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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第43章 呪乱商都
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第35話 依頼の優先順位

『シルビア!』

『はい』


 名前を呼べばシルビアがゲイツを投げ渡してくれる。


「へ……?」


 投げられたゲイツを肩に担ぐ。荷物扱いしてしまうことになるが、我慢してもらうしかない。


「ちょっと静かにしていてくださいね」

「ま、待っ……!」


 ゲイツの言葉を待たずに建物から飛び出す。

 十分に離れた所でシルビアと共に足を止めて振り向けば肥大化した肉塊が建物から飛び出してきた、いや、溢れてきたと言う方が正しい。


「マズイな」


 肥大化を続けているということは、肉塊から伸びた触手が人を襲っている可能性が高い。人を襲えば、それだけ力を得てさらに多くの力を得ようと自分の体を大きくしようとする。

 自然に止まることはなく、膨張を続けることになる。


「待ってくれ!」


 止まったことで休憩できたゲイツが叫ぶ。


「なんですか? 今すぐにでもここを離れた方がいいんです」

「あそこには多くの人がいるんだ」


 商業ギルドの建物には何百人もの人が働いている。

 運営を行う職員、都市の治安を預かる兵士。

 国家の中枢での事件は兵士も想定外で、対応に四苦八苦している。それでも俺がしたように職員を抱えた兵士が建物から飛び出してくる。その後ろからは触手が迫ってきており、必死に逃げている。


 敷地から出たところで触手の動きがピタッと止まる。

 どうやら今のところは動ける範囲に限界があり、敷地の外にまでは出ることができずにいた。


「ここにいても結構ですが、できるだけ離れた方がいいでしょう」

「あなたは……?」

「私にはまだやることがあります」


 迷宮主の高いステータスが兵士と職員の言葉を拾う。

 兵士は避難させた職員を下ろすと、再び肉塊のいる建物へと戻っていく。建物内にはまだ多くの人が取り残されている。彼らを脱出させる為に建物内へと戻った。

 危険極まりない行動だが、それが彼らの仕事だ。


「俺たちも避難しますよ」

「待ってください。私には商業ギルドの幹部として彼らを助ける義務があります。この状況を放置して逃げるわけにはいきません」


 幹部としての責任を誇示する。

 だが、俺には全く関係のない話だ。


「あなたは自分が保護対象だということを認識していますか? さすがにこんなに危険な場所で自由行動を許可するわけにはいきません」


 暗殺者に狙われている程度なら行動の自由を許し、誰かが近くにいることで身の安全を保障することができた。

 しかし、呪術の暴走によって肉塊が膨張を続けているような状況では安全を保障することができない。

 護衛を優先させるなら、無理矢理にでも離れる必要がある。


「貴方たちならどうにかできるのではないですか?」


 ゲイツからの問いと同時に先ほどとは別の兵士が職員を抱えて建物から飛び出してくる。しかし、もう少しで敷地から出られる、という所で触手に貫かれて生命力を吸い尽くされてしまう。

 避難させられた職員は恐怖から腰が抜けてしまい、這うようにして触手の範囲から逃れることができた。だが、兵士は犠牲となってしまった。

 こんな調子では、犠牲者が増え続けることになる。

 事態を解決するには元を断つ必要がある。


「――方法によりますね」


 事態の解決はできる。

 問題は、『何』を以て事態は解決されたと見るべきか。


「まず、あの肉塊は消滅させる必要があるでしょう」

「それは……」


 肉塊はルヴィアの体が膨張した結果だ。その肉塊を消滅させてしまうということはルヴィアを消滅させてしまうことに等しい。このような事態になってしまったため許されるかもしれないが、同じ会長候補だった者が消滅を頼むのは後々に問題となってしまうかもしれない。

 それでも、しなければならないことだ。


「……やってほしい」


 理解したうえでゲイツは決断した。

 ただ、それでも足りない。


「俺に依頼を出す。その意味を本当に理解しているんですか?」


 冒険者に依頼を出す。

 しかも、依頼を受ける相手を指定することができる『指名依頼』を冒険者ギルドを介さずにする。報酬は両者の合意によってのみ成立し、依頼を出す者は納得するだけの報酬を用意しなければならない。

