何か』。

 7人の外側では、同じように人の形を数十体が駆け回り、逃げていた人々に噛み付き、爪を刺して攻撃していた。


 ひどく獣的な攻撃方法。

 それでも酷いダメージを受けた人々が倒れ、体内から溢れてきた血に体を真っ赤に染め上げる。

 そうして襲った側と同様に真っ赤な体に変貌すると、襲われた人間も無事な人間を求めて徘徊を始める。


「た、助けてくれっ!」


 槍を手にした兵士がイリスの姿を見つけて後ろに隠れる。

 その声に反応して5体の人形が駆け寄って来る。


「まあ、いいけど」


 助けるつもりで駆け付けたため助かるのは構わない。

 ただ、力のない人を助ける兵士が助けを求める状況に呆れてしまった。


「【氷壁(アイスウォール)】」


 5体の前に氷の壁が出現する。

 真っ直ぐ人を襲うことしか考えられない真っ赤な人形は壁に衝突して液体を氷の壁にぶちまけることとなる。


「無駄だ」

「どういうこと?」


 一度は氷の壁に付着した真っ赤な液体だったが、滑るように地面へ移動すると再び人の形に戻って氷の壁を迂回し始める。


「あ、あいつらは槍で串刺しにしてもああいう風にして起き上がってくるんだ」

「そういうことは先に教えて」


 空中に先端の尖った氷柱が生み出される。

 地上にいる生きた人間を襲うことしか考えられない真っ赤な人形は自分を狙っている上空の氷柱に気付くことができない。

 5本の氷柱が一斉に5人へと向かい突き刺さる。

 槍と同様に氷柱であろうと串刺しにされても再び形を取り戻す。


「凍った……?」


 しかし、再び形を取り戻すことはなかった。

 氷柱に串刺しにされた真っ赤な人形は表面を霜に覆われて動かなくなった。


「見たところ液体だったみたいだから凍らせてみたけど、上手くいったみたいでよかった」

「失敗したらどうするつもりだったんだ?」

「その時は別の方法を考えるつもりでいた」


 イリスと兵士に狙いを定めていた5体を凍らせることに成功した。

 ただし、そのせいで離れた場所にいた真っ赤な人形からも意識を集めることとなる。

 それらの向こう――貴族の屋敷があった場所の近くにいた真っ赤な人形の1体がイリスを見て口元を歪ませる。


「ひぃ……!」

「……笑っている?」


 笑みを浮かべる人形。

 不気味に思いながら近づいてくる真っ赤な人形へ対処する。


「――【絶対零度の零(アブソリュート・ゼロ)】」


 一瞬にして氷点下へと変わった世界で接近していた人形だけでなく、屋敷に残っていた人形すらも氷に覆われて動きを止める。


「この世界では、私が敵と見做した者は誰も動くことができない。永遠に凍て付いていろ」


『異世界コレクター~収納魔法で異世界を収集する~』コミカライズ!

第1話が更新されたので、よかったら読んでみてください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 本当に一切の変調の無い完全な不老不死の霊薬があるならば、自分で使うかもっとも高値で買ってくれる王様とかに売るわな。
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