 冒険者ギルドを介さないとトラブルに発展し易く、報酬の支払いを依頼者が出し渋ったばかりに冒険者が依頼者を殺してしまった場合もある。

 だから基本的に冒険者ギルドを介した方がいい。

 たとえ今のように緊急事態であっても冒険者ギルドを通してくれた方が確実だ。


「先日の捜索依頼で理解してくれたはずです」

「もちろん理解している」


 ゲイツが収納リングから契約書を取り出し、ササッと契約内容の追加とサインを書いた契約書を2枚渡してくる。


「随分と都合がいいんですね」

「先日の件で私も学んでいるんです」


 必要な事だけ記入しておき、後から契約内容の追加ができるようにしてあった書類を用意しておく。

 今みたいな緊急事態にも対応できるようにしておいた。


「契約内容は把握しました」


 控えだけを残してゲイツに返す。


「それで、いいんですか?」


 声がした方を振り向く。少し前から離れた場所で魔力が活性する反応は感知できていたため誰かが転移してきたのには気付いていた。

 そして、感知していた魔力は先ほども感じた魔力だ。


「パスリル・トレイマーズ」

「貴方たちの存在はイレギュラーでした。だから手を講じて帰ってもらおうと思ったのに、逆に留まることになってしまったのは意外でした」

「最初に毒を混入するよう指示したのはお前か」

「ええ。間に何人も介しているため私に辿り着くのは難しいでしょうが、私が依頼しました」


 たしかに危険があれば避難する。

 ただし、力を持つ者として見下されたままなのを放置するわけにはいかない。


「何らかの方法で俺たちに言うことを聞かせられる、なんて思わせておくわけにはいかなかった。だから相手を捕らえることができなくても、相手の目的を挫くぐらいのことはする必要があった」

「なるほど。帰ってほしい私の思惑に反するなら、十分な効果があった訳ですね。こうして最大の障害になろうとしている」


 ただし、それも今日までの話だ。

 相手の目的が分からない状況では、自分たちが狙われた理由はゲイツとの繋がりぐらいしかないだろうと判断した。だからこそゲイツの近くにシルビアを置いて、自分たちが今も近くにいることを相手にアピールしていた。


「私の目的は言ったはずです。このレジェンスで大きな混乱を起こす――最も大きな混乱を引き起こせるのは今日、という日です」


 たしかにそうかもしれない。

 国の実質的なトップに立つ人間を決めようとしている日に騒ぎを起こせば混乱は必至になる。

 だけど、少しだけ違和感があった。


「違うだろ」


 それはゲイツが知っていた。


「お前が混乱を起こしたかったのは間違いない。けど、本当の理由は商業ギルドを壊したかったからだろ」

「……誤魔化せないか。ゲイツの言うとおりだ」

「……っ! お前は、何をやっているんだ!?」

「この国をガルディス帝国と同じような末路を辿らせる。あの国と同じくらい……いいえ、商人が多いせいで利己的な連中が多いからレジェンスの方が腐敗した人間が多い国を潰す」


 ガルディス帝国はゼオンの迷宮暴走によって壊滅した。

 人の営みがあった痕跡は残されているが、人が再び住めるような状況にはなく、復興に多大な尽力をしなければならない。その代わりにそれまであった利権が消滅してしまい、人々から新しく生活をスタートさせることができる。


「まさか……」

「この国で時代の権力者になろうとしていた人々が大きな罪を犯し、物理的にも崩壊したとなれば利権を維持できることなどできない」

「そこで、私が復興の指揮を執ればトップに立つことは確実になる」


 それだけじゃない。

 ゲイツをトップにすることが目的なら俺も利用されている。


「あの化け物を退治したのが俺なら、俺を雇ったゲイツの功績になる。それが最大の目的だな」

「だから、アレがもう少し破壊するまで待ってほしいんです。今は、まだ破壊が足りません」


 犠牲者は出ているだろうが、まだ数十人程度だ。

 それに建物も商業ギルドの一部が破壊されただけだ。


「悪いが現状での事態解決を依頼された」


 ゲイツからは現状を嘆いて化け物を消滅させるよう依頼された。

 これ以上の被害拡大は依頼の失敗に繋がる。


「――仕方ありませんね」


 パスリルも俺の返答が最初から予想できていた。


「私が用意しておいたのがアレ一つだと思わないでください」

『異世界コレクター~収納魔法で異世界を収集する~』コミカライズ!

第1話が更新されたので、よかったら読んでみてください。

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― 新着の感想 ―
[一言] そんな事をする位ならば、まともな商人達をまとめあげて悪質な商人を追放して、商業ギルドをまともな組織に改革すれば良かったよね。
[一言] 冒険者になってからというもの、ダンジョンマスターになる前も利用される人生で今もそうとはホント難儀な人生だな……一度厄払いでも受けた方が良いのでは? まあ恨みつらみ妬みといろいろありそうだけど…
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